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GO AHEAD KUMAMOTO 2019(僕らは火砕流の中だって進む)

「それでいいのですか?」

三杯目のハイボールを頼む僕を、ナナイ・ミゲル(みたいな声のマウアー・ファラオみたいなスチュワーデス)が冷たく微笑みながらたしなめる。

「坊やだからさ…」

我慢が効かないんだよ。

そう言いながら、ワンコインを手渡す。
歩き去るナナイの顔に張り付いた正確な寸法の笑顔の仮面の裏、目尻からわずかに素顔の笑みが漏れていた。

阿蘇くまもと空港への到着は、定刻より少し早かった。

熊本。
火の国。
熊襲のルーツ。
宮本武蔵が晩年住まい、かの『五輪書』を仕上げた地。
そして、『ガール&パンツァー』の西住流発祥の地。
アツい、アツい土地。

しかしこの日はあいにくの雨。
半袖半ズボンに麦わら帽子の僕には、かなり肌寒かった。

寝れないんだよ!
俺達もうバスで寝れないんだよ!
寒いんだよ!
水曜どうでしょう『サイコロ2』「壇之浦レポート」

熊本市内への高速バスを待ちながら、某深夜番組の伝説的なワンシーンを思い出したりした。

しかしいいのだ。

僕らオタクは、火砕流の中だって進むのだ。

熊本市内に着く。
駅よりも熊本城下の中洲のほうが栄えているようで、繁華街やホテルもこのエリアに多いようだ。眠い目を擦りながら交通センター前で下りると、このような風景が飛び込んできた。

よくわからないけど、ビアフェスみたいだ。

立ち寄りたい気持ちもあったけれど、あいにく先の予定が詰まっている。14時になってチェックイン可能になったらすぐにホテルに行き、荷物を置いて出発しなければならない。市内観光に使える時間は一時間半がせいぜいのところ、寄り道をする時間はないのだ。

とにかくまずは熊本城を見る。
とはいえ、2年前の震災の被害の修復は完了しておらず、中には入れない。周縁から眺めることしか出来なかった。

天災と人災(戦の跡)という違いはあるが、黒澤明『乱』のワンシーン、息子に家督を譲った後にその息子自身に国を追われた主人公一文字秀虎(仲代達矢)が、放浪の末かつて自分自身が滅ぼした武将の城跡にたどり着きそこで雨風を凌ぐシーンを思い出した。

諸行無常の響き、といおうか。
虚しさを感じさせる姿、「廃墟の美学」という表現は不適切かもしれないが、哀愁の漂う佇まいだった。

ちなみにチェックイン後にホテルの中の絵を見て知ったのだが、熊本城は『影武者』の絵コンテのモデルに使われたそうだ。別の作品ではあるが、熊本城を見て黒澤作品を想起したのはあながち間違いではなかった。

しかしその一方、着々と復興が進んでいる様も見てとれた。
二の丸跡にはお土産屋さんが並び、海外からも観光客がたくさん来ていた。耳を済ませると、現地在住のドイツ人が故郷からの客人一家相手に生真面目な旅行ガイド役を勤めているのが聞こえる。9月の頭はドイツではまだ夏期休暇、旅行好きのドイツ人が毎年民族大移動する時期なのだ。

城自体の修復も、もちろん進んでいる。
例えば本丸は現在このようになっている。

大いなる力に打ちのめされ倒れるのも人間。
そこから這い上がり立ち上がるのも人間。

平凡だけれど、そう思った。

僕ら人類は、火砕流の中だって進むのだ。

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