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South/iSland物語

SP篇外伝

NEO’s Story written by
第1章 Chinese Drive

1,Pre Startⅰ~ネオと白編~
2,Pre Startⅱ~朱と紫編~
3,いきなりくらいまっくすー ~王都祭開催~
4,料理大会 
5,いきなりくらいまっくすー ~王都祭~
6,覚醒
7,〔鏡壱〕~蓮と白~
8,〔鏡弐〕~Daisuke and Dark~
9,鏡蠱
10,〔鏡参〕~紫と闇~
11,〔鏡四〕蘇生
12,炎華
 [ to be continued ]

1,Pre Startⅰ~ネオと白編~

「火事だー!!」
火の周りが意外と速い。そういえば、ここの所、雨が降っていない。そして、その日はやけに風の強い日だった・・・。
・・・あっ!?

・・・うん?ここはどこ?・・・どうなった?
???
みんな?音が聞こえない。目が見えない。声が出ない。
「ざわざわ・・・」
「やだ、どうしたのかしら?」
次第に耳が聞こえ出したようだ。?みんなが僕を見てる。なんで?
あ、鏡・・・。服がボロボロだ・・・。焦げてる・・・。火、炎・・・火事?
「おい、火事はどうなったんだ!」近くの人に一生懸命に聞いた。しかし、
「なんだよ、火事なんてどこにも起きてないぜ!」という答ばかり。
「大丈夫ですか?」見知らぬ女性に声を掛けられた。そういえば、変な格好をしている。待てよ、変なのは僕の方?らしい。
「どうぞ、ついて来て下さい。いい医者知ってますから。えーと・・・」
そういえば言葉は通じるんだな・・・。
「ネオと呼んで下さい。名前。」
「あ、はい。ネオさん!変な名前ね。あたしの名前は蘭!」そういった彼女の笑顔は女神も参るほど可愛かった。
「蘭・・・。」変な名前・・・ね。

その娘に連れられて、医者(華佗老師というらしい)に診てもらったところ、「良くこんな重症で歩き回っていたもんじゃ」驚かれてしまった。牀(ベッド)に寝かされてから、冷静になってみると、体中に痛みが広がってきた。まいったなあー。さっぱりここがどこなのか分からないし。みんないなくなってるし。火事のことは誰も知らないって言うし。なんだ?せっかくゆっくり考えようとしているのに、外が騒がしくなってきたなあ。
「オラァ、今機嫌がわりいんだ!さっさと始めちまおゼ!オラ、どいつから来る!」
ケンカか?喧嘩らしいな。外に出てみるか。面白そうだし。
「あ、ちょっとネオさん!どこ行くのよ!」当然、蘭娘に止められる。
「喧嘩ですよね?外。」気にしない振りをして外を覗いてみる。この時、体は痛いはずなのにわざわざ外まで出て行ったのはどうしてだったのだろうか。虫の報せというヤツだったのだろうか。せっかく外に出たのに、もう喧嘩は終わっていた。3対1だったらしいのだが、3人が気を失っているようだった。そして、喧嘩に勝った一人の漢(おとこ)は颯爽とこちらの方に歩いてくる。その顔になんとなく見覚えがあると思ってじっと見ていると・・・
「白!」
「ネオさん?」
その後の二人の会話だけを書くとこうなる。
「本当に白なのか?ていうより、身長伸びてないか?全然別人みたいだ。」
「ネオさんは何にも変わっていねーなあ。この世界に来てからずっと探してたんだぜ。」
「ずっと?僕は今さっき、拾われたんだけど・・・。」
「拾われ・・・?今さっき?」
「そう・・・だけど。」
「オレはもう一年になるかなあ。うん、そんくらいだ。」
「はあ!?そんな・・・」
「まあ、あっちでゆっくり話そうぜ!人が集まってきちまったから」
「ああ・・・」
というわけで、医院に帰って来た僕らだったが、蘭さんには散々叱られるわ、傷口は開くわ(何でケガをしていたのやら)、白のことを「喧嘩屋」だと思ってなかなか中に入れてくれないわで大変だった。
 それから、いろいろ考えた結果、僕たちの頭では理解できないことばかりだった。
一体ここはどこなのか?
火事はどうなったのか?
白はなぜ僕より一年早く来たのか?
他のみんな(朱と紫)はどうなったのか?
どうやってここに来たのか?どうやったら元に戻れるのか?といった疑問が次から次へと浮かんできた。が、いつの間にか寝てしまっていた・・・。

・・・1ヵ月後
やっと僕の火傷も怪我も全快した。その間、暇をもてあました白はもっと強くなるために道場に入門していた。その道場は、蘭さんの父君が師範をやっている所で、当然彼女の紹介で入らせてもらったのだ。といっても仮入門なのだが。入門試験があるので、僕の体が完治してから一緒に受けることにしたのだ。白は乱暴者だが良い所もある。蘭さんはそこの道場の3人姉妹の二番目。全員娘なわけだが、皆とても強いらしい。上から順に楓、蘭、蓮というそうだ。僕が運び込まれた医院の医師、華佗老師はその道場のかかりつけの医師だったのだ。というわけで、僕と白は道場に居候させてもらっている。行く所も無いし、というよりここが何処なのか分からない(まだ彼女には言ってないが・・・言えるわけない)ので暫くお世話になることにした。

僕たちのことを見た蘭さんの父君は、怒るかと思いきや逆に喜んで
「蘭が男を連れて参ったと!それはめでたい!男嫌いの蘭がのう。何、しかも二人も!これはめでたい、めでたい!よし、今日は宴じゃ!お二人をご馳走で迎えよう!」
と言ってせかせかと僕たちを案内してくれた。何か勘違いしているような気がしたが、彼女が口に人差し指を当てて、「シー」と言っていたので、何も言わないでおいた。続いて、蘭さんの一家の紹介がされた。親子三代、そして親戚一家も住んでいて、割と大きな家のようだ。それだけの人数で大騒ぎをしたので、まるで何かお祝いがあったようだった。その日はお腹一杯ご馳走を食べさせられた。お酒も頂いたのだが、蘭さんの親子はいくら飲んでも酔わない、いわゆるうわばみ親子で、いつの間にか白と一緒に眠ってしまっていた。

