ラルロッザの学園都市 39

第32話 「街へ遊びに行こう」 ②

「…………」

ものすごく肩身が狭そうに椅子に腰掛けたうさぎ耳の獣人娘、テュテ・バルザンガールが横目で周りを見回す。
その隣でリンがもぐもぐとパンを頬張っていた。

「どうぞ」
「あ……どうも……」

ロッタに紅茶を置かれて、こいつ私とたいして年齢違わないよな……と上目使いに彼女を見上げる。

「あの……」

おどおどとテュテが口を開くと、少し離れたソファーに腰を下ろしていたセンが頷いた。

「ああ、今日はうちのリンを頼みます。めっちゃご迷惑をおかけすると思いますけど……」
「任せてなの! パパ様!」
「アンタは黙ってなさい」

ガッ、とリンの頭を掴んで黙らせて、ロッタがにっこりとテュテに笑いかけた。

「ほんと……ご迷惑をおかけしますわ……」
「迷惑かけること前提なんスね……」

既にゲッソリした顔でテュテは答えると、センとロッタを交互に見てから言った。

「……てゆうか……お二人ってほんとにご夫婦だったんですね……」
「夫婦っていうか……何というか……」
「うん……何というかな……」

すごく微妙な顔でお互いの顔を見合わせてから、ロッタは引きつった顔で言った。

「それにしても、テュテさん、でしたっけ? どこかでお会いしたことありましたっけ?」
「なかったような……あったような……」

思い出したくないことを思い出したテュテが、頭を押さえて息をつく。

「まぁ……今日は三年生の課外学習ってことで、俺がリン……さんの付き添いに選ばれてしまったわけで……」
「うん! 教授に頼んだら快くOKしてくれたの! 歯の神経をちょっとね……」
「教授に何してんだおめー!」

テュテが物凄い勢いで突っ込んでむせる。
そして頭をまた押さえてため息をつく。

「……はぁ……前にも言っただろ? 俺体弱いんだから……特に朝は低血圧で辛いから、突っ込ませないでくれよ……」
「不憫な体に生まれたの……」

哀れみをこめた瞳を無視して、テュテはロッタを見た。

「まぁ……ちゃんとここに連れて帰りますから。頑張ります……」
「大丈夫か……? 辛かったらいつでも俺達に電話をくれよ?」
「あんまり無理しちゃダメよ……?」

センとロッタに労るように優しく言われ、テュテは三白眼のような目でリンを見下ろした。

「……お前、パパとママにどんだけ迷惑かけてんだよ……」
「子供は迷惑をかけることが仕事だって、ひいお爺ちゃんが言ってたの!」

グッ、と拳を作って力強く宣言するリン。
テュテは、既に心配で青白い顔になっている父母に、力なく笑いかけた。

「解き放たれたの!」

学園出発の馬車から飛び降りて、リンが背伸びをして大声で叫ぶ。
ズゥン! と周囲の空気が揺れた。
通行人の皆さんが立ち止まって、地震か! と周りを見回す。
テュテが首を引っ込めて馬車を降りてきた。

「やめろ……! 力を抑えろ……! 漫画みたいな地鳴りが起きたぞ……」
「ちょっと気が抜けたの」
「それと、今日は遊びに来たんじゃないからな。ちゃんと課外学習していかなきゃいけないの。そこら辺分かってる?」
「分かってるの! とりあえずあそこのコンビニのピルクルを買い占めにいくの」

ガッ! とロッタがやったようにリンの頭を掴んでテュテが彼女を見下ろす。

「分かってないのはよく分かった」
「うさぎも最近アイアンクローの極め方が様になってきたね……」
「ココらへんのツボを抑えればお前の動きが止まることが分かったからな……」
「卑怯な……!」
「いいから。とりあえず今日、お前と俺の課外学習を担当してくれるパン屋に行くぞ」
「ピルクルは?」
「ちゃんと全部出来たらやるよ。ほら行くぞ」

リンの頭を解放して、テュテは歩き出した。
その隣にリンが慌ててついてくる。

「……お前、少し見ない間にえらいでかくなってねぇか?」

そこでテュテが怪訝そうにリンに言った。
リンが首を傾げて答える。

「男子三日会わずば刮目して見よってやつなの」
「難しい言葉知ってるな。あーそうだな」

適当に返事をして、テュテは下町の商店街に足を踏み入れた。
野菜屋や肉屋など、食材をよく扱う店が並んでいる。
制服を来た女生徒二人は珍しいらしく、開店の準備をしている皆さんが手を振ってくれる。
リンも笑顔でそれに手を振り返しているのを見てから、テュテは携帯の画面をチェックして、古ぼけた小さなパン屋の前で足を止めた。

