今年一年の刑事裁判を振り返る。

 こんにちは、アルトKです。
 2021年も残すところ数日となりましたね。ということで、今年の死刑事案の裁判について簡単に振り返っていこうと思います。


1,求刑死刑事件(第1審)が大荒れ

 今年第一審で死刑を求刑された被告は下記の通り。
・島津慧大(一審無期)
・盛藤吉高(一審死刑)
・小松博文(一審死刑)
・野村悟(一審死刑)
・久保木愛弓(一審無期)
 正直な話、盛藤が死刑回避で残りは全員死刑になると踏んでいたので、島津・久保木両名の死刑回避は非常に驚きました。
 島津については、障害の影響と計画性のなさを認定されての回避ですが、正直計画性がないとした根拠が最初の襲撃からすぐにつかまったというだけだったので、流石に強引すぎる感があると判決文を読んで思いましたね。あとは強殺認定がされなかったのも意外。どう考えても、死刑回避ありきの判断だったように思えました。
 盛藤については過去の判例(仙台のひき逃げ通り魔の大友誠治)との比較でそもそも死刑求刑自体ないと思っていたので、そこから驚きましたね。もう控訴審に入りましたが、個人的には破棄があり得るのではと思っています。
 小松については事案の重大さと前科があることを考えると家族間とはいえ死刑回避は難しそうに思えました。記憶喪失とはいえ知能に影響が生じたとかというわけではないようですし……。ただ、個人的には当時の記憶をもとに防御をしっかりできていれば、奥さんと不倫相手の落ち度を認定させることができたのではと思うと、少し複雑ですね。
 野村総裁は本当になんというか、仮に事実認定通りであったとしても本当に死刑相当か疑問ですね。正直検察のメンツのために死刑判決を出したのではといいたくなるような……。死刑選択の要因となった漁協組合長事件については被害者もグレーな人間であったわけですし……。控訴審で城尾哲弥元受刑者のように無期になっても全然おかしくないでしょう。
 久保木についても島津同様死刑回避が既定路線だったとしか考えられない判決ですね。正直な話、職能をフルに活かした犯行で計画性もそれなりにありましたし、死刑以外ありえないぐらいに思っていたので……。こちらも島津同様控訴審でひっくり返ってもおかしくない気はします。

2,控訴審・上告審も想定外の事態アリ。

 一審の求刑が死刑で今年控訴審、上告審のあった被告は下記の通り。
・平野達彦(被告側上告棄却、無期確定)
・陳(中村)春根(被告側・検察側控訴棄却、被告側のみ上告)
・川崎竜弥(被告側上告取下げ、死刑確定)
・肥田公明(被告側上告棄却、死刑確定)
・澁谷恭正(被告側・検察側控訴棄却、被告側のみ上告)
・上村隆(一審死刑に対する被告側控訴棄却・被告側は上告)
・武井北斗(被告側上告棄却、無期確定)
・筧千佐子(被告側上告棄却、死刑確定)
・中田充(一審死刑に対する被告側控訴棄却・被告側は上告)
 肥田・筧の死刑確定、平野・武井の無期確定、中田に対する控訴棄却は平野・武井の量刑が適当かは別として、まあ当然そうなるよねという感じですね。まあ、肥田については弁論がやり直しになるとか少しゴタゴタしそうな雰囲気がありそうでしたが。
 陳・上村の両方が控訴棄却となったのは想定外でした。どっちかに合わせると思ったので、陳の死刑回避が確定してからは上村も減刑が既定路線かなと思ってましたので。まあ、この2人については別記事でたくさん語りましたが、経緯を考えると死刑はおろか無期でも重すぎると個人的に感じますので。
 澁谷は正直自分の中ではかなり心証が悪かったものの、逆転死刑は流石にしんどいかという感じですかね。殺意かわいせつ目的の片方以外を認めていた内間(利幸)、君野(康弘)や公判中の小林遼と異なり全面否認で情状が最悪だったことを考えるとなんか釈然としないです。
 あとは川崎の上告取下げは本当に謎です。個人的には何を考えていたのか聞いてみたいですね。自分の運命を自分で決めたかったみたいな推測は納得できるのですが、それ以外の要因もないのかと……。あと思ったのはは、死刑囚表現展 2021の作品を見るに拘置所の待遇に不満があったのでそれが遠因になって取り下げたのか……とかですかね。ただ、その理由で取り下げた山田浩二が例外中の例外なんでそれはないか。

