無期懲役事案だけど中国で捕まった場合間違いなく死刑なので、これも立派な死刑ネタです。
　11月にちょっと時間ができたので裁判所に行こうと思っていたところ、ちょうど伊豆沖1t密輸事件の何進威被告の初公判があるということで行ってきました。一応事件があった当時、1tは史上最多みたいな感じで報道されていたので少し気になってましたし。
　ということで詳細をレポートしていきたいと思います。

注意事項１：他の傍聴された方に確認を取るなどしてできる限り誤りがないように努めましたが、一部聞き間違いや聞き取れずメモが抜け落ちた部分がある可能性があります。予めご了承ください。

注意事項２：本件については登場する共犯者が外国籍で国内での社会復帰の可能性がないことから、起訴済みの被告については全員実名で記載しております。

１、裁判官・被告・検察官等について

①裁判官について
裁判所：東京地方裁判所815法廷
裁判官：浅香竜太（裁判長）、佐々木淑江（右陪席）、金井千夏（左陪席）、裁判員6名（男女比は1:5　補充裁判員2名はどちらも女性）
日時：2021年11月11日　10:00～17:00
事件番号：令和元年(わ)171号東京地方裁判所

②被告と弁護側について
氏名：何進威（進のしんにょうの部分は点2つ。読みはホー・チンウェイ）
生年月日：1986年5月3日（月の分は不明瞭で聞こえなかった）
国籍：中国（香港在住）
見た目：童顔、短髪だが寝癖がかなりある。眉毛は太い。身長170cm代前半か。犯行当時はかなり体格がよかったらしいが公判時には細くなっていた。服装：上は灰色スウェットの上に紺色のブルゾン（UNION７６と記載）下は灰色スウェット
弁護人：鈴木他4人（男3女1）鈴木は眼鏡をかけた50代前後（推定）の男性。

③検察側
女性検察官×2（中年の眼鏡の人、若めの髪短い人）
・中年眼鏡が序盤、中盤からは若い方が担当
・証人尋問でマツナガという眼鏡をかけた中年の男性検察官が出てきた

④刑務官
・午前中は太った人と細めの眼鏡の人（開廷前に腰縄を解くのに手間取っていた）
・午後は別の2人に交代。

⑤傍聴席
・傍聴席は半分不使用で使えたのは２５か２６席。
・傍聴人の入れ替わりが比較的激しく満席になったことはなかった
・午前中はよくわからないが大学生っぽい人が多かった。
→一回目の休廷の際に話を聞いたところ課題？みたいな感じだった。

２，起訴状の内容

　被告人は共犯6人や氏名不詳者らと共謀し、6/2の午前3時から4時ごろに鳥島沖で覚せい剤1018.599kgを漁船に積み替え、翌6/3午後9時33分ごろ南伊豆町の弓ヶ浜付近で漁船から覚せい剤約439（438.972）kgを陸揚げして輸入し、残り約579(579.627)kgは船内に留まったままで目的を遂げなかった。（覚せい剤取締法違反、関税法違反）

３，被告側意見陳述

　この内容に対し当初「あっていると思うけどよくわからない」と被告はコメント。しかし、その後弁護側から弁護側は後述の経緯で覚せい剤であると知らなかったと主張。

４，検察側冒頭陳述

●共犯者との役割分担を下記のように説明
指揮役：何進威、チョイ・チーリン
漁船での運搬役（船組）：ワン・パオ、チョウ・ホーテン、チャン・ハオリン
陸上での陸揚げ役（陸組）：リン・チンスン、チェン・キンロン
犯行時に一向に同道していたもの（共犯者の身上の項で出てこなかったため不起訴・もしくは未逮捕と思われる）：W・T、C・P、S・Kの3名
C・Pがマレーシア国籍、ワン・パオが自称イギリス国籍、残りは中国or香港

●犯行の流れ
4月中→チョイが汽船ツボイを日本国内の企業より購入
4/23：何がW・Tに係留場所になる横浜の港を紹介してもらう
5/7：ツボイの代金がＪＩＭＭＹ（氏名不詳者）より前述企業に支払われる。
5/13：何、チョイが日本に入国（関空から）同時に日産ノートをレンタカー屋で借りる。
5/19：南伊豆町の手石新港を下見（写真あり）
同時期に横浜の港の係留代金12万円の支払いが氏名不詳者よりあり。（Rなる名称が出てきたが人名、企業名、通称名のいずれかと思われるが不明）
5/20：何、チョイがチェン・ポーアンと連絡
5/21：C・P、S・Kも下見
5/22：ワン・パオ入国
5/23：ツボイを横浜に係留。夜に何、チョイがワン・パオとワンの宿泊先のホテルで面会
5/29：何、チョイが今日入国したチョウ・ホーテン、チョウ・ハオリンと面会し打ち合わせ
5/29：江戸川区内で何、チョイがガソリン携行缶、水を入れるタンクを購入
5/31：船組3人と東京から横浜へ。その時にワンの携帯電話を回収。午後9時ごろ船組3人が出航
6/1：何が八丈島へ飛行機で羽田から移動し船組と合流。八丈島のガソスタで携行缶に給油。
その後船組出発。その後チョイと（本土で？）合流。
6/2：午前3時から4時に船籍不詳船から瀬取り。（海上保安官は午前2時35分に一度ツボイを見失う）
そのまま北上するも午前6時ごろにツボイがガス欠で漂流する。
午前9時に満作丸を雇ってW・T、チョイ、満作丸の船長とその息子が給油に向かう。
その時の費用の支払いは何が担当。
夜に手石新港付近につき待機、リンが三島駅にきて合流。チャンも静岡から南伊豆へ向かう。
6/3：午後9時ごろに陸揚げの準備に入る。9:33逮捕開始。
車で何とチョイは逃亡し日付が変わった0:52に東京着。ワンは町内を逃亡したが翌朝逮捕。それ以外は弓ヶ浜付近で全員逮捕。リンは海中に潜んでいた？
逃走中の車内で翌朝の香港行きの航空券を買う。
6/4：日付が変わったころにC・Pがボンゴ（もう1台の密輸用車両）がレンタカー屋に返却される。
早朝何とチョイがホテルで職質され拘束、同日夜逮捕。