「ここだな」
「ここで何をするの?」
「うん、まさか一から説明しなきゃいけないパターン?」
「お願いするの」
「この野郎……」

額に青筋を浮かべてから、テュテはまたため息をついて言った。

「……あのね、お前ら少等部の三年生は、今日は下町とかのいろんなお店で、職場体験の課外授業。俺らはその付添い。俺は抵抗したんだけど、何故かお前の付き添いに指名されたの。おわかり?」
「うん。私が教授に……」
「あーあーそれ以上は言うな! 聞きたくねえ!」

玄関でギャーギャー騒いでいる二人だったが、そこでキィ……とパン屋の扉が開いて言葉を止めた。
腰が曲がった老婆が、杖をつきながら顔を覗かせたのだ。
彼女は二人を見るとニッコリ笑って口を開いた。

「おやおや。騒がしいと思ったら。貴女達が、学園の課外授業でいらした子達?」

優しく呼びかけられて、リンは力強く頷いた。

「そうなの! よきにはからえ!」
「何でいきなり王様気分なの……!」

テュテが慌ててリンを脇に押しやって前に出る。

「すみません、こいつバカで……」
「バカにバカって言われたくないわ」
「……おかしいな? 何か今どす黒い標準語が聞こえたんだけど……」

ガッ、とリンの頭にアイアンクローを極めて黙らせてから、獣人の子は引きつった笑顔で老婆に頭を下げた。

「お世話になります。私はテュテ・バルザンガール。学園の高等部一年生です。こいつは……」
「リンフロンです!」

プルプルしながらリンが名乗る。
老婆は特に気にしていないのか、ニコニコしながら二人を店に招き入れた。

「テュテちゃんにリンフロンちゃんね。助かるわ。このお店、主人が亡くなってから私が一人でやっていてねぇ」

いろいろな薬草なども並んでいる。
しかし、綺麗に整頓されたパンの棚は空っぽだ。
小ぢんまりとした店だったが、椅子とテーブルもあってその場で食べられるようにもなっていた。

「素敵なの! いくらでここ売ってくれる?」

リンがテュテに頭を解放された途端に爆弾発言をぶちかます。
テュテが突っ込もうとして咳き込んで失敗した。
しかし老婆は笑顔でリンとテュテに、ポンポンと小さなパンを手渡した。

「さっき焼いたばかりでねえ。食べてごらんなさい」
「はいなの!」

素直にリンがパンを口に入れる。
その瞳が真っ赤に、フラッシュのように輝いた。

「……うまい……!」
「お、ホントだ。美味しいッスね」
「鬼ババの焼くパンと比較にならない……!」
「お前あとでそれアルヴァロッタさんに報告するかんな」

テュテの言葉をガン無視して、リンは目を真っ赤に発光させながら老婆に詰め寄った。

「な……何入ってるの? 危ないの? ヤバい橋渡ってるの?」
「ほほほ……面白い子だねえ。何も入ってないよ。ただのバターパンだよ」

老婆は厨房に入ると、手招きして二人を招き入れた。

ノーム族という、小人に分類される妖精の老婆だった。
名前はアンジュナと言うらしい。
流石に事前に、リンの身元については知らせてある。
商店街のどこもが、「あの」アルヴァロッタが関わっている子供だと聞いて尻込みしていたが、この店だけが二つ返事で課外授業を承諾してくれたのだ。
最初はパンを焼いて、焼けた端から、陳列していくということをなかなか理解しなかったリンだったが、アンジュナにまたバターパンを渡され、目を輝かせて彼女の脇についた。

>③ に続く

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天寧霧佳

【長編ギャグ小説】ラルロッザの学園都市【連載中】

魔法学園都市ザインフロー。 そこに暮らす一癖も二癖もある魔族達。 今日も今日とて彼らは往く。 この奇妙な日常を! 天使と大魔王の娘、フィルレイン・ラインシュタインを中心として……。 魔族の生徒会員達が大暴れ!! 波乱と、そして恋の行方は……!?
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