あいてるよ
長いこと生きてきた。いろんな経験もした。それでもふとした時にふいに穴に落ちる。
何気ない言葉が心にグサリと刺さって抉っていく。そしてもう何もかもが嫌になる。逃げ出したくなる。
若い時なら経験が少ないから、心が鍛えられてないから、なんて言えるけど、この歳になっても同じ。心を鍛えるって体を鍛えるようには簡単にはいかない。でもこの歳になって思うことは、鈍感にはなりたくないな、ということ。
心が敏感だからこそ他者の痛みがわかる。共感できる。傷ついた人に寄り添えるのだ。鈍感になったら「そんなの大したことない」とか「もっと強くならなきゃ」なんて言って終わりだろう。でもわたしはそういう人間になりたくない。
タイトルの言葉は本当に些細な思い出なんだけど、中学生くらいの時、初めてお小遣いをためてスカートを買った。前にも書いたけれどわたしは体が弱くてそれで母はわたしに半強制的にズボンばかり履かせていた。もちろんその後スカート履くこともあったけど自分で選んだスカートはやっぱり別物くらいの輝きがあった。
早速履いてルンルンしながら外を歩いていたら、あるお店の前を通り過ぎた時、その店で何か作業をしていた男性が言った。
「彼女! スカートの後ろ、あいてるよ!」
衝撃だった。
たしかに後ろのファスナーが下がっていたのだ。家を出てからかれこれ20分くらい。わたしはずーっと開けたまま歩いていたのか。
羞恥心と共に深い絶望感に襲われたのを今でも覚えている。外出先は学習教室だったのだが、もうそこにも行きたくない。このまま消えてしまいたい。本気でそう思った。スカートを買った時が天国ならこの時は一気に地獄までつき落とされたような気持ちだった。
大したことないことなんだけど、けれど今でもその時のひどい絶望感を覚えている。もちろん教えてくれた人には何の罪もない。誰も教えてくれなくても自分で気づいた時にきっと同じくらい凹むだろう。あの頃はひとつの失敗がもう命と同じくらいの重さがあった。
同じことが今起きたらまあ確かにそれほどダメージはないだろう。でも例えば全身高額なブランド品をまとい、著名人も多く出席しているパーティーに得意顔で出席している時に言われたら……。
やっぱり消えたくなるかもしれない😅
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