●検察側の言う争点
・運んでいる荷物を覚せい剤と認識していたか
・実行部隊内での立場（＝司令塔だったか）
・計画性と組織性があったか
一番上が公訴事実の成否に、下の二つは量刑に影響するとコメント。

５，対する弁護側の意見

　前提として何は船に詳しい人として香港で生活しており、船のメンテナンス等を請け負って生計を立てていたとコメント。その上で、
・何がしたのは指示役がツボイを横浜から八丈島を経由して航行するのをサポートしただけである。
・2019年の来日は密輸の指揮のためではなく自分の誕生日祝いを兼ねた旅行で、旅行のついでで小遣い稼ぎのために船の整備や航海のサポートなどをしただけである。
・スマホに手石新港のほか伊豆半島にある港の写真が複数あるが、何は大阪観光をした後、指示役から伊豆半島にある港の写真を撮ってくるよう頼まれ、それをしただけ。
・遭難時の給油や救援もサポートの一環であり、何らおかしいものではない。
と主張。加えて、あくまでも理由は知らされないまま指示役から頼まれてやっただけであり、不自然に感じなかったのはあくまでも雇われでそこまで詮索しなかったから（タクシードライバーがお客さんから行き先を聞くが、なぜそこへ行くかを聞かないのと同じ）と主張。
さらに、
・そもそもツボイでは長距離の航行に向かない上に八丈島から瀬取りは物理的に無理。
・船を手配したのはＷ・Ｔで何がやったわけではない。
・そもそもデータ通信用の携帯しかなく指示役以外と連絡取れなかった。
上記の3点も補足していた。

７，検察側提示の証拠

　ちなみにすべての提示が終わらず、一部を省略して先に９の証人尋問を行っていた。また、個人的に1tの覚せい剤の写真にかなり興味があったため、それのみ別項で詳しく記載している。
・被告らの身上経歴と手配状況
・ツボイの写真
・何の入国状況（2016年に初めて入国、以降10回入国）
・入国時の何、チョイの写真
・捜査報告書（下田で海上保安官が何らを見かける）
・捜査報告書（ワンとかのホテルへ行った時の防犯カメラの写真、ガソリンの買い出し、宿泊先まとめ、ツボイ出港前に横浜のマックに行った時の防犯カメラの写真）
・携帯の写真やWechat、テレグラム等のログ
・ツボイ、満作丸の入出港情報
・陸揚げ時の写真、陸揚げ前の陸組の移動の写真
・荷下ろし時の動画
・チェンのケータイのテレグラム「22」「首領」、「高」「馬」らとのトーク
→内容はチェンが２２に新幹線の切符の写真を送る、首領からの警戒しろのメッセージ、荷下ろし時の積み込みの指示、車を降りる前にデータを消せの指示
・瀬取りに使った2台のうちボンゴは翌日C・Pが返却
・携帯が入っていたポーチの写真
・何の携帯の履歴、お気に入り（ヤマハの中古部品、保安艇の情報、香港水上警察のHP、他の密輸摘発のニュース）
・携帯の位置情報

８，覚せい剤の積み込み状況・荷姿（検察側証拠より）

　荷下ろしが完了していたものは23梱包で4梱包はハイエース車内、防潮堤のわきに8梱包、陸上の看板の下に11梱包が置かれていた。
　ツボイ船内には右舷の荷室に1梱包、前船倉に2梱包と土嚢袋２つ分、残りは操舵室内のトイレに25梱包あった。
梱包の構造はビニール袋に入れた段ボール箱２つをビニールシートでくるみ、梱包バンドをかけたような状態。段ボールの中に別のビニール袋で5袋に分けて入っていたようである。
末端価格は全部で374億502万5527.8円。一回に0.03g使用したとすれば3395万3330回分の使用量に当たる。

９，証人尋問（Iさん）

　主尋問を検察官マツモトが担当。
Iさんは海上保安官で犯行時の何被告の監視を担当。2017年11月に住民から海保に不審船から車に荷下ろしがされていて、調べたところその車を借りていたのが何であった。
　密輸のあった6/3当日は下田海保にある望遠鏡（倍率20倍）で被告をマークしていた。（満作丸に乗り込むチョイとの衛星電話の受け渡しについてが中心）

