ラルロッザの学園都市 - 21

第20話 「俺があいつであいつが俺で」

静まり返った生徒会室の長テーブルを囲むように座りながら、その中の一人、牛角の少年、ゼマルディ・クラウンが声を発した。

「……で、どうすんだよ?」

彼の脇のゆりかごには、すやすやと寝息を立てている魔導生物マンドルゴラの子供、リンフロン・ノーランド・チェルサーがいる。
片手でそれを、器用に揺らしながら、少年は上座に隣り合って座っている男女を見た。
生徒会長のドラゴン、センシエスタ・ノーランドと、副会長の夏妖精、アルヴァロッタ・アークシーだった。
カップルでありリンの義理の親である二人が、まったく同じぐったりした姿勢で、自分の膝を掴んでいる。
少し離れた場所に座った赤毛の人魚――アイカ・マロンが顔の前で指をくるくるとまわした。

「もう一度整理しましょう。とりあえずノーランドさん。右手を上げてくださいまし」
「はい……」

ロッタが返事をして、右手を上げた。

「じゃあロッタ。左手を上げてくださいまし」
「うん……」

今度はセンが返事をして左手を上げた。
深いため息をつき、眠りこけている金髪の吸血鬼――フィルレイン・ラインシュタインを膝に乗せた大男、クヌギ・トランスが呟く。

「何てベタな……」
「お前が俺であいつが私でという状況ですね」

宙に浮かびながら、幽霊少女のサラサ・メルが口を開いた。

「くだらなさ抜群ですわ……」

そう言ったアイカに、センがドンッとテーブルを拳で叩いて声を張り上げた。

「そんなこと言わないでよ! あたしたちにとっては割かし死活問題なんだから!」

隣のロッタが、顔を両手で覆って首を振る。

「何でこんなことに……見るだけならまだしも、自分が巨乳になるとは……」
「見事なまでに反転してますから、その声と顔でいつも通りの台詞を吐かないでくださいまし。キモいです」
「何なんですかこの状況……」

サラサがそう言うと、アイカは大きく肩をすくめた。

「ええと……今日の量子魂冠学の授業で、幽体離脱の実験をやりましたのよ。その結果この人たち、お互いの帰る体を間違えて、それでいてスッポリ嵌まっちゃったわけですわ。笑っちゃいますわね」
「「笑わないでよおお!」」

ステレオで二人が怒鳴る。

「普通は、たいがい拒絶反応が出てはじき出されるんですけど、午前中からこの状態ですの」
「よほど相性がいいんですね……」
「何とか出来ねえのか? 反魂法とか……」

ロッタ(セン)が大きな胸を揺らしながら必死に言う。
アイカは息をついてからそれに応えた。

「うーん……魂とか存在定義にかかわることは、この前ロッタの胸を小さくしたときみたいに予期せぬ事故が起こる可能性が高いです。諦めて先生に相談しましょうよ」
「嫌よ絶対嫌! あたしこんなことがばれたら、もうほんと生きていけない!」

わっとセン(ロッタ)が自分の顔を手で覆い慟哭する。

「いいじゃないですか別にこれくらい……」
「ただでさえリンフロンはあたしとこいつの子供って勘違いされてんのよ!? 何よ、それでいて体が入れ替わったなんて、心も体も相性抜群ってことじゃない!! 全力で証明しちゃってるじゃん!? どんだけあたしを辱めれば気がすむのよ!?」
「ヒステリーを起こさないでくださいまし。どうでもいいですけど、ノーランドさんの声で女言葉使ってると、オネエにしか見えませんよ……」
「あたしはまじめに言ってるんだけど!?」
「まあ落ちつけアークシー。今お前の苦労が分かった。肩凝るなこの体……」
「うるさいよ! 何もかも全てあんたが悪いのよおお゛!」

セン(ロッタ)が絶叫して自分の体(中身セン)の首を絞めはじめた。

「何? 何このだらしない胸! 好き好んでそんな体になったとでも思ってるの!?」
「じ……っ、自分の体に八つ当たりすんな……! 俺の(体の)力で首を絞めるな……し、しぬ……っ!」

