ラルロッザの学園都市 - 5

第5話 「ロボドラゴンの逆襲」

いつものようにフィルとクヌギが、仲良く手をつなぎながら生徒会室に入ると、実に猟奇的な光景が目に飛び込んできた。ソファーの上で、生徒会長のドラゴン族、センが交際相手である妖精族の少女、ロッタに四の字に絞められ、喉仏を足首で圧迫されていた。十七歳の少女にしては高度なプロレス技なのだが、見慣れている吸血鬼と怪鳥族のカップルは、それをちらりと一瞥した後、表情を変えずに談笑をしながら、少し離れた場所のソファーに腰を下ろした。
ロッタに容赦なく締められているセンが、必死に助けを求めてクヌギの方に手を伸ばす。顔が真っ赤になっている。声が出せないらしい。

「死ねぇぇ……!」

物騒極まりないことを口走りながら、背中に生えた四枚のトンボ羽をバタバタさせるロッタ。
センの腰下から生えたトカゲ尻尾が、ビクンビクンと痙攣している。

「それでね、私今日のテストでね、AAA取ったんだよ」
「フィルは凄い子だな。俺は、未だに過剰定数の分解意義が良く理解できん」
「紋章物理定義のミーシアス四条を入れれば簡単だよ。そうだ、私のお部屋に行ってお勉強しようよ」
「いいのか?」
「うん。今日のお話し合いが終わったら行こうよ」

第十五生徒会室の長テーブルで紅茶を飲みながら、額に牛角を生やした少年……ゼマルディが、そこで初めて呆れた声を発した。

「そこのバカ二人。スルーするにも程があるんじゃないか?」
「そうだな。今度は何をしたんだセン」

くるりと、どうでも好さそうに視線を回してクヌギが言う。

「きづいてたのか……」

ゼマルディが呟いた途端、グルリとセンが白目を剥き、体の筋肉を弛緩させた。

部屋の中には、まだ授業が終わって間もないせいかその五人しかいなかった。
気絶から目を覚ましたセンが、ソファーの上に憤懣やるせないという顔で足を組んだロッタの脇に正座させられている。

「……もう嫌だ……」
「何か言った?」
「いえ、何かもう全てがごめんなさい」

諦めきった顔で空虚な謝罪を口にするセンを睨みつけ、ロッタは冷ややかな目で、自分に集まっている三人の視線を見返した。

「何よ?」
「いや……落ちつけよアークシー。どうせセンが悪いんだろうけど、殺しちゃだめだ」
「俺は何もやって」
「何か言った?」
「ごめんなさい」

そこを、まぁまぁとフィルが手で制しながら口を開く。

「ロッタ、どうしたの?」
「あたしがやった魔法円の紋章実技学の課題、こいつが勝手に先生に提出したのよ」
「いつものことでしょ?」

ケロリと聞き返され、しかしロッタは歯をギリ……と噛んで、万力のように隣の彼氏の頭を掴み、締め付けた。

「今度という今度は見逃せないわ。何よりあたし今、見逃せる気分じゃないの。馬鹿は死ななきゃ治らないっていうけど、じゃあいっぺん殺してから矯正しようと思ってね……」
「頭が割れる……ッ!」
「ロッタ、いいじゃないか。どうせセンにやらせてもできないんだし。いつもみたいに笑って許してやれよ。恥をかくのは俺たちなんだから。それに殺しちゃだめだ。何そんなにイラついてるんだよ。生理か?」
「そうよ何か文句ある?」

睨みつけられ、ゼマルディは言葉を飲み込んだ。
妖精の美少女がさらりと肯定したことで次に発するべき言葉が見つからなくなったらしい。相手は相当頭に血が昇っているようだ。

「どうした? アークシー、体の調子が悪いのか?」
「ロッタ、治してあげようか?」

心配そうに聞かれ、ロッタはドン、とセンの脳天を手で叩いてから言った。

「いいからほっといてくんない? あたしとこいつの問題なの。これからこのバカを冥土に送り届けるんだから」
「いや、だから落ち着けって。センもほら、何とか言えよ」
「産まれてきてすみません……」
「何卑屈になってるんだよ」