「それでは入門試験を始める!どちらからなさる。」
いきなり試験ですか。二日酔いで頭がガンガンしているんですけど。僕らは次の日、入門試験に挑戦した。剣術、棒術、柔術、弓術、馬術などの中から、自分で得意な科目を選択していいそうだが、全く素人の僕はどうなるのやら。対して、一ヶ月仮入門していた白は自信がありそうだ。
「もちろん、オレから行くぜ。いいだろ?ネオさん?」
「勿論。僕はちょっと準備運動しとくよ。」
「じゃ。オレから。棒術で。」
「おーい楓!出番じゃよ。」
父君が大きな声で呼ぶとそこには、棒を持ってしっかりと道義に着替えた長女が入ってきた。続いて、蘭も蓮も同じように着替えて来ている。
・・・これはこれは、手強そうな・・・、と白は眺めていた。
いよいよ、試験の始まりである。一応、どちらかが先に二本取った時点で終了である。審判は蘭が務めるらしい。
「始め!」
白は、まずは開始早々の速攻で一本取るつもりであった。ドサクサ紛れの一本を狙っていたとも言えなくも無いが、喧嘩屋としては先制パンチを食らわしておきたかった。
 しかし・・・空しくも防がれてしまった。
 ゲッ・・・完全に読まれてらぁ・・・そう白が思った時にはもう頭に一発食らってしまっていた。
 その様子を見ていたネオは、「スゲー!」と呑気に感動していた。
「なんだ、くっそー!我ながら、よく考えたと思ったんだけどなあ。」
と白が起き上がりながら呟くと、ネオの座っている所の反対側から、
「今ので良く考えたじゃと、そんな頭では儂(わし)にも勝てぬわ。」
という声が挙がった。三女の蓮の声だ。
「なんだと、このジジイ娘!」
「そのような頭じゃから、勝てぬといっておるのじゃ。それよりもよそ見をしていて良いのか?試合中じゃぞ。」
「へ?」
ド――ン!
道場中に響き渡るような音を残して、後頭部に一発を食らった白はのびていた。
・・・容赦ない。ネオはもうあきれるというか、呆然としていた。
「さて、次!」棒を持った楓が良く響く声でそう告げた。
「ちょ、もう終りですか?」白を引きずるようにして、端に寝かせる。
「そう。その通り。」
僕、大丈夫なのか?と完全に自信を無くしてしまったネオはとりあえず、道場の中央へと向かった。
「じゃあ、僕も棒術で。よろしくお願いします」
「よろしく。」と楓はぶっきらぼうに応じてから、構えた。ネオも見よう見まねで構えてみた。そして、蘭の「始め!」という声が道場内に響いた。
 意外と、試合は長引いた。なかなかネオが攻め込まなかったというのもあるが、なんと楓の攻撃を何とか防いでいたのだ。
「わっ、たっ、たっ、どわっ、た!」とか言いながら、不思議な気分になっていた。体が勝手に動く。少しずつ体が何かを思い出している・・・。
「なかなかやるではないか。小僧。」蓮が白に近づいてきて声をかけた。
「小僧?ネオさんはオレよりも年上だぜ!」
「あやつのことではないわ。」
「オレ!?」小僧?・・・ガーン
カン、カッカーン!まだまだ、試験は続いている。
・・・
「フゥー、フゥー、ヘエー・・・。」
「ネオさん、ねばりすぎじゃん」
「逃げてばかりでは、勝てぬぞ!」
「んなこと言われても・・・」男よりも恐い楓相手じゃ、どう攻めたらよいのやら。
すると突然、「やめっ!」と師範が叫んだ。「今日の試験はこれで終りじゃ」
「え、お父様?まだ決着は付いておりませんが・・・」と審判役の蘭が声を出すと
「よいのじゃ、今日のはまだ試験じゃ。よいよい、二人とも合格じゃ!」
「へ・・・?」
「ぜってー不合格だと思ったぜ!」
と二人ともホッとしたような声を出した。そして、声を合わせて、「よろしくお願いします」と挨拶をした。
 それからは猛練習の日々が始まった。白に言わせて見れば、朝早えーし、腹減るし、足が痺れるし、まあ、学校行くよりはましかな。ってとこだそうだ。

2,Pre Startⅱ~朱と紫編~

3,いきなりくらいまっくすー ~王都祭開催~
 チュンチュン・・・ピチチ、チチ。
「朝じゃぞ。起きんか!」
「のわー!!」
「はようせい、出掛けるぞ」
「蓮かよー。なんだよ!オレはどこにも行かないぜ」
「よいよい。行くぞ!」

ピピピ、チチチ・・・。
「朝よー」
「蘭?・・・今日は朝練無いって聞きましたよ」
「いいじゃない。それよりさ、お祭り行こ」
「あー・・・?僕?」
「決まりね」

ピヨピヨ
「お父様、そろそろお仕度をしないと、王都祭が始まってしまいますよ」
「楓。すぐ行くから、待っておれ。それはそうと、蘭と蓮はどうするのじゃ?」
「蘭さんはネオさんと、蓮さんは白さんともう出掛けましたよ」
「やけに早いのう。そうかそうか・・・」
「さあさ、お母様が待っておりますよ」

コケッコッコーお? 遅いっちゅうに!寝坊?理由など聞いとらんわ!もう昼近くじゃ!
みぃーんミンミンミンミンッ!もう多くの蝉が鳴く時間になっている。
 
 朝、叩き起こされて、御飯をゆっくり食べてから、これまたゆっくり歩いて王都中心部にやってきた。中心部に近づくにしたがって、まだ始まっていないはずなのに、祭りの賑わいが次第に大きくなってくるのを感じる。
「王都祭」初代黄王がここ常安を王都と定めた日を記念して行われる祭りだ。現在は第12代黄王がこの国を治めているそうだ。都のさらに中心部に行くと王京が見える。王はそこに住んでいる。また、そこが政治の中心でもあり、有能な大臣たちと共に政務を取り仕切っている。つまり,王の住む場所は二重の門によって守られているともいえる。まあ王京の中にも、政務を執り行う所、宴会を催す所、王が日常生活を送るところという風に、いくつにも別れている。
それはさておき、王都には、四方に主要な門がある。僕と蘭は、そのうちの東門から入ったのだが、役人もみんな、ニコニコと笑顔で、正直、平和なのだと感じた。東門はそれはそれは豪壮な門で、僕はこんな巨大な門は今まで見たこともなかった。それは、建物で言うと、ゆうに3階分くらいの高さがあり、そこに、両側に開く、重厚な扉がある。それから・・・
「どうしたの?なにをさっきから、きょろきょろ見てるの?」
突然、隣にいた蘭から話し掛けられた。
「うん。初めて王都に連れて来てもらったからね、いろいろと珍しくって、つい」
「あら!はじめてだったかしら?」
と、驚きの表情をされてしまった。どうしてかなと思って、尋ねてみると、
「ええ。意外かな?」
「だって、あちこち旅をしてきたんでしょ。それに、あたしより、いろんなこと知ってるし、こういうところも、見飽きたんじゃないかと思った」
「そんなことはないよ。すごく楽しいし」
そうか・・・旅の芸人とか何とか白のやつが言ってたなあ、完全に異国の人間だと思われてい
たし、しょうがないけど。
「よかった」
そう言って、蘭はタタタターと少し小走りに走って、こちらを振り返った。
「あたしね、こういう祭りの雰囲気、だーい好きなの!」
顔いっぱいにあふれんばかりの笑みを浮かべて、そう言った。僕は周りの物音も耳に入らず、蘭の声だけを聞いていた。蘭のことだけを見ていた。
「ねっ早く行きましょう!もう始まってしまうわ!」
そういうと、ぱっと走り出した。そして、僕の耳に大きな太鼓の音が帰ってきた。

ドーン!ドコドンッ!!ドンッ!ドンッ!!
「ほれみい、始まってしまったではないかっ!」
「ほれみい、ってオレのせいかよ!」
「そうに決まっておろう!」
「決まっていない!オレは祭りに行くなんて一言も聞いてねー!」
「言ってないからのう」
「あのなー」
いきなり大ゲンカを始めているのは白と蓮の負けず嫌いコンビである。白たちが居候するようになってからは毎日、朝からこの調子である。いいコンビというか、似たもの同士というか。朝叩き起こされて、機嫌の悪かった白だったが、なんだかんだ言いながらもここまで連れてこられてしまった。まだ、東門に入ったところで、立ち止まっている。無論、痴話喧嘩をするためにである。

「お父様,今日は青龍さんは御祭を見には来ないのですか?」
「奴は今日は何か親友が来るとかで家に居る,って言っとったぞ」
「毎年楽しみにされていましたね」
「そうよね,あの子が小さい頃はいつも・・・」
「お母様,その話ばかり」くすくすっと笑いながら答える。
「うちは男の子ができなかったから,道場に来る男の子達のことが羨ましくてね」
「でも,楓が男の子みたいなんで,わしはうんざりじゃったぞ」
カラン,コロンと下駄の音をさせながら少しずつ,王都の中心へ向かう。中心に近づけば近づくほど賑わいが増して来る。様々な出店が,祭りの開始を告げる太鼓の音を,今か今かと待ち望んでいる。親子連れの人,恋人と歩く人,友達と連れ立って歩く若者。また,楓と同年代くらいの女の子達が固まって歩いて行くのも見える。まだ午前中なので,提灯には灯りは点けられてはいないが,それでも色鮮やかに街を飾っている。
 そして,いよいよ祭りの始まりである。

