侍16

スターリンの柳生軍団

1953年 ソビエト連邦 
ソ連国家保安委員会第三局 柳生新陰流ツングースカ道場に散乱していたのは、人の破片だった。

手足が、内蔵が、鎌とハンマーを組み合わせて作られた『共産刀』が、そして首が、四方八方に散っている。心ある者が数えたなら、首の数は五十にも上ろう。

これが、人民に戦慄と畏怖を以てその存在を囁かれた秘密機関、KGB柳生(YGU)の一拠点の有様であろうか。

命ある者は、もはや僅か二人。
血まみれで喘ぐ男は、柳生ルイセンコ忠景、この道場を預かる師範代。もう一人、息一つ乱さず立つのは、荒事には似合わぬ端正な顔立ちの若者。その手には刀が一振り。

「なるほど、一刀流も二天一流も来ぬ地ではこのカカシ達でも役に立つか。この合理的な怠けぶり、あの人らしいな」

若者は一人呟く。そして、そのまま刀をルイセンコに向けると言った。

「お伝え願いたい。三百年ぶりに、友矩が稽古を付けてもらいに顔を出したと。我が兄、十兵衛に」

(続く)

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