ロッタ(セン)がかすれた悲鳴を上げてバタバタともがく。

「面白いからしばらくこのままにしておきましょうか」

アイカが言うと、二人がキッとそちらをにらんだ。

「「ごたくはいいからとっとと戻して!」」

またステレオで二人が怒鳴る。

「だから絶対失敗するか副作用が出てきますって……いいですか? 魂の癒着を無理やり剥がすと、この前みたいなアイデンティティーの崩壊や、酷い時には治療不可な存在の損傷を与えてしまうかもしれないんですわよ。他の人がやるんならともかく、わたくしはそんなリスキーなことをして責任をかぶりたくないです。大人しく病院にお行きなさい」
「嫌よおお゛! 医者に見せたら多分あたしの精神は砕け散るわ! ×痙×起こして担ぎ込まれた方がまだマシよ! もう何でもいいからあんたがやって! あたし気が狂いそう! もう耐えられない!」

セン(ロッタ)が、頭を抱えて首をぶんぶんと振る。

「だいたいこの体でトイレとお風呂に入れっての!? もうかれこれ六時間はトイレ我慢してるんだけど!!」
「いえ、だから病院に……」
「嫌よあたしは絶対に嫌だからね! 何でこんな男と魂がくっついた状態で病院に行かなきゃいけないのよ! もういっそ殺してええ゛ぇぇ゛」

傍から見れば、センがヒステリックに喚いているようにしか見えない。
そこで、盲目のドラゴン――センの妹であるルイが口を開いた。

「うるっさいですねアークシー。男なんて所詮女に管がついただけです。つまらないことでガタガタ抜かすんじゃないですよ」
「管!?」
「ルイ、やめてくれ……なるべくこの子を刺激するな。俺の体がどうなるか分からん……」

ロッタ(セン)が青くなってルイを止める。

「う゛っ、気持ち悪……っ……もう我慢できん……!」

前かがみになった彼女(彼)を見てセン(ロッタ)が悲鳴を上げた。

「ちょっと何やってんの!?」

プチプチとシャツのボタンを外し始めた自分の体に慌てて覆いかぶさる。

「息ができねーんだよこの体! お前二回りくらい小さいブラつけてるだろ! 何で常時コルセット状態なのこれ!?」
「ボタンをつけろお゛おお! ブラ外したら殺してやるう゛うう!」

また自分の体の首を絞め、セン(ロッタ)が泣き顔で狂乱する。
その様子をボーッと眺めていた生徒会員の耳に、そこでポンッと音がしてエレベーターが止まる音が聞こえた。
扉が開き、でっぷんでっぷんとたるみまくった腹部を揺らしながら、マントと長靴を装備した猫が、生徒会室に、二足歩行で足を踏み入れる。
魔獣、にゃんこ先生だった。
彼はふてぶてしく腰に手を当てて近づくと、傍から見ればセンがロッタを抑えつけて乱暴しているようにしか見えない図を一瞥し、右手で自分のヒゲをピンッとしごいた。

「ふむ」

その声に振り向き、アイカの表情が明るくなる。

「にゃんこ先生! いいところに!」
「先生何とかしてやってください!」

ゼマルディにすがるように言われ、猫はしばらくの間興味深そうに、自分の弟子とその彼女を見ていた。
そしてふぅ……と息をはき

「まあ、おもしろいからしばらくそのままでいなさい」

と言い放った。
途端、セン(ロッタ)が瞳を燃える金に光らせ、傍らのコップを掴み

「死ね駄猫ぉおお!」

と叫び。
思い切りの魔力を込めて、それを吹き飛ばした。
ドラゴンの内臓魔力は、妖精の魔力とは質も量も比べ物にならない。いつもロッタが発散している魔力とは比べ物にならないほどの密度の攻撃が、時速三百キロを超える速度でにゃんこ先生に襲いかかる。
キュンッという白い線のようになったコップの直撃をたるんだ腹に受け

「ふぶっぅほぅっぁ!」

と奇妙な悲鳴をあげ、太った猫が宙を舞う。
そのままダーツのように壁にズンッとめり込み、彼は床上二メートルほどの場所に串刺しにされたまま、プルプルと震えつつ手を伸ばした。