4,料理大会
 王都祭において毎年,東西南北の地区ではそれぞれ様々な催し物が開催されている。その内の一つとして、北門料理大会がある。その名の通り、北門広場で開催されていて,全国から,腕利きの料理人を集めて,料理を披露させている。審査員には毎年,王族の誰かが出席していて,もし気に入られれば,じきじきに雇ってくれることだってある。
さて、その料理大会に命の恩人の勧めで、出場している紫大助の姿があった。開会式が終わって,まずは一安心という所である。式では代表選手の紹介もあって,紫はずっと恥ずかしさと緊張で真っ赤な顔をしていた。紫は地元の代表なので応援がすさまじかった。
「やー,赤龍さん,王都ってすごいんだねー」
「にぎやかで楽しい所でござろう」
「あ、でも、迷子になったらどうしよう・・・」
「大丈夫でござるよ。王城内は,区画整理がきちんとされていて,自分の居場所を見失うってことは滅多に無いでござる」
「そういえば,道が直線ばかりだね」
「そうでござる。そろそろ,選手はいかなければならないでござるよ。拙者は友達を探してから,そいつと一緒に応援してるでござる。うん?心配でござるか?大丈夫でござるよ!困ったら白龍の言葉を思い出すでござる」
「白龍さんの言葉?」
——————えーと,なんだったっけ?一応,料理の師匠なんだよね・・・確か・・・
「おれ様が教えたんだから,負けんじゃねーぞ!!負けた時は覚えてやがれっ!!」
——————ブルッ,なんか寒気が・・・
「うん、がんばるでござる!」まだ,冗談でも死にたくないもんね。
「でござるよ!紫!」

——— 一週間前,州予選当日。司隷(司隷・・・特別区,都があるのでそう呼ばれている)校尉の役所前広場。各県の料理自慢に混じって,紫は出場した。もちろん最年少だった。州予選の前に県予選もあり,そのときは3位でギリギリ予選通過だった。そのあと,白龍にみっちり仕込まれて本番を迎えた。今度は一人しか選ばれないので気合いがかなり入っていた。
そして,2位に1票差でなんとかブロック予選への出場権を得た。奇蹟?

えーと,ここは,大きな広場に幕を張ってあちらこちらをいくつかに区切ったうちの1つの待合室みたいな所です。ブロック予選がいよいよ始まるので会場に移動したというわけです。何で幕が張っているかって?なにやら他のブロック予選の様子が見えないようにするためなんだって。カンニング防止?みたいなもんかな。ここで勝ち残れば,明日の本選に出られるというわけでーす。まず,12の州から1人ずつ選ばれる。そして今度は3人ずつ4つのブロックに別れます。これはくじ引きで決まります。ブロック予選の組み分けは以下の通りになりました。
第1組 幽州(公孫賛)北,并州(鮑信)北,兗州(劉代)中
第2組 司隷(紫大助)中,豫州(孔抽)中,益州(劉章)南
第3組 涼州(馬超)西,徐州(呂布)東,揚州(孫堅)南
第4組 冀州(袁紹)北,青州(陶謙)東,荊州(劉表)南
以上のように紫は第2組に入ったので,第1組が終わるまで待機なのだ。一応,料理道具をそこにあった長椅子の上に下ろして,座って出番を待つ。外からは,さっきからひっきりなしに大歓声が起きている。
「やはり,第1組は公孫賛じゃろうなあ」
「そうですね。常連ですからね」
まず,最初に話し出した老人が豫州代表の孔抽。常連も常連(北島三郎並み?)。いくら老人と言っても侮れない。
そしてそれに答えている中年の男が益州代表の劉章。南三州の代表三人が,今大会はばらばらになったのは興味深いことだ。
「どう思うかね?異国の若いの?」
突然,紫は話し掛けられて,驚いて,慌てて答えようとするが,あまり詳しく知らないので何とも答えようがないのだった。
「えーとー・・・」
「のう,おぬし何歳じゃったかのう?」
「ぼくは14歳です」
「ほう,わしもそれくらいの時に料理を目指し始めたのう。じゃが,おぬしのように才能がなくてのう,いつまで経っても下働きじゃった」
「いや,ぼくなんかここまで来れたのは,奇蹟みたいなものです」
「いい師匠に恵まれたんだなー」
老人と子供の会話を面白そうに見てた劉章も話しに加わりだした。
「おう,そうじゃ,師匠は誰かね?」
「白龍さんに今は習っています」
どこまでも礼儀正しい少年紫である。
「ほほうー,あの暴れん坊将軍がよく他人を教える気になったもんじゃ」
「有名なんですか?」
「ほっほ。若いの,何も知らんのじゃのう」
「有名人だぞ。包丁より,剣を持たせた方がいいんじゃないかってくらい」
「いやいや,剣の方が危険だて」
「それもそうですね。はっはっはっは」
「ほっほっほっほ」
―――そういえば,何回か殺されかけたっけ。包丁が飛んできたり,中華鍋で殴りかかったり・・・危険人物?
妙な所で納得している紫であったが,そうこうしているうちに,どうやら第1組が終わったようだ。大人たちの口撃を軽く受け流してしまって(鈍感なだけだったりもする)大分,リラックスできてきた。
そこへ,役員の人が呼びに来た。
「選手の皆さんは予選が始まるので,入場してください!」
紫は「よしっ!」と一つ気合いを入れると鍋などを持ってゆっくりと歩き出した。さっきまでの柔和な顔から笑みは消え,真剣な目つきに変わっている。
いよいよ,ブロック予選開始!!

入場すると,大歓声が起きた。もちろん,地元の紫への声もあるのだが,常連中の常連の孔抽に対するものが上回っている。観衆にとっては,この人,孔抽は料理の鉄人なのだろう。その声援に一つ一つ答えながら,ゆったりとした動作で自分の台へ向かう。そして,南の山間部,益州代表の劉章に向けては「打倒孔抽」の横断幕がはためいている。
その光景を苦い顔で見守っていたのは赤龍とその親友,青龍である。青龍の連れはなんと・・・読者諸君にはおなじみの顔が・・・
さて,選手が位置について,開始の合図を待っていると,にわかに空かき曇り,上空に雷雲寄せてきた。
そして,開始の合図の銅鑼が鳴った・・・ジャーーーッッンッ!!!
ピカッ!!――光った!その瞬間 ゴロゴロ!
ドッガーーン!!雷が落ちた!?
あちこちから「キャー!!」という悲鳴が起きる。思わずみんな姿勢を低くしていた。彼らにとって,天変地異というものは神聖なものである。当然,雷にも何らかの意味があると考える。
紫の側で,孔抽老人がそっとつぶやいた。
「雷には勝てんわい・・・」

5,いきなりくらいまっくすー ~王都祭~
祭一日目
「意外だなーオメーが祭りに行きたいなんてさ!」
「おぬしが一人で行くのも面白くなかろうと思って誘ってやったのじゃぞ」
「なんだよ、それはよぉ!」
「おぬし,喧嘩ばかりしておるから,友達がいないではないか」
「な,な,なんだとー!」
「可哀相にのう」
というわけで,白は蓮に連れ回されて半分死にかけていた。すると,声がかかった。
「これ!待たぬか!」
そう言って一軒の店の前で蓮が立ち止まった。
「お、いい鏡が売っておるではないか。儂のはどっかの誰かさんが割ってしもうたからのう。これ!どっかの誰かさん!おぬしのことじゃ!」
「わーあったよ、オレも金出せばいいんだろ」
「違うわい。おぬし,選べ!」
「何でオレが!」
「変なのを選びよったら承知せんぞ」
「あーそういうことかよ」
と言いながらもしぶしぶ選ぼうとする。が,なかなか決まらない。しびれを切らせた蓮が
「遅いわい。もうこれにするわ」
「じゃあーこれ!」
と言って同時に二人は同じ鏡を手に取った。
「な・・・」
「何をするのじゃ」
二人は顔を合わせて,からからと笑った。