瀬取りの一般的な手法についての説明（過去に未摘発のものを含めて10件程度の捜査にIさんは参加したことがある）
①海外で覚せい剤を調達
②受け渡しをする海域までの移動方法の検討
③受け渡し海域から日本までの運搬方法の検討
④陸揚げ地点の検討
⑤日本国内の保管場所の決定
このプロセスが必要。
事前の準備としては覚せい剤と船、乗組員、陸揚げにかかわる車両と人員、保管場所の準備が必要。
・乗組員は1人では無理→荷物の受け渡し等のため
・乗組員がいくらいても船同士が会えなければ意味がないので陸上の指揮官が重要→指揮役が2船との連絡、受け渡し日時の調整、陸揚げ日時の調整に不可欠
・タイミングを計るのが大変
・瀬取りは難易度が高い一方、税関を通らず一度に大量の覚せい剤を持ち込める

スズキ弁護士から証人への反対尋問
・何と満作丸を見ていた時のアングルはどんな感じなのか？
・場所はどこか？　500メートル先からで本当に見えるのか？
　などが中心。あくまでも衛星電話であると明確に視認できたというわけでなく、形と一般的に使うとしたらという経験則を基にした判断である旨、受け渡しの部分については陰になって見えなかったとのことだった。

裁判員⑥からの質問：被告のマークは今回の時だけなのか？→他の来日時も通報以降は入国後の動向をマークしていた。
※ほかにも質問があったが前提条件が違ったのか取下げ。

１０，証人尋問（Aさん）

　海上保安官で被告の逮捕を担当。
6/3夕方(18:00ごろ)は相勤者と車の中から被告の動きを確認。
被告の乗ってたノートのナンバーは堺5xxわxx-xx（ナンバーは略、運転席に被告、助手席にチョイ）で、手石新港近くの駐車場にずっと止まっていた。
その後車はセブンイレブンに移動し20時前に再び戻ってくる。
相勤者がトイレに行くふりをして車が動いていないことを確認。
21:26に積み下ろし開始
21:33逮捕開始、その頃は弓ヶ浜近くの細道で待機
→1分ほどして手石新港へ向かうが無人なので弓ヶ浜へ向かう
その途中(21:37)ごろ被告のノートとすれ違う（川沿い右岸）。そのときかなりスピードが出ていた。

なお、弁護側からAさんに対する反対尋問は時間がかなり押していたこともあって翌日に延期となった。

１１，個人的な感想

　正直な話、被告側（特に弁護側）の説明についてはあまりにも不自然な感があり、さすがにこれが通るとは思えなかったです。何被告が日本国内での総指揮役といった感じで間違いないでしょうね。というより、何被告は薄々自分の罪を認めているようにも見えたのですがどうなんでしょうか。
　あと、やはり覚せい剤1tが気になったのですが、梱包単位での写真しかなかったのが残念ですね。よくある押収品をズラーっと並べる感じで見せられたら圧巻だったのでしょうが……。

１２，その他

　傍聴席の方を見るとかなりダレ気味でした。話を聞きながら傍聴席の様子も見ていたのですが、ほとんど寝てる人もいましたし……。あと、午前中なぜか女性の団体の方が結構多くて驚きました。若い女性の中で覚せい剤密輸事件がブームなのか？と思ってみたのですが、前述のとおり学校の課題だったようです。
　それと、午後になってからなのですが、何被告が休廷時間の終わりに、入ってくるたびに自分の隣の方にすごい頭を下げて挨拶していたのが印象的でした。気になったので隣の方に知り合いなのか聞いてみたのですが、違うようでした（証人尋問に出てきた海保の方の知り合いだそうです）。もしかして私のことを仲間だと思っていたのでしょうか……。
　何被告本人については、公判中不貞腐れた態度とかではなく、検察官の話を終始真剣そうな面持ちで聞いていたのと、裁判長からの問いかけに何度も凄い勢いでうなずいていたのが印象的でした。（この記事の掲載以前に無期＋罰金1000万円求刑でしたし）自分の人生がかかっていることを考えればそうならざるを得ないのでしょうけど。
　あとは、裁判員の方も手元の資料があるとはいえ、初公判はかなり駆け足気味だったので、本当についていけているのか不安でした。質問されていた方は多分流れに乗れているのでしょうが、これ自分が裁判員だったら絶対何か重大な部分を見落としそうだなと不安に思いましたね。あと被告だったら自分の言い分を聞いてもらえるのかも……。
　実を言うと重大事件の傍聴が（というより裁判員裁判の傍聴自体）初めてだったので、とても勉強になりました。今後も様子を見て近隣の裁判所に出没しようと思っております。

　最後までご覧いただきありがとうございました。

１３，追記

　ツイッター等の情報を見ると、求刑無期懲役＋罰金一千万円に対し、懲役26年＋罰金一千万円の判決が下ったようです。その後被告側・検察側双方控訴とのこと。（永乐东@mukah_singh　様のTweetより）