マルディに言われ、しかしセンはプルプルと震えながら続けた。

「いいんだ……俺一人が犠牲になれば済むことなんだ……」
「セン……お前って奴は……」

息を呑んで牛角の少年が彼を見る。
そして親指をグッと立てた。

「そういうことなら仕方ないな。任せた」
「……いいんだ……何も期待してないから……」

諦めきった生徒会長の前で、ゼマルディを先頭とした生徒会員達が立ち上がる。

「ロッタ、具合が悪いなら後でお部屋に来てね。治してあげるよ」
「フィルフィル、あんたも大人になれば分かるよ……」
「何を言う。フィルはもう十分大人だ」
「いいからとっとと消えて……!」

抗議しかけたクヌギを睨みつけ、ロッタが彼らをエレベーターの方に眼力だけで追いやる。
下降を始めたエレベーターの中で、不思議そうに顔を見合わせているクヌギとフィルに。
ゼマルディはため息をついて言った。

「今度は死んだかもしれないな」

生徒会室の隅に打ち捨てられていたセンは、ツンツンとつつかれて目を覚ました。軽く頭を振って、そして自分を覗きこんでいる人魚の少女を見上げる。

「どうしたんですの? えらく手酷くやられましたわね……写真に収めるにも不憫すぎて一瞬ためらいましたわ」
「……」

それに答えることなく、センは自分と彼女しかいない生徒会室を見まわした。そしてため息をついて床の上に胡坐をかく。
背中を丸めているセンを不思議そうに見て、車椅子の上からアイカは言った。

「元気がないですわね。いつもならいじめられればいじめられるほど元気になるじゃないですか。何か辛いことでもあったんですの?」
「いや……いいんだ」

いつになく気弱に呟いて、彼はくしゃくしゃになった髪を、手櫛で直した。

「さっきロッタがものすごい勢いで飛んで行きましたけれど、またお尻でも触ったんですか?」
「……」

軽口に乗らずに、センはふらふらしながら立ち上がり、そして椅子にかけていた制服を手に取った。それを羽織って、ひらひらとアイカに手を振る。

「今日は帰っていいぞ。俺も帰る」
「ちょっ……どうしたんですの? センさんらしくありませんわ。お馬鹿なあなたはもっと元気じゃなくては……」
「悪い……そんな気分じゃないんだ」

ボソリと呟いて、エレベーターに乗ろうとする彼を、慌ててアイカが呼びとめた。

「お待ちくださいまし」
「……」

振り返った彼に、戸惑いがちと言った感じでロッタがカバンの中から取り出した小さな包みを差し出した。絹と上質な羊皮で包装をされたものだった。上の方には小奇麗にリボンが取り付けられている。

「何があったのか知りませんけれど、まぁ男の子には色々ありますわ。何か困ったことがありましたら、これでも使ってくださいまし」
「何これ……」
「この前、センさんの頭にアンテナを刺したまま忘れていたお詫びですわ。安全性は保障できませんけれど、効果は折り紙つきです」
「保障できないのかよ」
「サラマンドルの子供を使っていますので、取扱いには注意して下さいね」

しばらく小包を見降ろし、しかしセンは、彼女が危険だというそれをポケットに仕舞いがてら、そこではじめて軽く微笑んでみせた。

「ありがとう、マロン。寮に帰ったら開けてみる」

てっきり憎まれ口か文句でも叩かれるものと思っていたらしいアイカが、一瞬キョトンとしてから――静かにしていれば相当な美男子であるセンの緋色の瞳に見つめられ、僅かに赤くなる。