6,覚醒
「ふむ,今日で三ヶ月目か・・・」
 朱ッピーが原因不明の高熱で意識を失ってから,もう三ヶ月が過ぎる。今ではもう,熱は完全に下がって,静かに眠っている。しかし,今日まで一度も目を覚ます気配は見せたことはない。
「こんなことなら,あん時,左を選ぶんだった。ちくしょー」
クジで負けたとはいえ,もう三日,退屈な日々を過ごしている。さすがにそろそろ、一人ですることもなくなってきてしまった。朱は昏々と眠りつづけているし,紫と赤龍が連れ立って出掛けてしまって,話す相手もいなくてさっきから、「暇だー!」を連発している。昨日までは一人で素振りをしたり,朱をほったらかしで馬に乗ったりして何とか過ごしていたが,三人一緒のことに慣れてしまって,一人になると,どうも物足りないのだった。
「だーひまだー!」
その場に寝転びながら,今日何百回目かの「ひまだー!」を叫んでふと思った。そうか,朱が起きればいいんだよ,そうすれば,馬で王都までひとっ走りして祭りにいける。・・・って無理か。
「だー起きやがれ!!朱ー!!」
「はい,呼びましたか?」
「だー、お、お、おきたあ!」
「なんですか,人をゾンビみたいに」
「いや,ヨカッタ・・・『ぞんび』って何だ?まあ、いいや。おれの願いが通じたのか?」
「あなたの力でないことは確かですね。確かに耳元で五月蝿かったですが。まあ,神様も気まぐれはあるでしょうけど」
「ああん?」
「それよりも,王都に急ぎましょう!」
「はあ?そりゃーおれは祭りには行きてーが・・・」
「では,準備をして,行きましょう」
「なーんだ,オメーも実は行きてーんだ。そうかそうか、よーし、おれ様の馬に乗っけて,連れてってやるぜ!よっしゃー!その前にオメー腹減ってっだろ?三ヶ月も何にも食ってねーようなもんだからな。ちょっと待ってな,今飯作ってやっからな」
一人で話して,一人で納得して,一人で飯を作りに出て行ってしまった。
誰かに似てると思ったら,白にそっくりですね。一体白はどこでどうしているでしょう。そんなことを考えているうちに,白龍は,おじやを作って持ってきてくれた。
「・・・ありがとうございます・・・」
「礼はいいって,それより,まあ食え食え,味の方は保証付きだぜ!紫に料理を教えてやったのは、なんっつってもおれなんだからな!」
この人は,料理の上手いところは紫にそっくりですね。頭の回転は良いのか悪いのかよくわからない人ですが。ボクとは似てないみたいですね。
「食ったら,とっとと行くぜ,エイエイ,オー!」
がぜん最高潮のテンションに戻って,元気が出てきた白龍であった。さっきまで,ひまに押しつぶされそうだったのに。彼の天敵は「ひま」なのかもしれない。

さあ,ようやく,朱ッピー参戦!!

7,〔鏡〕~蓮と白~
昨日買って、袖口にいつの間にか入れてあった鏡を覗き込んだまま、蓮は動かなくなってしまった。
「おいっ!蓮っ!このやろう!なにボーとしてやが・・・」
白はそう呼びかけながら、肩を揺さぶって自分の方に向かせ、蓮の目を見た。その途端白は前身を雷電が走ったような痛みに襲われた。続いて感じたのは意識がぼんやりとして、麻酔にでもかかってしまったような、感じだった。
 何だと考える暇もなかった。こうして、白は蓮の忠実な操り人形とされてしまった。
 時間が経つに連れて、蓮の周りには操り人形の数が目に見えて多くなっていった。その者たちの特徴は、みな一様に、目をとろんとさせてまばたき一つしないということだった。そのために、涙を流しつつ、笑みを絶やさない。その奇怪な一団は一つの目的地へ向かって、はっきりとした意思を示しだした。その目的地とは、王京。王のいるその一角に向かって少しずつ移動を始めた。

 奇怪な一団が王京に向かっているという知らせを、司寇(司法・警察長官)の終古が警備兵から聞いたのは、一団が暴徒と化した後であった。どういうことかというと、その一団に注意をしていた警備兵との間に、いざこざが起こり、次第に熱を帯びてきて、小さな小競り合い、そして、とうとう衝突へと発展してしまったのだ。警備兵のほうも、この街中がにぎわう祭りの期間中に、仕事をすることになったという不運のために、イライラが募っていた。さらに、奇怪な一団が現れて、静止を聞かない。そこに、日ごろの鬱憤が重なり、祭りの異常な雰囲気によって噴出してしまった。こうなると、両者入り乱れての乱闘になってしまっている。そして、とうとう、血が流れてしまった。血を見て、ひるむどころか、さらに逆上したかのように、熱気は高まっていく。異常な空気が次第に、周囲へ伝播しだして、さらに暴動をあおっている。
 その中にいた警備兵隊長の飛廉は思った。「こりゃいかん」と。しかし、もうどうなるものでもなさそうなのだ。暴動は鎮まるどころか、さらに広がりだしている。
 中心にいたのは、蓮と、彼女に付き従っている白だった。蓮は人々が血を流す様子を見て、微笑さえしている。
くすくすっ
そんな笑い声が聞こえてきそうである。そんな妖しい笑みをじっと見守っているのは、完全に意識のなくなった白であった。

この様子を遠くから観察していた二つの影があった。
『始まったみたいねん。くすっ』
「がっはっは!いよいよ、大暴れの時だわい!」
『闇はどうしたのかしらん?』
「あいつなら、もう動き出してるぜ!」
『そう・・・計画通りねん』

「何やってんだ,白!やめろ!おいっ!?」
「蓮?蓮なんでしょ,ね,答えてよ!」
大声で今,目の前の道を横切っていった二人に呼びかける。どう見ても,あれは暴動を起こしているようにしか見えない。
「こうなったら力づくで止めてみせる」
「あたしも!」
「蘭さんは危ないよ」
「あたしにすら勝てないくせに何言ってるのよ」
「分かったよ。まずは白のやつを抑えよう」
「はぁーくっ!」

ドゴッ!
何かが叩きつけられて倒れる音がした。振り返ってみると・・・
「女の命が欲しくば我らの邪魔はするな」
大男が蘭の頭を,包み込むような大きな手でつかんでいる。どうやら大男に後から殴られ気を失っているらしい。
「その手を放せ!」
「ならば,この場から,去ってもらおう」
「僕は白を止めるんだ!」
「止めさせぬし,止められぬわい」
「蘭さんを放せっ!」
「ほらよっ」何を思ったか,蘭を持ち上げて,後方の空中に投げ捨てた。そこには,まだ暴徒が入り乱れている。暴徒の牙が,蘭に襲いかかる!
「やめろ―――――――――――――――――――――――――――――――!!!?」
「フンッ,おぬしの相手はワイじゃ。この大戯じゃ!」
「どけっ!」怒気,殺気,空気が帯電しているようだ。びりびり振動が伝わる。
「!!」(ぬう!小僧,一体何者じゃ!)
「どっけえー!!」言葉だけで,暴徒を引かせてしまった。後には殴られぼろぼろの蘭が地面に横たわっている。
「ら・・・」後の言葉が続いてこない。
沈黙。一瞬時間が止まったように思われた。そして
――プツン――
爆発。
「うわあぁぁーー!」
轟音。
――ブゥゥーン――
そこには別人が立っているように思われた。真紅の髪に深紅の瞳。そして,全身を包む風雷。
(何者じゃ!)そう思ったときにはもう目の前にその小僧は来ていた。
「どけっ!!」
(いつの間に!)
ドゴッ!
そして,自分の腹にめり込む拳の音と,脇腹の骨の折れる音を聞いて,大戯は終わった。
「グハッッ!!!小僧っ!?」
続いて無言のままのネオに頭を蹴られて,壁にたたきつけられた。

「ランさん・・・」
蘭が目を開けると,ネオが心配そうな表情をして座っていた。
「良かった・・・目を覚ましてくれて」
「あ、あたし・・・?」
「まだ動かないほうがいいよ!」
「あたたっ!」
「殴られたんだよ」
「なぐられた?」
「ええ。ゆっくり寝ててよ。僕は白を止めてくる」
「ちょっと・・・」
ここはどこなの?という質問は聞かず,もうネオは走り出していた。よく見ると,いつの間にか自分の家に帰って来ている。ということはここまでネオが運んできてくれたらしい。
―――あーあ,情けないと思ってたけど,たくましくなってるじゃない。