3,死刑執行について

 2021年12月21日に高根沢智明、小野川光紀、藤城康孝の3死刑囚に対するコロナ後初めての死刑執行がありました。
高根沢、小野川は確定から少し空いての執行となりましたが、小野川だけでなく控訴取下げで確定していた高根沢も再審請求をしていたようですね。ただ、細かい情状面に争点が限られていたようなので、あまり効果があったのか疑問ですが……。個人的には法務省としては再審請求中であっても容赦なく執行しますというアピールになったようですし、今後もその傾向は続きそうですね。
 藤城については、精神状態等を考えると執行が難しい死刑囚の一人だと思っていたので執行は本当に意外でした。それに同じ神戸地裁で裁かれた平野達彦が無期であることを考えると、そのあたりはちょっとタイミングの問題もあったのかなと思いますね。
 個人的に藤城の場合は、判決文等を見ると少なからず近隣住民との軋轢で藤城に対し同情できる部分が多少なりとあったので、発端がすべて加害者の妄想である平野と比較すると余計にかわいそうというかそのあたり不平等だなと……。

4,その他死刑事案以外の裁判

 傍聴した中で挙げるとするならば、伊豆沖1t密輸事件の何進威被告ですね。個人的にはどう考えても司令塔ポジションだと思っていたのですが、判決ではそうならなかったのもあってか有期刑に収まりましたね。   
 米子ホテル強盗殺人事件の石田美実被告の控訴審も個人的には注目していた裁判の一つです。個人的には第1次控訴審の無罪判決でも筋が通っているように思えたので、もう一度逆転差戻があるかと思っていましたが、結果は控訴棄却。上告審の動きにも注目したいですね。
 最後にこれも言及したいのですが、阪大生の爆破予告事件も個人的には注目していました。被告の身上もさることながら、彼の所属する架空の宗教団体とYoutuberとのトラブルという面もなんとなく話を知っていたので、傍聴券を取るために何度か地裁に赴きました(なお初公判・判決公判ともに外した模様)。正直実刑間違いなしと思っていたので、とにかく執行猶予がついてよかったですね。

5,まとめ

 皆様方のおかげで今年一年間いろいろ書き続けることができました。ありがとうございました。
 末筆にはなりますが、皆様のご協力に感謝するとともに、事件によって亡くなられた方、そして本年に死刑が執行された3死刑囚、獄死した高橋義博死刑囚、高橋和利死刑囚、岩森稔死刑囚のご冥福を謹んでお祈り申し上げます。


参考文献

デイリー新潮・「私はなぜ家族を殺めたのか」 日立妻子6人殺害事件 夫である犯人「悔恨の手記」
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/0320040/?all=1
デイリー新潮・「妻が最後に発した言葉は、娘の名前でした」 “無罪主張”の日立妻子6人殺害の父親が寄せていた手記
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/06080615/?all=1

短期集中連載 工藤會 野村悟総裁「独占獄中手記」【前編】【中編】【後編】
https://npn.co.jp/article/detail/05478798/
https://news.nicovideo.jp/watch/nw6136537
https://npn.co.jp/article/detail/27652935/

漂白旦那様「死刑囚リスト」、「無期懲役リスト2021年」
https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/cplist.html
https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/muki2021.html

デジタル鹿砦社通信・片岡健様「判決2日前の上告取り下げ」で死刑確定──面会室で見た浜名湖連続殺人犯の素顔
http://www.rokusaisha.com/wp/?p=38056

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