「な……なにシリアスになってるんですの? やめてくださいまし。妊娠します」
「しねぇよ。じゃあな」

軽くそれを受け流し、人魚の頭をくしゃくしゃと撫でてからセンがエレベーターに乗る。アイカはしばらくそれをぼんやりと眺めていた。

「で、こういう状況になったわけか」

淡々とゼマルディが呟き、頭を押さえる。次の日、朝の会議を始めるために生徒会室に集合した生徒達は、皆言葉を失って上座に座っているものを見ていた。

「いえ、まさかこんなにセンさんが思いつめているとは……ほんの冗談のつもりで渡したのですが、ご自分を実験台にするとは」

アイカが両頬を手で挟み、考えこむ。

「……願ってもないことですわ……」

ボソリと呟いた彼女を呆れた顔でゼマルディが見た。

「お前、センに誰かに悪戯をさせるつもりだったのか……」
「それにしても、アークシー様がお休みの今、この状況は少しまずいのではないでしょうか」

部屋を浮遊していた幽霊の少女、サラサが口を開く。そして彼女は、いつもならセンが座っている場所に視線を落とした。
何か、キリキリカチカチという機械音を立てながら、人間大のものが腰をおろしていた。
姿かたちはセンそっくりなのだが、動きが妙にぎこちなく、そして頭の両脇に煙突のようなものが生えている。時折白い煙を発していた。

「アークシーさんは一生休んでいればいいんですわ。そのまま人生からリタイアしてほしいものです」

盲目のドラゴン、ルイが呟き、黒い笑みを発する。

「ロッタ、お腹が痛いんだって。治してあげようとしたけど、絶対に嫌だって言われちゃった」

表情を落としてフィルが口を開く。その隣でクヌギが考え込んだ。

「また帰りに寄ってみよう。アークシーのことだ。拾い食いでもして恥ずかしいんだろう」
「お前らロッタが聞いてたら殺されるぞ……てゆうか、もっと気にしろよ、コレのことを」

ビシッ、と機械の作動音を立てている何かを指差しゼマルディが言う。それを見て、フィルが首をかしげた。

「生徒会長さんがどうかしたの?」
「マルディ、ににさまがどうかしたのですか?」

吸血鬼と妹の問いかけを聞き、センの形をした何かはノイズが混じった声を出した。

「ハッハッハ。ボクハイツモドーリサ! フィル、ルイ! 今日モイチダント綺麗ダネ!」

右手をビシッと挙げて格好をつけてみせる。
いきなり綺麗だと言われたルイは耳元まで真っ赤になって顔を手で覆った。

「ににさま……」
「ルイ、アイシテルゼッ! フィルモダ!」

パチリ、といびつにウィンクをして見せる。見えてはいないのだろうが、ルイは胸を抑えながら真っ赤になった顔を手で覆った。
フィルはしばらくポカンとした後、クヌギの方を向いた。

「愛してるって言われちゃった……」
「無視しろフィル」
「いやそれよりも大切なことがあるだろ」

ゼマルディはガタン、と椅子を蹴立てて立ち上がり、そしてカクカクと動いているセンを指差した。

「明らかにロボだろこれ! まずはそれを疑問に思えよ!」
「んま……っ、失礼ですマルディ。にに様のことをロボなどと!」

ルイが眉をしかめて口を開く。

「いや、ルイお前こいつの妹だろ……」
「わけのわからないことを言わないでくださいまし。にに様、何だかマルディがおかしいです」
「ハハハッ、ルイ。ソレハ奴ノアタマノナカガスポンジダカラサ! オマエトチガッテナ!」
「マルディの頭の中は……スポンジ……!」
「真に受けるなルイ! お前も余計なことを言うんじゃねぇ!」
「アァマロン。キョウモイチダント綺麗ダネ! 君ト地平線マデ泳イデユキタイ」

