ラルロッザの学園都市 36

第31話 「ここから見る景色」 ④

「しかし……捕まえるって言っても一体どうすればいいんですの?」

アイカが車椅子を操作しながら、下町の舗装された道路を進む。
その脇でゲッソリした顔で周りを見回しながら、ロッタが答えた。

「……まぁ、何かの事情はあるんだろうけど。いいんじゃない? 両手両足の骨を粉砕すれば、流石に動かなくなるでしょ?」
「うわぁ残酷! わたくしが考えていたことの更に上を行きましたね」
「あたしに喧嘩を売るっていうことがどういうことか、上下関係をはっきりさせないといけないわ。よく言うでしょ? 子供って初期教育が大事なのよ」
「気持ちは分かるが、今回はカランフロンの時のように攻撃してはいけないそうだ」

ゼマルディの携帯をいじりながらクヌギが口を開いた。
画面にはセンの魔力を感知しているのか、赤い点が地図上に動いているのが見える。

「……あーもう、ほんともー! どういう状況なのよ! あのバカは何考えてんの!」

地団駄を踏んだロッタの脇で、アイカが車椅子を止めた。
その視線を見てクヌギが路地の方に目を向ける。
多数の黒い衣装を着た幽霊のような影が、ものすごい速度で家の屋根から屋根を飛び回っているのが一瞬見えたのだ。

「うっわ……あれって中央テレビの……」
「マズいぞ。スレイヤーだ」

クヌギが歯を噛んでゼマルディの携帯をアイカに投げた。
スレイヤー。
いわゆる、幽霊族の戦闘に特化した種族である。
ゴーストの中でもかなり魔力が高い存在で、その機動力と戦闘力、そして魔力は軍隊の暗殺部隊にも応用されている程だ。
勿論今回見られた影は軍隊のものではない。
もっと厄介だ。
いわゆる、有名人のパパラッチを主軸に行う、テレビ局の「犬」と呼ばれる報道陣だった。

「……スレイヤーが出てきてるの?」

流石にロッタの顔色が変わった。
彼女達も一応かなりの有名人である。
スレイヤーの恐ろしさは誰よりも知っている。
神出鬼没の幽霊達にかかっては、対策をしていないと私生活の一挙手一足投まで撮影され、スクープにされてしまうのだ。
そのような危険な存在を多数放った、ということはテレビ局も本気だ。
逃げ回っている……いや、違う。
「獲物」と化したニジレンフロを撮影するために、なりふり構ってもいられなくなったらしい。
スレイヤー達は魔力を極限まで抑えていたようだが、アイカとクヌギは視認をすることができたようだ。
ロッタは呼吸を整えると、祭の喧騒の中、クヌギの脇にピッタリとついた。

「……どこ?」
「屋根の上を五匹走っていくのが見えた。一匹、右の建物の屋上から俺達を監視しているな。少し離れたところにもいる。つけられてるぞ」
「どうします? スレイヤーなら別に消し飛ばしてもいいんでは?」

アイカが低い声でそう言って、ポケットからドロドロの紫色の液体が入った試験管を取り出した。
クヌギは、スレイヤーがいる、と言った右側の建物を見ないようにしながら押し殺した声で言った。

「まぁ、スレイヤーを冥界から喚び出す事自体『外法』だからな。違法行為だ。こうなっては話は別だ。犠牲者が出る前に駆除しつつ、ニジレンフロを保護しないとまずいことになるぞ」
「めんどくさいわねぇ……もう。結局戦うことになるんじゃない」
「マルディ連れてこなくて良かったですね。にゃんこに電話します?」
「いないよりはいた方がいいだろう。呼んでみてくれ。俺は右上にいるのを始末する」
「あたしは?」

周囲に視線を配りながら聞いたロッタに、クヌギは両手にウィンウィンと音を立てながら高密度の魔力を収束させつつ言った。

「俺がゴンザリックカタストロフィを放ったら、マロンを連れてここから離れろ。後から追いつく」
「分かった」

短くやり取りをして、ロッタはアイカが乗っている車椅子の取っ手を片手で掴んだ。
次の瞬間、クヌギが大きく体をのけぞらせて、両手に浮いた真っ黒い「何か」の塊を打ち出した。

「消えてなくなれェエエエ!」

物騒極まりないセリフを叫んで放たれた球体が、銃弾のように祭の群衆の頭上を吹っ飛んでいき、少し離れた建物の屋上に突き刺さった。
カッ! と真っ白い光が吹き上がった。
クヌギの、恐ろしい密度で圧縮された魔力が、まるでナパーム弾のようにエネルギーを噴出して爆裂したのだ。
一瞬、祭の喧騒が静かになった。
次の瞬間、風の渦が炸裂し、周囲に突風が吹き荒れた。

