治療完了、目をさますよ - 後書き

後書き 「叫び」

補足と言うか、お読みいただいた方向けに後書きを。
つらつらと裏話でもしていければと思います。

この作品は、私の実際に見た夢をそのまま書いています。
特に第1話で汀がダイブする女の子の精神世界。
あそこで登場した螺旋階段と、顔のない修道女。
あのシーンは、私が一時期繰り返し見ていた悪夢でした。

第2話の血の雨が降る道路もそうですし、第6話の食肉売り場はまさにです。
勿論脚色はありますけれどね。

私は、10年程前から時々悪魔が出てくる悪夢を見ることがあります。
不眠ではないのですが、眠りが浅く、頻繁に夢を見てしまうようです。

そこに出てくる悪魔は、暗いどこだか分からない場所……。
建物の中で、何処へ逃げても追ってきます。

夢の中で死ぬことは滅多にありません。
しかし、首を斬られたことはありました。
あの時は本当に自分が死んだと思い、起きてからもかなり混乱していました。

そのような「実際見たもの」を詰め込んで書いてみたのがこのお話でした。
スカイフィッシュは創作物ですが、対抗できない悪魔がモデルです。

夢の中では何故か、私はうまく動くことができません。
関節の油が切れたように、動作がすごく鈍い。

もしも。
もしもそんな世界で自由に動けて、そして抗うことができたら。
そんな風に思って書き始めました。



主人公の汀は、様々なドス黒い現実を目にします。
それら全ては、汀を使い復讐をしようとしていた圭介。
彼の策謀に依る、抗えないものでした。

何もかもをもぐちゃぐちゃにされ。
傷ついて傷つけられ、果てには精神を切り取られたりしながらも。
それでも汀は、人を助けようとします。

何故彼女が、あそこまで頑なに「治療」にこだわったのか。
実は、私にもよく分かりません。
書いていたら、いつの間にかああなっていました。

もしかしたら私が深層で願っていた救いなのかもしれませんね。

人を治すことで、存在していたかった汀。
汀にそう言ってもらうことで、存在を肯定してもらいたかった私。

最終話での攻防。
アルバート・ゴダックを殺すか、殺さないか。

それは、汀の戦いでもあり、私の戦いでもありました。
本当なら殺したい。
悪人なんて、甘い汁を吸っている奴らなんて死んでしまえばいい。
殺したかった。

でも、汀は彼を助けました。

最終話にこんなシーンを書きました。

「私のカルマは、消えていませんよ」

汀はそう言って、野菜ジュースのパックを膝の上に置いた。

「消えることはない。私は、一生そのカルマを背負い続け、一生苦しまなければいけないんです」
「…………」
「それはいつか、私の心を蝕み、体は朽ちて、死へと誘っていくでしょう。私は、やはり苦しみの中で死ぬのかもしれません」

汀は、しかし男の方を向いて、屈託なく笑ってみせた。

「でも……それが『生きる』ってことでしょう?」

男は目を見開いた。
彼はしばらく汀の笑顔を見ていたが、やがてそっと視線をそらし、杖を手にして立ち上がった。

「いや……その通りだな。すまない。時間をとらせた」



最後まで謎の存在であったスモーキン・マン。
彼と大人になった汀の雑談です。

人を治すことは。
そして生きていくということは。
「カルマ(業)」を背負うこと。
一生その重みに苦しみ、やがてはそれに殺されたとしても。
それを受け入れて生きていく。

生きていかざるを得ない。

それが、多分「夢」ではなく「現実」なんだと汀は言います。

私は思います。
どんなに悪夢を見ようと。
繰り返し、繰り返しそれに苦しめられようとも。

残酷なのはその夢ではなく、目覚めた先の現実の方なんです。

いくら悪夢を叩き、殺し、駆逐したとしても。
現実のキズは何一つ消えません。
私達は、それに苦しみながらも生きていくことを受け入れていくのです。



私は、汀のように強くはありません。
立ち向かう勇気も無ければ、その信念もありません。

カルマを背負う覚悟もない。
幸せを掴もうとする意思もない。

まだ、悪夢の中で藻掻き続け。
現実世界で痣だらけになりながら徘徊しています。

このお話は、そんな私と汀との戦い。

ひいては、「私」と「汀」の戦いでした。

それでも汀は、立ち上がってくれるのか。
そして、幸せになる事ができるのか。
なれるものならなってみろ。
怒り、憎しみ。
それが詰まったお話でした。

最終的に汀は幸せを手に入れました。
彼女の世界には、光が射しました。

勝ち、負け。
そういうことはよく分かりませんが……。
この作品を書くことは、長くて苦しい戦いでした。

自殺病はなくなりませんでした。
汀がいくら幸せになろうと。
一貴達テロリストの計画が失敗しようと。
病気は根絶されることはありませんでした。

普通に、同じような世界が広がっています。

それは私のささやかな叫びです。
このお話が終わっても、何も終わることはありません。

私の悪夢は続き、苦しみはまだまだ続き。
救われることも、救われるものもなく。
このお話でさえも、飛沫の中に埋もれて霧散するだけかもしれません。

そうです。
世界は、変わらないのです。

ですが私は、書き終わった後のこのお話を見て思います。

「ああ、私も目をさましたい」

そう、思います。
これは願い、願望……おそらく、叶わない「夢」なのでしょう。

そんな苦しみの中から、金切り声を上げながら出した叫び。
このお話は、それ以上のものでもなければ、それ以下のものでもない。

私の絶叫でした。



最後までお読み頂き、感謝いたします。
お時間を使ってくださった方、すべての皆様に祝福がありますよう。

――天寧霧佳

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

4

天寧霧佳

【長編ホラー小説】治療完了、目をさますよ 【完結 全24話】

マインドスイーパー……。 それは、他者の夢の中に入り、トラウマに介入し、除去することができる能力を持つ者の名前である。 高畑汀(たかはたみぎわ)は、半身不随の身でありながら、夢の世界を縦横無尽に動きまわる事ができる、特A級のマインドスイーパーだ。 数々の暗い感情や闇の部分...
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。