声をかけられた人魚の少女はため息をついてから肩をすくめた。

「どうしてか知りませんけれど、何だか一段とジゴロになってますわね。そしてうざいです」
「てゆうかどうしてこいつらは気付かないんだ……?」

フィル、クヌギ、そして双子の妹であるはずのルイには気づいた風がない。

「お馬鹿だからじゃないですか……?」

ボソリと呟いたアイカは、自分の方に伸ばされてきたセンらしきものの手をピシャリと叩いてから、ゼマルディとサラサに向けて言った。

「とにかく、これをこのまま授業に解き放つのは危険ですわ。何とかしませんと。よくここまで来れましたわね……帰巣本能でしょうか?」
「サラサ! キミノスキトオッタ肌ガボクノココロヲコンナニモ狂ワセルナンテ!」
「で、このムカつく物体は何なんだ?」

ゼマルディがため息とともに言うと、人魚の少女は肩をすくめてから言った。

「ダミー人形ですわ」
「ダミー?」
「機械仕掛けのマリオネットに、隠密行動の呪物を組み込んだものでして。その人の意識を吸い取って、数日間人格をコピーして、代わりに動いてくれますの」
「何その夢の機械」
「まぁそうなんですけれど……まだ人格調整が上手くいかないですし。何より、これ、あくまでも呪いの産物ですから」

にっこりと笑って、人魚は言った。

「長いこと身代わりさせてると、本体の魂をとり殺しちゃうんです」
「……」

唖然とした牛男と幽霊を見てから、アイカは困ったと言わんばかりに顎に手を当てた。

「しかし困りましたわ……ロッタなら呪物への耐性もあるのでテストプレイをお願いしようとしていたのですけれど、あの子、絶対に嫌がりますでしょ? ですから、センさんに、代わりに悪戯で彼女への鬱憤を晴らしていただこうとしたのですけれど……」
「お前ほんとにアークシーの友達なのか……?」
「そ、そんなことより。セン様が今度こそ本当に死んでしまいます。はやく解呪しませんと」

サラサが白い顔を更に白くして言う。その目に、ぞろぞろとフィル、クヌギとルイが教室に移動を始めるのが見えた。フィルはチラチラとセンを見ている。頬が赤い。クヌギが無理やりそれを押しやっていた。

「ノーランド、後で覚えておけ!」

一言言い放って彼らがエレベーターに消える。

「マロン、結婚シヨウ!」

機械的に呼びかけてきたロボットセンの手をピシャリと打ちおとし、人魚は言った。

「さて……お馬鹿な皆さんも行ったことですし、とにかく何とかしませんと。本能的な部分の願望を抽出して、具現化するようにしていますの。その方が人間の人格は動かしやすいので。でもこのままでは学園中の女の子に求婚しかねないですわ。こんなに破綻した性格になるわけがないのですけれど……よほど深層意識がエッチなんでしょうね……」
「どんだけ煩悩で生きてんだよこいつ」
「サラサ、ドウダイ、今日ボクトショクジニイコウ!」
「え? セン様……そんな、私なんかでいいんですか……?」
「反応するなサラサ! くそっ、何でこんな時に限ってアークシーがいないんだ」

立ち上がろうとしたダミー人形の首をチョークスリーパーで極めながら押さえつけ、ゼマルディが言う。その彼に、慌ててアイカが車椅子を後退させながら言った。

「マ、マルディ。ダメです手を放して!」
「え? だ、だって抑えてなきゃこいつどこに行くか分かんねぇぞ!」
「ダメなんです、それゴーレムですから。私達ごときの力じゃビクとも」

途端。

「ケガラワシイ! オトコガボクニサワルナ!」

一言そう叫び、ロボセンが勢いよく立ちあがった。そして片手でゼマルディの足をつかんで振り回し、ブーメランのように生徒会室の空いていた窓に投げ飛ばす。
容赦のない攻撃に、牛男が叫び声を上げながら吹き飛んでいくのが、二人の少女の目に映った。
ボスン、という音がして外の大樹に頭から突き刺さり、枝を折り散らしながら地面に崩れ落ちたゼマルディが、ガクリと首を垂らす。
窓からそれを見降ろし、サラサはポツリと言った。