「何をする……」
「師匠になにやってんだアークシィィ!」

自分の体で起こされた凶行を目にして、ロッタ(セン)が慌ててにゃんこ先生に駆け寄り、壁からベコリと引きずり出す。
流石伝説の剣豪だけあって大したダメージは負っていないのか、彼は震えながらセン(ロッタ)を見た。
肝心の、彼氏の体に入った妖精は、そこまでするつもりがなかったのかきょとんとしている。
ロッタ(セン)の胸の谷間に抱きしめられ、ポムポムと乳を揉みながらにゃんこ先生が怒鳴り声を上げた。

「そこに座れ! お前には一度しっかりした体罰を与えねばならぬと思っていたところだ!」
「師匠あれ俺の体ですからやめて下さい!」
「現在進行形で体が体罰受けてるんですけど! 乳揉みながら言っても締まりがないんだよ!」
「やかましいそこでちょっと待っておれ! フリンスもっと強く抱きしめよ。うほっ……たまらん」
「はい師匠! こうですか? これがいいんですか?」
「くぅ……くっ! 息ができん! だがそれがいい!」
「まとめて消し飛ばすわよあんたらああ!」

混乱の中、アイカは深いため息をついて頭を押さえた。

「もう何が何やら……」
「あの人本当に猫なんでしょうか……」

乳に挟まれて幸せそうにしているにゃんこ先生を見て、サラサがボソリと呟く。
しばらくして満足したのか、ふぅ、と息を吐いてにゃんこ先生が地面に降り立った。
そして握りこぶしを固めて震えているセン(ロッタ)を一瞥する。

「まあいい。病院に行くぞお前たち」
「さんざ引き伸ばしておいてそれ!?」

絶叫したセン(ロッタ)に、彼は指を立てて言った。

「何を言っている。魂と体の癒着はそう簡単には剥がれん。入院して一週間ほどをかけて剥がすのが、今のところ一番の治療法だ」
「嫌ああああ゛!!」

膝をついてオネエ言葉で泣き叫ぶ弟子(の体)を戸惑いの表情で見て、そしてにゃんこ先生はルイに視線を向けた。

「何だ? どうしたんだこ奴は?」
「かつてないほどテンパっているだけです先生。おもしろいのでしばらくこのままでいいかと」
「いいわけないでしょおおお!」
「じゃあ病院だな」
「嫌よこれ以上あたしをよごさないで!」

ブンブンと首を振って拒否している。

「まあ……確かに他人の体にここまで魂がなじむというのは、夫婦でもあまりみないことなのだがな……よほど身体の相性がいいのか……フリンス。何度こいつと寝たのだ?」

あっけらかんとにゃんこ先生がそう言い、一瞬生徒会室の時が止まった。

「絶対そういわれると思ったのよおおお゛!!」

セン(ロッタ)が四つんばいになりバンバンと床を叩く。

「誰もが思っていながら口に出せなかったことを……」
「笑えねえ……一瞬で空気が凍りついたぜ……」

アイカとゼマルディが口元をわななかせながら呟く。

「それじゃ俺とフィルならお互い何の抵抗もないだろうな。今度試してみよう」

何の疑問も持たずに言ったクヌギに

「うるさいよ!」

と一言怒鳴り、ルイが三白眼のような目でにゃんこ先生に言った。

「先生……大丈夫です。ルイがきちんと、間違いが起こらないように毎日二十四時間体制で監視しておりますゆえ」
「えっ? ルイ今お前なんつった?」

ロッタの身体に入った兄の言葉を無視し、白いドラゴンはイライラした態度を前面に出しながら、歯軋りしてプルプル震えている、生徒会長の身体を見た。

「もう面倒です。アークシー。目をつむりなさい。大丈夫痛いのは一瞬ですから」
「殺す気でしょ!? 絶対殺す気だ!」
「わたしのドラゴンファイヤーで魂を消し飛ばすだけです。安心しなさい。身体には傷はつけませんから」
「つまりあたしを殺す気じゃん!?」
「地獄ってどういうところなのか、一足先に偵察してきて欲しいって言ってるだけですよ」
「いやだからつまり死ねって言ってるよねそれ!?」
「まったく……最近ロッタ、少し突っ込みがマルディを越えて半端ないですわよ」

