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供述

きょう僕は 人をひとり殺しました
気の早いクリスマスソングが
街中に流れはじめたから
きらびやかなイルミネーションが
とてもとてもキレイで眩しすぎたから


きょう僕は 人をひとり殺しました
通りすがりの見知らぬ人でした
黒いロングコートを着ていました
きらびやかな街並に似つかわしくない感じの人でした
仕事の帰りなのでしょうか
ひどく浮かない顔をしているように 僕には見えました
深く深くついたため息が僕の鼻腔をくすぐり
ふとタバコ臭いにおいがして 少し嫌な気持ちになりました
その人は 自分のついたため息がまるで胎児を包む羊膜のように
護られているようでいながら 
一方で閉じ込められてでもいるかのような
不思議な生き苦しさを纏っているかのような
そんな感じの人でした


きょう僕は 人をひとり殺しました
彼が醸し出す そこはかとない不幸せな空気感が
僕の胸ぐらを掴んで離しませんでした 
大きなクリスマスツリーをぼんやり見やりながら
虚ろに淋し気に笑っているのが やけに印象的でした


ふいに西風が 僕の頬を弄るように去っていきました
瞬間 かすかにささやくような声が聞こえたような気がしました
雑踏にかき消されてしまいそうなほど小さく か細い声でしたが
たしかに僕は その声を捉えました
頭から電流を流されたような気持ちでした
ああ この人は僕だ
生きるのに疲れてるとか 絶望してるとか
そんな言葉では片づけられない思いを抱えている
クリスマスが終われば すぐ新しい年が来てしまう
また1年が始まってしまう
元旦にご来光を拝むようなそんな人ならば
きっとまた その1年を
何が起きても 切り抜けていけるかもしれない
だけど だけど違うんだ
また新しい1年が始まってしまうこと
これから起こる出来事が なんとなく予想できてしまって
その細い肩の上に重く圧し掛かってくる
終わりにしたい 終わりにしたい
跡形もなく 何もなかったことのようになりたがってる
僕は核心的にそう確信しました
僕は なんだかよくわからないものにひどく興奮し
そうしてわなわなと全身を震わせました
湧き上がる欲求を 抑えることができませんでした
だから殺しました 
間違いありません
僕が殺ったんです



相変わらず街にはクリスマスソングが流れ続けていました



    ジングルベル
       ジングルベル 鈴がなる

    ジングルベル
       ジングルベル
          誰のために鈴はなる

    ジングルベル ジングルベル
       僕のためのベルは多分
          もう一生鳴ることはないのでしょうね




きょう僕は 人をひとり殺しました
あまりにも哀しそうな顔をしていたから




あしたはきっと
誰かが僕を 殺してくれる





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最後までお読みいただき、ありがとうございます
前回投稿した「動機」のロングバージョンです
ドン引きされたかもしれません( ̄▽ ̄;)

殺人を肯定している詩ではないことだけは断っておきます



#詩 #供述 #通りすがりの人 #自分勝手な妄想 #自殺願望 #もう一人の自分 #殺されたい願望

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