「行け!」

クヌギの声を聞いて、ロッタがアイカの車椅子を引きながら走り出す。
アイカが車椅子を後ろから引っ張られて高速移動しながら、悲鳴が入り乱れはじめた下町の中、電話口に向かって大声を上げた。

「ですから! スレイヤーがいるんです! 魔獣駆除委員会に連絡して、すぐこっちに来てください!」
『何じゃと! まさか今爆発した魔力は、お前達の仕業じゃ……』
「他に誰がいますの!」
『アホォォォ! 派手な騒ぎを起こすなとあれほど……』
「スレイヤーはそんなの待ってくれませんわよ!」

電話口の向こうに怒鳴り返して、アイカは話は終わりと言わんばかりに通話を切った。
そして胸の谷間に携帯を突っ込んで、恐ろしい勢いで車椅子を引きずりながら走っているロッタを見上げる。

「二匹追ってきてますわ」
「何とかして!」

走りながらロッタが怒鳴る。
逃げ惑う群衆をすり抜けるようにして、黒いペストマスクをつけた「影」が二つ、凄まじい速度で二人に接近してきていた。
それら……「スレイヤー」に触れた通行人が、途端に力を失ったかのように白目をむいて崩れ落ちる。
スレイヤーは、触れた相手の生命力を奪う。
殺しまではしていないようだが、危険生物に指定されている恐ろしい存在なのだ。
彼らはパパラッチ対象の生命力を奪って、行動できないようにしてからガサ入れを行う。
アイカは自分達を追ってきている二匹を見て鼻を鳴らし、持っていた紫色の液体が入った試験管を放り投げた。
それが弧を描いて飛んでいき、スレイヤー達の目の前で地面に打ち当たる。
次の瞬間、クヌギが先程放った魔力弾が爆発したような火柱が吹き上がった。
爆音と爆炎、そして飛び散った瓦礫と爆風で、周囲の建物のガラスが吹き飛び、壁にヒビが走っていく。
爆発にモロに巻き込まれたスレイヤー達が、陰惨な悲鳴を上げながら火だるまになって空中に跳ね上げられた。
そしてバタバタと暴れて掻き消える。

「何とかしてっては言ったけど! やりすぎ!」

後ろの大爆発を横目で見て、ロッタは怒鳴った。
車椅子の上で息をついて、アイカは胸の谷間からポンポンと試験管を取り出しながら淡々と返した。

「わたくしのせいじゃないですわ。クヌギさんの魔力を爆薬に混ぜて閉じ止めておいただけですもの。爆発の威力が強いのは、あの人のせいです」
「何やってんのよ!」

そこまで怒鳴って、ロッタは夜の街……その家の屋上を飛び跳ねるように移動している複数のスレイヤー達を目で捉えた。

「……行かせないわよ……」

ギリ……と歯を噛んで、押し殺した声を発する。

「まぁいいわ。全部始末するわよ! 外法生物なんて許せない!」
「勿論ですわ」

ニコニコしながらアイカが試験管をジャラリと構える。

「まぁ、多少の犠牲はやむをえないでしょう」

遠くの方で何かが爆発する音を聞いて、ニジレンフロが顔を上げた。

「……花火?」

首を傾げて空を見上げた彼女に、センは肩をすくめて返した。

「ああ……ウチの邪神達が暴れてるんだろ……」
「え……? 何、どういうこと?」
「全部まいたけど、スレイヤーが結構街の中にいる。多分あいつらが攻撃してるんだと思うよ」

何でもないことのようにセンは言ったが、ニジレンフロはそれを聞いて真っ青になった。
途端に震えだして足を滑らせかけた彼女を、手を伸ばしてセンは支えた。

「しっかりしろよ。ここは『聖域』だから、スレイヤーは入れない。安心して大丈夫だ」

>⑤ ヘ続く

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天寧霧佳

【長編ギャグ小説】ラルロッザの学園都市【連載中】

魔法学園都市ザインフロー。 そこに暮らす一癖も二癖もある魔族達。 今日も今日とて彼らは往く。 この奇妙な日常を! 天使と大魔王の娘、フィルレイン・ラインシュタインを中心として……。 魔族の生徒会員達が大暴れ!! 波乱と、そして恋の行方は……!?
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