アイカが横から口を挟み、にゃんこ先生に視線を移動させた。

「そういうわけで嫌らしいんですの。先生、どうにかできませんこと?」
「まあできないこともないが……」
「ほんと!? 猫、ちゃんと成功させてくれたらパンツでも何でもあげるから」
「任せろ!!」

満面の笑顔でぐっとにゃんこ先生が親指を立てる。
ビクッとしてロッタ(セン)が声を上げた。

「し……師匠!? ついいましがた、ちゃんと治療しなきゃ副作用が出るって……」
「大丈夫だ。そう、きっと多分……」
「初めてお聞きしますよ、そのタイプのセリフ!」
「許せフリンス。アークシーよ。パンツはもちろん脱ぎたてだろうな」
「もうどうでもいいわよ! 気が狂うぅぅ゛!」
「いや、師匠ちょ、パンツで目をくらまされないでください! ちゃんと病院に行きますから! パンツなら今脱ぎます! 脱ぎますからやめて!」

スカートに手を突っ込んで逃げようとするロッタ(セン)に向かって、短い腕を伸ばし、彼は軽く息を吸った。

「いいんですか……? 生脱ぎとか言ってますよ……」

サラサがぼんやりと呟く。アイカがどうでもよさそうに軽く首を振った。

「ロッタがそれでよければいいんじゃないですか……?」
「教師なんですけどあの猫、一応……」

そういっている間に、にゃんこ先生がロッタ(セン)に向けて

「ふんッ!」

と気合を入れた。そして

「キャットウェィブッ!」

と叫んだ途端、ロッタ(セン)が「ふぐっ!」とうめき声を上げて動かなくなる。
なにやら球体のような魔力の塊が猫の手から放出され、周りを包んでいる。
しばらくすると、するっと音がして、脳天から白い煙のようなものが抜け出してきた。
無理やり、魔力の干渉で魂を抜き出したらしい。

「いや、ちょっ……それは強引過ぎるんじゃ……」

アイカが真っ青になってとめようとする。
にゃんこ先生はもう片方の手をセン(ロッタ)に伸ばし

「キャットウェィブゥゥッ!!」

と再度叫んで同じように魂を抜き出した。
そして生命活動が停止して崩れ落ちた二人の身体の間に移動して口を開く。

「大丈夫だ。わしを信用しろ」
「信用しろって……先生、これ、つまり一旦この子たちを殺したんじゃ……」
「信用しろといっている。魂を抜いても、三分くらいなら蘇生できる。多分」
「多分!?」
「やったことがないからなあ。だがまあ、イケる。パンツがかかっていることで、わしが何かを失敗したことはない」
「嫌な伝説の剣豪だ……」

ゼマルディがとめることもできずに小さく突っ込む。
やがてにゃんこ先生は、魔力でセンとロッタの身体に無理やり魂をおしこみ

「破ァァァッ!」

と気合を入れた。
ビックンとカップルがそれぞれ痙攣して、しばらくもがいた後激しく咳き込んで、それぞれ四つんばいの姿勢で荒く息をつく。
呼吸が止まっていたのだ。相当苦しかったはずだ。
ぜーっ、ぜーっ……と必死に呼吸しながら、真っ赤に充血した目でセンはにゃんこ先生を見た。

「し………………師匠………………」
「おお、生きていたかフリンス。そう簡単にはくたばるまいと思っていたが、一回死んでも問題なく蘇生するとは。さすが我が弟子だ」
「何を………………するんですか………………」
「お前達の魂を無理やり第五の秘儀・猫波動キャットウェーブで引き剥がした。本来はそのまま成仏させるのだが、ためしに魂を元の身体に戻してみたというわけだ」
「た…………ためしにって…………げほっ………………なんか………………トンネルの向こう側で…………満面の笑みのお婆さまがお茶を飲んで…………ました…………けど………………」
「そのトンネルをくぐらなくてよかったな、フリンス」
「えらく……他人事ですね…………」