(うわぁ,どんどん被害が広がっていってる。かなり引き離されちゃったなあ。よし,急ごう。)
左右を見ながら先を急ぐ。家が叩き壊され,女子供が泣き叫んでいる。その壊された家を追って行くと暴徒に追いついた。なぜか男達ばかり,暴動に加わって凶暴化していっているようだ。すると・・・
「なんですか?」
目の前に手に武器を持った二人の男が立っている。その武器は,暴徒の持っているような農作業用のクワとか,そこらへんに落ちている棒っ切れではなく,専門的に扱う武器のようだ。しかも二人とも,ここ辺りの人間ではなく,どこか異国から来た風だ。一人は,円盤状に沿って刃物の付いた武器を両手に持っている。もう一人は鎖の先にとげの生えた球体の重りをブンブン回している。と,重りが飛んできた。
ドスン!と大きな音を立てて,地面にめり込んだ。まるで,ビルの解体現場にいる鉄球のような威力だ。勢いよく振り回して周りの壁や建物を壊しまくっていく。
「!」いいところに棒が・・・頭上を鉄球が通過していく。もう一人は?・・・
ヒュウッ!目の前に現れた円盤をとっさにかわす。いいコンビネーションだ。鉄球が戻って勢いをつけている間は円盤が攻撃をする。つまり鉄球と円盤が交互に襲ってくる。
でも・・・円盤から逃げながら,鉄球を投げる瞬間を狙って・・・
ダダッ!鉄球を持った男の懐に飛び込んだ。そして,頭を殴ってまずは一人を気絶させる。そして,間髪入れず驚きの表情を隠せない円盤の男に向かう。棒を伸ばして円盤をはじき,反対方向でアゴを跳ね上げる。
「イヤーこんな所で道場で習ったことが役に立つとはねー」
さっきは記憶が吹っ飛んじゃったけど,今度は大丈夫みたいだな。

 急いで走ってやっと暴徒の中心地帯に追いついた。暴徒は建物を壊しながら,住民に乱暴をしながら進んでいるので,歩みは遅いのだ。そして,その先頭の方に白と蓮を見つけた。
「白!一体どうしたんだ!」
ネオは大声で白の名前を叫んでみる。しかし,全く聞こえていないかのように建物を壊し続けている。
「えーい,どうしたらいい?」
考えながら,ふっと傍らで笑っている蓮に目をやってしまった。と・・・目が合って
フワーン・・・何だこの感じ?体が・・・重・・・い?だるい・・・?
ガクーン!急に地面にひざをついてしまった。
ね・む・り・な・さ・い
「え?」まるでポカポカ陽気の中で・・・
お・や・す・み・・・
「は・・・い」遠ざかる意識―――


ピピピ、チチチ・・・。(なんだこれ?)
「朝よー」(あれ?僕はさっきまで・・・)
「蘭?・・・今日は朝練無いって聞きましたよ」(これは・・・?)
「いいじゃない。それよりさ、お祭り行こ」(まあ・・・いいか)
「あー・・・?僕?」(今日は祭りか・・・)
「決まりね」
ドクン・・
・・・ドックン
「あたしね、こういう祭りの雰囲気、だーい好きなの!」
ドッックン!!
ザザッ「誰zzzzだz?zzzzzzzzzオzマzzzzzzzエzzz?」zzz
「わたし?わたしは蓮よ。蓮じゃなくて誰だって言うの?うふふっ」
fff「ff僕ffはfffアffナfffタfを知fらなfffffいfffff」
「あら。ひどいこと言うのね」
「・・・蓮・と・・白・を・・・還・・・・して・・・・・く・・れ・・・な・いか・・・」
「そんなに大事なの?」
「kaesitemorauyo」

「あたしね、こういう祭りの雰囲気、だーい好きなの!」
「・・・・・こういう祭りの雰囲気、だーい好きなの!」
「・・・・・・・・・・・の雰囲気、だーい好きなの!」
「・・・・・・・・・・・・・・気、だーい好きなの!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

『じゃあ,替わりにこの子をもらうわね』

ここは?僕はどうしちゃったんだ?ふと隣に倒れている者に気付く。
「白!おいっ!起きろ!」
「う・・・ん,何だ・・・蓮かよー。なんだよ!オレはどこにも行かないぜ」
「おいっ!しっかりしろ!」眠っちまったか・・・仕方ないな,道場に連れてくか・・・
ザッザッザッザ。
!人の足音!まだ近くに誰かいるのか?暴徒?女?子ども?二人・・・しかもしっかりとした足音だ。暴徒じゃないとすると・・・さっきの殺し屋みたいなのか。今度はちょっと危ないなあ,まだ頭がふらふらしてるよ。
「誰だ!」
「ネオさん!」

8,〔鏡〕~Daisuke and Dark~
 突然の落雷によって,料理大会は途中からが明日に延期になってしまった。しかも,おかしなことに,役員は,北門と東門が閉門されたので帰る時は、西門と南門を利用するように知らせてきた。民衆の間には,何かあったんじゃないか?という動揺した声があがった。しかし,役人に聞いてみても,城外から来た者は速やかに西門か南門へ向かうように,という返事しか返ってこなかった。
「おーい!紫!」
「あ!赤龍さん!」
「残念だったでござるな」
「うん,ちょうど,ぼくが作ってる時だったもんね」
よーく見てみると,赤龍の後ろに,さっき一緒に応援していたらしい人々がついて来ている。紫が不思議そうな表情をしているのにやっと赤龍は気付いて,
「紹介してなかったのう。こっちは,さっき話してた,悪友の青龍殿」
「おう、おしかったなー。今度ごちそうしてくれよ!」
大きな声で答えた,青龍と呼ばれた人物は背丈は,紫の1,5倍はあろうかという武人風の偉丈夫。年は,赤龍よりも少し上で,あろうか。(赤龍が二十歳くらい)
「こちらは,拙者たちの武術の師匠で黄先生でござる」
「料理の腕前を明日こそは見せてもらうからのう」
「もちろん、がんばります」
「おっと,こっちは家内,と一番上の娘じゃ」
「こんにちは。今日は残念だったわね,明日はきっと大丈夫よ」
黄師匠の奥さんは,にこやかな笑顔で挨拶してくれた。
「楓です。よろしく」
と,こちらはかなりぶっきらぼうに挨拶をされた。
「あ,どうも,よろしくお願いします」
なんか今日一日で,急に知り合いが増えたなあ。と呑気なことを考えていると,傍らではなんだか,これから,黄師匠の道場に行って盛り上がろうという話に落ち着いたようだ。

 ただいま,北門から,西門へと歩いてまいりました。こちらの方にも,役人からの通達があったのか,人々の移動が始まっていた。けれども,まだ,何があったのかは皆わからないようである。ここらでは顔の広いらしい青龍が,あちこち聞いてみている。紫はさっきから,落ち着かない気分になっていた。よくはわからないのだが,何かあるような気がするのだ。悪い予感でもないし,良い予感では,ないような・・・とにかく,胸騒ぎがする。
「おーい、わかったぞ!」
青龍の話によると,どうやら,東地区の方で暴動が起こっているらしいということだった。北地区でもなにやら人が集まっているという話もあり,まだ,未確認だが,いろいろな情報が飛び交っているらしい。東といえば,道場のある方向なので黄師匠は心配になったらしい。すぐ,真剣な表情になって青龍と赤龍にもう少し詳しく情報を集めてくるように告げ,自分自身も,知り合いの役人に聞いてくる,と言って,妻と楓と紫にここで待っているように言って走っていった。少しずつ,人々にもその情報が伝わりだしたのか,雰囲気が張り詰めてきたようだ。情報をいくら漏れないようにしようと思っても,人の口にふたをすることは難しい。そして,すき間風のように漏れ出したかと思うと,あっという間に広がっていくものだ。
 三人で,とりあえず黄師匠たちの帰りを待っているとまず,黄師匠の奥さんが口を開いた。
「暴動って言っていたけど,お父さん達は大丈夫かしら」
「それよりも,東って言っていたから,道場の方が心配ですね」
やっぱり長女だからかな?しっかりしてるなあ。と,変なことに感心してると
「あ,赤龍さんが帰ってきたみたいですよ」
紫は遠くの方で手を振っている,赤龍を見つけて声をかけた。
「どうだったの?赤龍君」
と奥さんが聞いてみると,荒い息をしながら赤龍が答えた。
「どうやら,拙者たちが考えているより重大なことになっているみたいでござるよ!」
「どういうことですの?」
「いや,詳しいことは解からんが,どんどん大きくなってるみたいでござる」
「うちが心配ね」
「お母様,早く戻った方がよさそうですね。今日は誰も家にはおりませんし」
「そうよねー。まずはお父さんが帰ってきてからね」
と話していると,紫がどこか遠くを見ているのに気付いた。
「どこかで逢ったことが・・・」
「どうしたの?紫君?でしたよね」
「あ,楓さん。ごめんなさい,知り合いみたいなんで,ちょっと行ってきます!」
「え,何?そっちは家とは反対方向ですよ」
という楓の忠告も聞かずに,紫は走り出していた。

