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king gnu以外の常田大希を楽しむ

流行りを深掘りする楽しさ
~king gnu以外の常田大希を楽しむ~

今幅広い層で話題になっているアーティスト“king gnu”。リーダー常田大希を筆頭に活動する四人組ロックバンドだ。2019年に放送された「イノセンス冤罪弁護士」(日本テレビ)の主題歌となった「白日」で一気にその名を知らしめた。その後2020年1月15日に発売された3rdアルバム「CEREMONY」は驚異の12曲中7曲がタイアップ曲という前代未聞のアルバムとなった。今では音楽番組に限らず、CMを見れば何かしらの曲がかかっているほどにお茶の間にも浸透した。

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しかし、聞き手(大衆)である私たちはking gnu常田大希が提供するエンターテインメントを楽しみきれているだろうか。彼のクリエイティブな面を楽しむにあたって、King gnuの白日や飛行艇、アルバム「CEREMONY」だけをリピートするだけではあまりにも勿体無い。また、king gnuの曲を網羅して常田大希を味わい尽くした気でいる人たちに向けて、今回は彼のソロプロジェクト「millennium parade」,そしてアート集団「PERIMETRON」の存在にスポットを当てて、king gnuという今や誰しもが知るアーティストを常田大希というクリエイターを通して深掘りたい。

常田大希ソロプロジェクト~millennium parade~

東京藝大でチェロを専攻し中退。その後、前進グループのSrv.Vinchiを結成。現在のKing gnuのリーダーであり、作詞作曲、ギターボーカルを担当している。ほぼすべての楽器を演奏することができ、すべてをこなしてしまう天才。そんな彼が手掛ける、様々なクリエイターを巻き込んでいるプロジェクトがmillennium paradeだ。king gnu結成時からこのプロジェクトは構想されており、2019年5月のワンマンライブで本格的に始動した。世界から見たTOKYOサウンドの展開、日本から何をもっていけば面白いかを追求している。ちなみにKing gnuのドラムの勢喜遊とベースの新井和輝もメンバーの一員である。まだまだメディア露出の少ない彼らだが、一体どんなルーツやマインドで活動しているのだろうか。King gnuとの違いは?そして常田大希は何を考えているのだろうか。

存在意義  king gnuとの違い

King gnuは日本の音楽業界での活動を意識したグループであり、言わば意図的に大衆的な作品を作っている。しかし、常田大希の音楽のルーツはそこではないのだ。以前、love music(フジテレビ)という音楽番組に出た際に、自身の音楽ルーツを紹介する機会があった。そこで彼は、2018年アルバム「DAMN.」でピューリッツァー賞を受賞した、HIP HOPの新王者ケンドリック・ラマー「HUMBLE」、荒井由実「翳りゆく部屋」、それぞれのメンバーが違う役割を持ち、作品制作を重要視して活動するブロックハンプトンらを上げている。また雑誌highsnobiety04では、パンクジャズやトリップホップなど様々なジャンルをミックスさせるイギリスのバンド、キングクルールは活動の壁がなくて好きと発言している。彼が影響を受けている音楽、ルーツミュージックはまだまだあるだろうが、このように探って見ると彼が今までにやってきたこと、やりたいことや今後の展望などが見えてくる。しかし、日本で展開するJ-POP以外の音楽はどうしても商業的規模が小さくなってしまう。そのため、知名度とお金がなくては実現するのは難しいのが現実だ。つまり極端な話、king gnuとは常田大希が本当にやりたいことを実現するための装置であり、millennium paradeこそが彼の表現したいプロジェクトなのだ。

野望

そんなmillennium paradeが目指すのは世界基準で活躍する日本ミュージシャンだ。これに関して常田大希は、「坂本龍一さんや久石譲さんのような映画音楽という側面で世界的に評価されている音楽家はいるが、日本から世界基準の音楽を作っているミュージシャンはいない。」と語った。何をもって成功と呼ぶかという基準はない。しかし、babymetalやone ok rockなど日本出身のアーティストが海外進出を果たす中、「世界基準で活躍しているミュージシャンは日本から出ていない」と断言した常田大希にとって、なにが世界基準で活躍するということなのだろうか。

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そんな常田大希が目指す一つの形としては、Comme des GarconsやYohji Yamamotoら日本のファッションブランドが80年代にファッション業界全体に与えた衝撃と同じように前例のない偉業を成し遂げる事だとした。Srv.Vinchi時代にも尊敬する表現者としてもComme des Garconsのデザイナーである川久保玲を挙げていて、枠にとらわれない自由さ、新しさを重視しているのが伝わる。

PERIMETRONの存在

king gnu含めミュージックビデオの制作やライブの演出を行っているのがクリエイティブレーベルPERIMETRONだ。メンバーはその時、その時に作り上げる作品によって異なるが、主に常田大希が思う同世代の“イケてる”奴らで構成されている。king gnu「Player X」のアートワーク、ミュージックビデオも担当している。

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その他にもファッションブランドやバンドのミュージックビデオ、ポップアップの空間デザインなど幅広い活動を行う。サブタイトルは「give us money. we are cool.」(かっこいいものを作るから、金をよこせ。)とかなりインパクトのあるメッセージ。 様々なスキルを持った20代のクリエイターで構成されているクリエイティブレーベルだ。その主催者であり、メンバーの一人として「音楽家」常田大希も参加している。楽曲制作から映像作品までを自身のCrewで行うという動きは先ほど挙げたブロックハンプトンの影響も垣間見える。そんな彼らは2020年5月にリリースされた、NETFLIXにて独占配信されているアニメ「攻殻機動隊」の主題歌となっている新曲「Fly with me」のMVの制作も担当している。


3Dビジュアルエディター神戸雄平佐々木集らを中心に制作に半年以上かけ、コスト的にも相当力を入れて作った今までのPERIMETRONの集大成のような作品だ。全編3DCGで制作されている今作は「金が世界を回す」というメインテーマに、大友克洋の代表作にして80年代の名作アニメ「AKIRA」のオマージュや香港の屋台街の世界観、ジブリをモチーフにしたようなキャラクターなどがミックスされた独特の世界観を感じることが出来る。この「金が世界を回す」というメッセージがking gnuで稼いだ金がこの妥協のない完璧な作品を作ったというHIP HOP的皮肉にも聞こえる。一度見れば一気に世界観に引き込まれ、そして「表現者」常田大希らが伝えたいことは何なのかを考えるうえでもぜひこの作品は見てほしい。


常田大希とmillennium paradeの展望

2019年はking gnuはもちろん、millennium paradeの本格始動もあり、常田大希にとって激動の一年だった。音楽番組をはじめ、多くのメディア露出に伴って作品制作にかける時間が疎かになってしまったと感じている印象があった。メディアでも2020年は一度、冷静さを取り戻すために初心に帰り、自分が作りたいものをじっくり見つめ直したいという発言を度々耳にした。その一方で、今後挑戦したいことの一つにmillennium paradeとオーケストラの共演という前例のないカルチャーのミックスを挙げるなどクリエイターとしての熱は増す一方だ。今回はking gnuファンにこそ知ってほしいmillennium paradeとPERIMETRONそして表現者としての常田大希について記した。名刺代わりとなる1stアルバムの制作や海外展開と今後さらに目が離せなくなるのはもちろん、クリエイティブレーベルという括りで彼らの活動に注目するのも面白いのでないだろうか。

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