ぐっと親指を立て、にゃんこ先生はまだげほげほと咳をしているロッタに近づいた。
そしてぷにぷにと肉球で頬をつつく。

「生きていたようだな。ほれ、何の問題もないようならはやくパンツを脱げ」
「伝説のセリフとは思えない……いやいや、ちょっ、教師なんですからだめですよ! 何脱がせようとしてるんですか!」

ゼマルディが止めようとした前で、ロッタがおびえた子供のようににゃんこ先生を見た。
そして。
普段の彼女からは想像もつかないような、媚びるような弱い視線を回りに向け。
少し停止したあと、慌てて土下座の姿勢で、ペコペコと頭を下げ始めた。

「ご、ご……ごめんなさい! ごめんなさい! 私が生意気でした……パンツでもなんでも持ってってください……私は卑しく哀れな雌豚です……みなさん今まで大きな顔をしていてすみませんでした……」
「は? いや、別にわしはそこまで求めては……」
「ああごめんなさい! お待たせしてしまって、こんな愚図でのろまな雌牛をどうぞののしってください……今、今すぐ脱ぎますから……!」

こびへつらうような態度でぶつぶつ言うと、ロッタはムクリと起き上がるとおもむろにスカートに手を突っ込んだ。
そしてためらいもなくショーツを下ろそうとして。
そこでアイカとゼマルディに押さえつけられておびえた声を発した。

「ごめんなさいいい! 離して下さい! 私が、私が悪かったんです! 何もかも全部私が悪いんですうう! 生きててごめんなさい! 存在していてごめんなさいいい!」
「ど……どうしたんですのおちついて! 確かにあなたが悪い部分は沢山ありますけど、パンツを脱ぐ脱がないはちょっとコトが違いますわ!」
「離してええ! パンツ脱ぐからせめて喋ることは許してくださいいい!」

ボロボロと涙を流しながら、哀れを誘う声でロッタが細い声を上げる。
無理やりそれを床に組み伏せ、ゼマルディがルイに言った。

「とにかく保健室に連絡して!」
「は……はい!」

ロッタの豹変具合に、流石に驚いたのか、ルイが素直にうなずいて杖をつきながら壁の電話に向かう。

「巨乳でごめんなさいいい! 私が何もかも全部悪かったんですうう! 胸がなければ私には何ものこっていないんですうう! 皆さんがおっしゃる通りなんですうううう゛! わたしが生意気でしたああ゛!」

頭をブンブン振りながらロッタが泣き喚いている。
それを戸惑った目で見つめて、にゃんこ先生はふぅ……と息をついた。
そしてマントのポケットから取り出した葉巻に、シュボッとジッポで火をつけてから煙を吐き出す。

「失敗したな……」

淡々とそう言った彼の首根っこを掴みあげて、アイカが真っ青になって声を張り上げた。

「どどどどうするんですのこれ!?」
「まあ、本人が承知の上でのことだったんだから……」
「それにしてもちょっとこれ……!」
「わしはパンツをもらって、今日は帰ろうと思う」
「鬼ですか!?」

きびすを返そうとしたにゃんこ先生が、不意に足を止める。
起き上がったセンの目つきが怪しい。
彼は泣きわめいているロッタの前にツカツカを歩いていくと、その髪を乱暴に掴んで自分の方に向けた。

「チッ!」

と思い切り舌打ちをした彼の様子に、ロッタが「ひぃ!」と息を呑んで震え始める。
それを冷たい瞳で見下ろし、センは鼻で笑い低い声を発した。

「ぴーぴーうるせえんだよ贅肉女。その耳障りな声を止めろ」

凍りつくようなセリフを聞いて、生徒会員全員が唖然とする。
しかしロッタはゼマルディに押さえつけられながら、ビクビクと肩をちぢこませて、消え入るような声で

「ごめんな゛さい゛いぃ゛……」

と呟いた。
ペシペシとその頬を手で叩いて、センがにやにやとそのおびえる様子を笑う。

「誰がなれなれしく喋っていいっつった? 誰が人間の言葉を使っていいって言った? 許可なく許可してない言葉を喋っていいとでも思ってるの? だめでしょ? 雌豚なら雌豚なみの分別ってもんはないの? 馬鹿なの? 馬鹿なんだよな?」
「ひいい! そうです私は哀れな雌豚です! 仰るとおりですうう! 人間様に生意気な口を利いてしまいました! どうぞ思う存分叩きのめしてくださいいい゛!」
「うるさい」