――― あの人一人だけみんなと反対方向に走っているっていうのはおかしいよな。それに,ぼくはどこかであの人と逢ったことがある・・・ような気がする・・・うーん。
紫が今一生懸命に追いかけている人物は明らかにここの国の人の顔とは違う感じだった。どちらかといえば,紫たちと同じ顔だった。だから,彼が気付くことができたと言えるかもしれない。しかし,白やネオではなかったことがちょっと残念であった。それにしても,なんという足の速さなのだろう。紫が精一杯走っているのに,なかなか追い付けない。どちらかといえば,離されないようについて行くのでギリギリだった。そして,その人物は,北門へと向かっているようだった。役人には行かないように言われているところだ。
—————— どうしたのだろう?
そんな疑問より先に、心の鏡に映っているのは・・・
「これは運命だ」

9,鏡蠱
「だれだ!」
「ネオさん!」
「朱ッピー!朱ッピーなのか?そうなんだな?そうだよな?夢じゃないよな!」
「夢ではありませんよ,現実です。そして,白が倒れているのも現実です」
「そ、そうだ・・・そちらはどなた?」
「紹介します。ボクらの命の恩人で・・・」
「ボクらって,もしかして・・・」
「ええ,大助も無事ですよ。」
「よかったー!!で、どこにいるんだ?あいつは生きてるんだろ?」
「先に,こっちに来たんですけど。まだ会ってないんですか?」
「あいつも都にいるのか!よー!しゃっ!」
「それで,こちらの方は白龍さんといいます」
「こいつらの命の恩人の白龍だ、よろしくだぜ!アンタ,歳は一緒くらいか?」
「そうですよね,お二人とも二十歳前後ですから」
「そうかそうか、仲良くしようぜ!」
「は、はあ・・・」
「白の症状は軽いみたいだから,すぐ気が付くでしょう。ただ,ネオさん,あなたの方が重症のように見えますが・・・」
「?僕の方が重症?」
「ええ。白の方はこうすれば簡単に取れますが」
そう言いながらおもむろに懐から鍵を取り出して
「疾っ!」
「鍵が,杖に・・・」
そして,白の胸に突き立てようとする。
「おいっ、なにするんだ!」
「なにしてやがる!」
ネオと白龍が同時に叫ぶのも気にせず,突き刺してしまった。
「血が流れない?」
「大丈夫ですよ。この杖は見える物は突き刺すことはできませんが,見えない物はそれができるんですよ」
「おれにはわけわからねーや」
「つまり,白の中にそいつがいたってことだろ」
と指差した先には・・・
「虫か?」
「蟲と言った方が良さそうですね」
と言いながら,地面に漢字を書いてみせる。
「治療は終わりか?」
ネオは聞いてみた。そして,不安にもなって来ていた。自分は重症だという言葉が冗談ではなくなってきたのだから。
「とりあえず,白を移動させましょう。その間に事情を教えてください。どうして,こんな蟲がここにいるのかも含めて」
「じゃあ,まずは道場に行こう」

「おい,まさか・・・」
道場に向かった三人の中で一番驚いたのは白龍であった。なんと言ってもそこは,彼が最近まで通っていた道場だったのだから。
「知り合いですか,白龍さん」
朱ッピーが白龍の顔を見て問い掛けた。
「白龍!!」
「師匠・・・におかみさん,楓さん,蘭さんに何で青龍のオヤジまでいんだよ」
「オヤジはないだろ,ワシとお前は十も離れとらんわ!」
「冗談冗談!久しぶりに道場に来たかんな。ああん?赤龍の野郎はどうした?あと,紫」
「あやつらは一緒に消えおったわ」
「はあ?なんやそれ!」
「ブヮァッカもん!先にわしに挨拶せんか!!」
「痛ってー!ゲンコツで挨拶かよ」
「で,何か言うことはないのか」
「ご無沙汰しておりました。黄師匠、おかみさん。不肖白龍,只今帰りました」
「うむ」
「どうなってんの?楓さん」
ネオが近くにいた楓に声をかけている。
(おかしいわね。私に話し掛けてくること,今まではあまりなかったのに。)
と楓は思ったが口には出さずに
「白龍さんね,長いこと旅に出ていらっしゃったんですよ」
「放浪の旅?」
「武者修行というところですね」
「すごいなあ」
心の底から感心しているネオの様子を部屋の隅から蘭がじっと見ている。それをまた,朱ッピーが熱心に観察している。
ひとしきり,それぞれが持ち寄った情報を考え合わせ,話し合った結果,蓮を迎えにネオと朱ッピーが行くことになった。白龍は赤龍と紫を探しに行き,青龍は道場で護衛にあたる。蓮を治せるのは朱ッピーしかいない、という意見でみんなが一致したのだが,危険があるかもしれないのでもう一人付けようという所ではもめた。ネオは自分が行くと言ってきかないし,白龍もこういうことになると張り切るし,青龍は自分が犠牲になっても構わないと言って三人で話し合いの結果,くじ引きでネオに決まったのだ。

クジ運の悪い男がここにいる。その名を白龍。そのクジ運の悪さのために午前中まで,暇を持て余し・・・朱ッピーの看病をしていた。そして,また,クジに外れ,不本意ながら危険のない親友捜索に出かけた。

そしてこちら,朱ッピー,ネオの二人。次から次へと起こる不可解な出来事のために一度ははぐれてしまった。しかし,なんとか再会を果たす。運命の歯車は,またゆっくりと回りだしていた。その先に残酷な光景が拓けていようとも・・・。
「うあ」
思わず声を漏らしていた。目の前には叩き壊された東門と,それを静止しようとして殺されたであろう,警備兵と兵士の死体。
「軍隊まで出動してるんですね」
「なんでわかるの?」
「見てください。兵士の甲冑は上等品でしょう」
そう言われてよくよく見ると,頑丈そうな鎧を来ている兵士も混ざっている。
「なるほど・・・とすると,かなり一大事だな」
「とりあえず急ぎましょう。この死体をたどっていけば着くでしょう」
それにしてもすさまじい死体の血の臭いである。直視するのもためらわれるような,凄惨な光景と臭気。或いは殴られ,或いは斬られ,そこここに倒れている。しかし,表情には苦悶の表情は無く,なぜか安らかな顔をしている。
「異常な雰囲気っていうのはこんなのを言うのか・・・」
 
白龍はその頃,北門の方向へ走っていた。紫たちがそちらに向かったと聞いてのことだったが、確証はなかった。
あらら,もうすぐ門に着くぜ、結局何もないまま終わっちまうのかよ。
彼にとっては何も起こらなかったことが,かえって退屈だったのだ。ぶつぶつ言っているうちに門が見えてきた。そこで彼は退屈を完全に吹き飛ばすような出来事に遭遇してしまった。

ネオと朱ッピーの二人は北門近くまで走ってやっとその現場に辿り着いた。
人々が建物も何もかも,次から次へと壊している。その中には庶民も商人も役人も,そして兵士までも加わっている。何かに惹きつけられるように,その暴挙に一心不乱に取り組んでいる。壊すことに,快楽を感じ始めている。そして,人間をも,物のように壊していく。
その光景を目にして,一瞬足が止まった二人だったが,すぐにネオが蓮を見つけて叫んだ。
「あれだ,朱ッピー!」
「わかりました。任せてください」
「頼んだぞ。僕は援護するから」
「行きます!」
「うん!」
暴徒と化した群衆を掻き分けながら,一直線に蓮に迫る。暴徒に殴られ傷つけられて一生懸命先に進んだが,次第に蓮の表情がはっきりと見えてくるにつれて,二人は寒気を感じていた。蓮はおもちゃで遊ぶ子供のように楽しそうに無邪気に微笑んでいるのだ。狂気の中にあって,最もその狂気に取り憑かれているのは実は蓮かもしれなかった。
「蓮ちゃん!」
「呼びかけても無駄でしょうね。それでは一気に決着をつけましょう」
そして,またさっきの鍵みたいな物を取り出す。蓮に手の届く範囲に到着したネオがまず背後に回って動かないように捕まえて抑えた。
「頼む!」
「疾!」
朱がまた,棒を蓮に向かって突き立てた。途端に蓮の力が抜けてネオの腕の中でがっくりと意識を失った状態でうなだれた。と,同時に,暴徒の動きも止まった。放心状態になった群衆は,ふらふらとしながらその場に立ち尽くしている。自分達が何をしているのかよくわからない様子だ。
「どうやら,その女の子が,この中心だったみたいですね」
「そうみたいだな」
「この子を実際に操っていたのは,この鏡みたいですけど」
「鏡?」
朱が蓮の袖の中から大事そうに仕舞ってあった鏡を取り出して,ネオに渡す。
「ええ,鏡蠱という呪術ですよ。呪いの一種ですね。しかも,女性だけしか効きません」
「呪術。一体誰が・・・?」
「とりあえず,戻りましょう」
「そうだな!」
そのとき,どこからか笑い声が聞こえてきた。
くすくすっ。

