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ポタージュとおにぎり



無料の駐車場が埋まってしまうから朝早くに出た。
朝市は初動が肝心なのはわかっているがそうそう起きられない。

なまけものなので。

この日は奇跡的に起きられた。
そういう時を逃しちゃいけない。

まだ人もまばらで、出展者がブースの設営をしている時間帯だった。
早くから完璧に整えている所もあれば、今来たばかりで車から資材を降ろしている所もある。

一つの店の前で足を止めた。
「もう頼めますか?」
「どうぞ」
かぼちゃのポタージュと、六穀米の焼おにぎりを頼む。
朝ごはんの代わりだ。

この店のご主人、ものすごく手際が悪くぶきっちょだった。
おろおろして周囲を見回してエプロンで手をふき、まずは鍋の蓋を取って慎重にスープの具合を見る。

のろい…。

こちらは特に急ぐ必要もないので、せかすこともなく黙って見ていた。

あまりの不器用さを見かねて、周囲の出展者の人がワラワラと集まってきた。

「あー、こっちはやるから!お客さんの対応して!」

自分の店そっちのけで手伝っている。
手伝うよとも言わずに、無言でお客様用のカップを並べている人もいた。

後ろを見ると、ぎょっとするぐらい長蛇の列になっている。

しばらく待って、やっとスープとおにぎりが出た。
お会計をしたのは隣のブースの人だった。

「はいお待たせ、どうもありがとうね!また来てね~!」

本人はこんなてきぱきした対応はできそうにない。
隣でスープの具合を見ながら、緊張した顔で少し頭を下げただけだった。

長打の列を横目にスープをすすり、おにぎりをかじる。

おいしい!

きっと朝早くから起きて、ゆっくりゆっくり丁寧に、いい意味で手際悪く作ったんだろうな。

向いてる向いてないと好き嫌いは別で、やれることとやりたいことも別で、その上で人には適材適所と、それぞれに合ったペースと生き方があるんだろう。


朝市でゲットしたアジを、だんなが新聞紙をしいてさばく。
子供たちが大きめの二尾をあっという間に平らげた。
骨から取っただしがきいた味噌汁が美味しい。


これだから朝市はまた行ってしまうんだよな。
その時にしか見られない風景と海の色を探しに行く。

眠いけど。





終わり


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