鉄のような声で言って、センがバチンとロッタの右頬を張った。
しばらく呆然として、しかし妖精の子は、はぁはぁと息をほてらせながら言った。

「もう片方にもお願いしますうう!」
「うるさいって言ってるだろ?」

左をバチンと張り飛ばし、顎を摘んで、センが石のような目で彼女を見下ろす。

「何? 雌豚のくせに俺に要求するの?」
「さ、さしでがましいまねをしましたああ!」
「あ゛?」
「ぶ……豚の分際で人間様に……」
「よく聞こえないんだが?」
「セン様ですうう! センシエンタ様ですうう! わたしはあなたの言いなりの下衆な一人では何もできない哀れで愚鈍な家畜奴隷ですうう!」
「声が小さい!」
「ひいぃっ! 私はセンシエンタ様の無様なペットでしかありません、ペットなんですう!」
「聞こえねえなあ!」
「ごめんなさい高望みし過ぎましたああ゛! 私はセンシエスタ様の×××××の×××で」
「やめろド馬鹿どもおお!」

そこでやっとゼマルディが突っ込みに成功し、ロッタとセンを引き離した。
フィルを椅子に座らせて寝かせたクヌギが、センのことを羽交い絞めにしてロッタから遠ざける。
まだ放送禁止用語を口走っているロッタの口をふさぎ、ゼマルディが彼女を部屋の隅に引きずっていく。

「まてコラあ゛! まだ話は終わってな」
「うるさい」

キュッ、とクヌギがセンの頚動脈を閉めて黙らせる。
白眼をむいて気を失った生徒会長を床に放り出し、大男は逃げようとしていたにゃんこ先生の首筋を掴んで持ち上げた。

「……おい、二人のSっ気とMっ気が逆転したぞ? もう、どうするんだこれ……それから、しまったものを早く出せ」
「……先生に対してなんだその口の聞き方は」
「猫は振り回すと平衡感覚がなくなるらしいな?」
「分かった。冷静に話し合おう。仕方ない……これは返す」

そういってにゃんこ先生が、マントのポケットからするするとロッタのパンツを取り出す。いつの間にか、彼女が脱いだものを回収していたらしい。
それをアイカに放り投げ、超即効薬をかがされてぐったりと気絶したロッタを一瞥する。

「まあ……考えられるとしたら、フリンスとアークシーの魂を剥離したはいいが、それぞれの身体にサディストとマゾヒストの性癖を置き忘れてきたらしいな」

だるんとぶら下がりながら、にゃんこ先生が言う。

「もうどうしろっていうんだよ」
「本当めんどうくさいカップルですね……」

ゼマルディとサラサが頭を押さえながら呟く。
アイカが見えないようにロッタにパンツをはかせながら、にゃんこ先生を見た。

「先生、ちゃんと責任取ってくださいまし。もともと外道のセンさんがロッタ並のサディストになったら、もうわたくしたち処置ナシですわ」
「てゆうかセンはここまで卑屈になって生きてたのか……」

ゼマルディの呟きを無視し、にゃんこ先生はふかく息をついた。

「分かった。それではいくぞお前達。フリンスとアークシーをつれて来い」

先導してエレベーターに向かい始める。

「どこに行くんですか?」

サラサが聞くと。
彼はくるりと振り向いて、ジト目で彼女達を見た。
そして軽く頭を振って肩をすくめる。

「うわぁ何かすごくムカつきますよその態度」

ムッとして幽霊が言うと、猫はバカにしたように言った。

「やかましいぞ幽霊。決まっているだろう。当初の予定通り、こやつらを病院に連れていくまでだ」

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天寧霧佳

【長編ギャグ小説】ラルロッザの学園都市【連載中】

魔法学園都市ザインフロー。 そこに暮らす一癖も二癖もある魔族達。 今日も今日とて彼らは往く。 この奇妙な日常を! 天使と大魔王の娘、フィルレイン・ラインシュタインを中心として……。 魔族の生徒会員達が大暴れ!! 波乱と、そして恋の行方は……!?
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