10,〔鏡参〕~紫と闇~
氏名:闇
年齢:18歳くらい
好きな物:女と宝石
職業:大泥棒
今回の仕事の依頼:北門の開門
依頼者:女(不詳)から黒ずくめの兵隊も借りてきたいる。大掛かりな仕事だ。しかし,彼の本業ではない。今回は依頼人が女だったから受けただけだ。とさっきから言い聞かせているのだが,いまいちスッキリしないものがあった。
そして今,その一団は北門の警備兵に襲い掛かっていた。それ自体はすぐに終わった。先に小さな騒ぎを反対方向で起こしておいた。警備兵の半分はそっちに行っている。この作戦を立てたのも闇だ。そして,この手際のよさ。楽すぎて,物陰に隠れていた少年に気付かなかった。
「おいっ!まだ子供がいるじゃねーか!」
借りてきた兵隊の声でやっと気付いた。
「眠っててもらいな。顔は見えてないだろ」
一応頭として,命令しておいたが,何であんなのを見逃していたのだろうか。一人物思いに沈んでいる間に,兵隊が倒れていっている。
オレ様,目が悪くなったのか?こっちがやられてるようだが?

「しまった!見つかった!」紫はいつの間にか真黒の者達に囲まれていた。
ひい,ふう,みい,四人・・・か。
「紫,助太刀いたす!」そこに現れたのは
「赤龍さん!」
赤龍は持っていた棒を投げて渡しながら,一人を一突きで気絶させていた。受け取りながら,不意をついて紫も棒を振る。あっという間にその場に四人がのびていた。赤龍は持っていた長めの棒で一度に二人を倒していた。
仲間を倒された残りの真黒の者達もこちらに向かってくる。眼の色が変わっている。怒りの目,真剣な目だ。
「今度は不意をつかれたこいつらよりは手ごわいでござろうな」
赤龍の目もいつになく真剣な物に変わっている。
「紫!一人任せてもいいでござるか?拙者が残りの三人を相手するでござる」
「わかりました」

おいおい,オレも行かなきゃならねーのかよ。しかも一人はガキだぜ。四人が一度にやられる光景を二回も見て,自分の目を疑った彼もさすがに傍観を決め込むわけもなくなってきた。初めは十二人いた彼らもいつの間にか四人に減っている。彼以外の三人は,もう一人の若者に向かって行っている。
ガキ相手か・・・まあ,いいか,少なくとも二人倒してるんだしな・・・しかし,オレ様がガキ相手に・・・ねー。

「すっごー」
赤龍はあっという間に三人を地に這わせて,さらにまた三人の相手をしようとしている。
感心している紫の背後に不意に・・・
「わっ!」
「テメーら,何もんだ?」
「何者も何も,通りすがりの・・・」
ヒュウッ!
表情を完全に消した目で剣を振るってくる。殺気も感じられない。先程の方が殺気が満ち満ちていて,戦いやすかった。相手の出方が読みやすかったのだ。けれどこの人は・・・わからない。そして,必死の斬り合いが始まった。真黒の者の持っていた剣を取って,応戦する。真面目にしないと・・・殺される!強い!危ない!

「さてと,紫を助けに行くでござる。少し鈍ってるようだが」
赤龍は,また三人を倒し終わっていた。さすがに,最後の三人は手ごわかった。それでも時間はかかっても一人一人,確実に倒していく赤龍の技量は卓絶したものがあった。
「苦戦というよりも,押されているようでござるな」
『あらん。どこへ行くのん。わらわにもあなたの技を見せてん?』
「!?」
突如,目の前に現れた若く美しい女性。全く気配を感じなかった。だが,現にそこにいる。
『驚かしちゃったかしらん』
「遠慮はせぬでござるよ」
これは強敵だと見直しながら,棒を構える。寸分の隙も無い構えであったが・・・
瞬殺
赤龍には何が起きたのかさえもわからなかっただろう。突然体から力が抜け,前のめりに倒れていた。
『次はあの子ねん』
空気が動いた・・・闘っていた二人は同時にそう感じて,思わずそちらを振り返った。二人の視線の先には,一人の女性が立っている。身動きしただけで,その空間を動かし,惹きつける。それだけ存在感がある。紫はぼーっと見とれていただけだったが,闇は話し掛けた。
「何だ,やっぱり来てくれたんだ」
『そうね,あなたが心配になってねん』
よくみると,その女性は,和風の浴衣のような物を着ている。ただ,袖がとても長く手の先まで隠してしまっている。そして,この国の人にしては珍しく,髪の毛を長く垂らしている。今まで紫が見た女性はみな,髪の毛を頭の上で束ねていた。よーく見れば、かんざしを刺していることに気付いたのだろうが,そこまで観察する力は奪われていた。
「門はもう開いてるぜ」
『ありがとうねん』
そう言いながら紫の方を向いた。ここで初めて紫に顔の正面を向けた。口唇に薄く紅がさされている。
『あら,お客さん?お邪魔だったかしらん?』
紅い唇がそう告げて,おもむろに右手を挙げて紫の方に差し出した。
その間に闇が立って,女が闇に口づけをした・・・ように紫には見えた。
次に見えた光景は,闇が地面に倒れた所だった。
『くすっ,どういう風の吹き回し?あなたが他人をかばうなんて。くすくすっ』
「どうせ,オレも殺るつもりだったんだろう」
『そうよ。くすくすっ,この子がそんなに大事?』
「・・・」
そして,闇は冷たくなっていくのだった。
「あ、あ・・・」
『うふふっ,目を覚ましちゃったの?眠っていた方が幸せだったのに』
紫は目の前の光景をどう整理したらよいのかわからなかった。なぜなら,目の前に立っているのは,右手を鮮血で真っ紅に染めた女だったから・・・そして,さっきまで闘っていた若い男の方は,胸を真っ赤に染めて倒れている。
――夢を見ていたようだ。
(それともこれが夢なの)
――この人が命がけでぼくの目を覚ました?
(まだ,ぼくは闘っているんじゃ)
『そして,目を覚ましたら,寮の自分のベッドの上・・・』

紫の心の葛藤と混乱をゆっくりと娯しんだ後,彼女は艶然と微笑み,紫の瞳に死の瞬間を映しました。そして後には笑い声だけが残ったのでした。
11,〔鏡四〕蘇生
白龍がそこで見たものは十人以上の倒れている者達・・・そして,赤龍,紫,見知らぬ男の三人が血まみれで倒れている様子だった。
「おいおい,おれは夢を見てるんじゃねーだろうなあ・・・」
そして,その中央に立っている綺麗な女性にやっと気付いた。
「アンタが全部やったのかい?」
『ふふっ』
口元に笑みが浮かんだがそれ以上は何も語らない。笑うだけで何も答えようとしない。

「白龍さん!!」
「これはどういうことですか?」
そこに蓮を担いだネオと朱ッピーが現れた。二人ともここの異様な光景を見て理解しがたい,という表情をしている。
「おれも今来たばっかりなんだが・・・」
見ると,ネオが紫のほうへふらふらと歩き出している。
「だ・・・大・・・す・・・け?」
朱ッピーもやっと口を開いたが,兄弟の倒れている光景を見て自分を失っている。
「何でこんなことに?なってるんです?」
「ウソですよね,起きてよ・・・ねえ!だいすけー!」
「あんた,だれ?」
ネオが涙で一杯になった瞳を女に向けた。
『わらわ?この手を見たらわかるんじゃなくって?』
そう言って差し出した手の先には真っ赤な血がべっとりと付いていた。
ブツン――!!
ゴォッ!!!突如,ネオの周りから強烈な風が吹いてきた。その瞬間,みな何が起こったのかわからなかった。
「ネオさん・・・?」
「変わりやがった・・・」
『どうするのかしらん?』
「もう、どうなるのかわからない。わかっているのは,あなたが大助を殺したということだけだ」
『どうにもならないわよん。だって,貴方の心はもうわらわに囚われているんだから』
「?」
『おやすみなさいん』
ふっと意識が飛んだ。そういえば鏡はどうしたっけ?

「おいっ、何が起きてんだ!あいつ止まっちまったぞ!」
「ボクにも解かりません!それより何です,これは。」
先程から,今度は凄い衝撃波が襲ってきて,二人は身動きが取れなくなっていた。
『あらん?まだいたのん?悪い子たちねん』
「大助くんは!」
朱ッピーが冷たくなっていく紫を抱きかかえる。
「やるしかないみたいだぜ」
『わらわはもう満足なのよ』
「は?」
『わらわの望みはこの子を得ることだったから・・・』

「ここは?」
紫は真っ暗な場所に自分が立っているのか座っているのか,上を向いているのか下を向いているのかわからない状態でいた。
「黄泉の国っていうんじゃないかな?」
どこからか声をかけてきた人物は,さっきまで闘っていた男だ。
「あなたは一体?」     → 「オレか?オレはオマエだ」
「僕があなた?」      → 「そうなるかな」
「でも・・・」       → 「ああ、オレもオレだ」
「じゃあ、あなたは誰?」  → 「もう一人のオマエさ」
「わからないよ」      → 「分からなくていいさ」
「え?」          → 「手を出しな。そして,手の平を開く」
「うん」          → 「オレの魂が、戻りたがっている」
「わかる。魂がそう言ってる」→ 「じゃあな」
――――――白,朱ッピー
ド――――――ン!
二人は光に包まれた。光は二人を温かく包んで一つの魂魄となった。

白は誰かに呼ばれたような気がして目を覚ました。目の前には蘭と楓の顔があった。
「ここは?オレは?どうしちまったんだ?今,誰か呼んだような・・・」
「何言ってるのよ?白君ずっと意識がなかったのよ」
「行かねーと!必ず帰って来る!」
そう言って,彼は道場を飛び出した。誰かが呼んでいる,ただそれだけの理由で・・・。
「あ,ちょっと待って,あたしも行くから!」
「ちょっと!蘭!待ちなさい!アンタも怪我してるのよ!」
蘭も飛び出していってしまった。そこへ青龍がやってきて
「どうかしたかい?」と聞いた。
「もう,白君が戻らないような気がしたんですけど・・・」
「もう,戻らない?」

炎華
焔の橙色 今 真直ぐに 舞い上がる 全てを呑み込もうとする

炎の欠片 今 真っ紅に 舞い踊った 暖かく包み込もうとする

火の灯り 今 真っ赤に 眩うように チラリチラリまたチラリ

心の止みと病みと闇とを・・・ヤミを
赤るく紅るく灯るく・・・アカルく

12,炎華
『わらわはこの子が欲しかっただけなのにねん』
「それだけ・・・ですか?」
『それだけのために,利用されてやっただけ』
「誰にですか?」
『黒幕ちゃんよん』
「待ってくれよ,おい,そんじゃこれは最初から」
「仕組まれていたという訳ですね」
『そうよん』
二人を相変わらずの衝撃が体全部を押さえつけていて息も苦しいが,何とか意識を保っている。だが,少しずつ,じわじわと体力を奪われているようだ。このままだと,力尽きて押しつぶされてしまうかもしれない。この状況をどうやって打破しようかと,頭を働かせているのだが,身動きできないのではどうしようもない。

【じわじわといたぶるのが趣味かい?あまりいい趣味とは言えないねー】
突然誰かわからない声がした。
「そろそろ止めてくれませんか?」
そう言ったのは,死んだはずの紫だった。
「だいすけ?」
「むらさき?」
朱も白龍も目を丸くしてその信じられない光景を見ている。
『あらん?貴方は動けるみたいねん』
「どうしてか知りませんけれど。お願いです,この術を解いてくれませんか?」
『この子を諦めてくれるのん?』
そっと,もう全く動くことをしなくなったネオに絡み付く。ネオはまるで人形のようにまばたき一つしない。眼もどこに焦点を当てているのかよくわからない。
「ネオさんも返してもらいます」
『わがままさん』
右手が伸びて,紫の喉をつかもうとした瞬間,紫はその手をつかみ返していた。
「お願いします」
時間が止まったように見えた。

「ネオ君!」
沈黙を破ったのはその場にいる誰でもなかった。白と一緒に走ってきた蘭の声だった。
「白!ぼくの声,聞こえてた?」
紫は振り返りもせずにそう問い掛けた。
「ああ,ばっちりだったぜ!何でかはわからねーけど,声のするほうへ向かったら,ここに来ちまった。で,これはどうなってんだい!」
「ネオくん!どうしちゃったのよ!」
蘭の必死の叫び声も,ネオには聞こえていないかのようだ。また,その女がネオに抱きつく。それを見て,また,蘭が必死にネオの名前を呼ぶ。
「どうしちゃったのよ,あたしのこと忘れちゃったの?」
もう半分泣き叫びに近くなっている。
『この子はわらわのもの』
「あれ,なんでだろ。涙が・・・止まらない・・・」
蘭が自分の無力さに打ちひしがれてその場に崩れるように泣き出した。
くすくすっ。

ドクンッ!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・気、だーい好きなの!」
「・・・・・・・・・・・の雰囲気、だーい好きなの!」
「・・・・・こういう祭りの雰囲気、だーい好きなの!」
「あたしね、こういう祭りの雰囲気、だーい好きなの!」
ピシピシッ!
鏡が割れる音がした。
ドックン,ドックン!!

「うわあ―――――――――――ぁ!」
『そんなぁ』
「ねお・・・くん」
「蘭さん。聞こえてたよ。ありがとう」
ネオはしっかりと蘭の目を見て答えた。
「うっ・・・うんっ・・・!」
涙でぐしゃぐしゃになりながら,喜びを顔いっぱいに表現して答える。
「みんな,やっと会えた」
「ああ」「うん」「ええ」
白と紫と朱が一斉にうなずき返す。いつの間にか押さえつけていた力が無くなっている。
そういえばさっきの女は?みんなが周囲を見回すとそこには・・・
『あーあ,悔しいわね,哀しい。何でこんなに胸が痛いのん?』
真っ赤な炎を上げて,女が燃え出していた。
「おい,水!」
『ムダよん。この炎はわらわがこれまで流した人たちの血なの』
「ちょっと待て!今消すから!」
『ダメよん,これでお別れねん。楽しかったわん。バイバイ。ネオちゃん元気でね』
紅い炎はさらに燃え盛って,北門ごと燃やしてしまおうとする。
「待て,まだ・・・」
完全に女も門も巻き込んで見えなくなってしまった。遠くから見ると,そこに炎の華が咲いたようだった。消える寸前,ネオにだけ声が聞こえた。

『お願い,わらわの名前を呼んで。わらわの名前は・・・』
(「待て,まだ名前を聞いてない」僕はそう言いたかったんだ・・・)

茫然としていると,突然,ネオ,朱,紫,白の周辺が光りだした。そして,真っ紅に燃える門の扉がゆっくりと開き出した。その向こうはどこへ通じているのかわからない。しかし,先へ進まないといけないらしい。
ネオは蘭の方を向いて,
「お別れみたいなんだ」
白はまだ目を覚まさない蓮に,
「鏡,割れちまったな」
朱は白龍に,
「起こしてくれて,ありがとうございました」
紫は重体の赤龍に
「目が覚めたら,怒るだろうなあ・・・ありがとうでした」
それぞれ言葉をかけた。
そして,四人は門の向こう側へと吸い込まれるように消えていった。

雨が降り出した。あとには白龍と赤龍、そして蘭と蓮が残され,門の火が消えるまで立ち尽くしていた。

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