「では、私は逃げますので。マロンさん、後はよろしくお願いします」
「ハズカシガルナフタリトモ! オレノ側室トナレ!」
「もともと節操なしだったのが更に節操なしになってますわ……! サラサさん、逃げるのでしたらセンさんを起こしてきて下さいまし。本体が寝ているはずですので、起こせば元に戻ります」
「しょ、承知です!」

頷いてテレポートしようとしたサラサとアイカの目に、その時ロボセンが着ている制服の背中が、内側から盛り上がって破れるのが見えた。

「へ……?」

今まさに消えようとしていたサラサが、彼の背中から飛びだして向かってきた、細長いコードの束を見て硬直する。呆気にとられた声を残して、サラサの胸に先端のプラグが突き刺さった。途端に幽霊である彼女の体が青白く発光し、コードを伝ってロボの方に光が移動する。
ゴクリと喉をならした機械人形の眼前で、幽霊の少女が力を失って頭を垂らし、その場にふわーっと浮き上がった。

「ワガ魂トヒトツニナルノダ!」

またロボが叫び、今度はアイカの胸にもプラグが突き刺さる。
自分の体から魂という生命のエネルギーを吸い出されていくのを感じながら、アイカは心の中で青くなった。

(センさんの魔力が強すぎて暴走しているんですわ……)

慌てて抗おうとした時には遅かった。車椅子の上に力なく横たわった人魚を一瞥し、ロボはエレベーターに向けて足を踏み出した。

パニックになっている学園生徒会区画に熱ぼったい頭を抑えながら、ロッタが足を踏み入れたころには、既に地獄絵図になっていた。立ち向かった男子生徒達は死屍累々となっており、女子生徒達は魂を抜かれて地面に横たわっている。ロボセンは生徒会搭を一階ずつ下層に降りて行ったので、やられているのは生徒会員だけであるのは、一抹の救いではあった。
一度塔の外に出て、教室に行こうとしていた生徒会員を襲ったらしい。

「どうなってんのこれ……」

周りをぼんやりした視界で見回しながら、とりあえずロッタは恐る恐る塔の入口に足を踏み入れた。いつもの彼女なら、すぐにその場を離れて応援を呼ぶ判断ができたのだが、熱が出ているのでそこまで頭が回らないらしい。
そこで、ずるずると体を引きずりながら、ボロボロになったゼマルディが近寄ってくるのを見て、ロッタは頭を抑えながら口を開いた。

「……何してんの、あんたら……」
「アークシー……何でここに……休んだんじゃなかったのか……?」
「おなか痛くて、医務室に薬もらいにいくのよ……何、あんたがやったのこれ?」
「バカ、逃げろ。てゆうか誰か先生呼んで来い……早く……」
「やめてよあたし今走れないんだから。生きてるんだから自分で頑張って」
「んなこと言ってる場合じゃ」

そこで彼らは、妙にマッシブに制服を膨らませた、魂を吸ってパンパンに胴体を膨らませたロボセンが、塔の入口に立っているのを見た。背中からはコードが伸びてゆらゆらと揺れている。
彼はロッタを見ると、パッと顔を輝かせて彼女達に向けて、ものすごい勢いで走りだした。

「アークシィィ! オレノ正妻トナレェェ!」
「何あれセンじゃない……今日は不気味にたくましいわね……」
「何でお前らって区別がつかないんだ……? 俺だんだんあいつのことがかわいそうになってきたよ……」

ふらふらしながら、ロッタが頭を押さえる。

「またあいつ何かやったの? 勘弁してよもう……」
「アークシィィィ!」
「逃げろロッタ、俺が何とかすふぐぁ!」

前に飛び出ようとしたゼマルディがあっさりと弾き飛ばされた。空中をきりきり舞いして、どしゃりと地面に崩れ落ちる。

「ケッコンシテクレェェ!」

喚きながら突進してきたセンをかったるそうに見上げ。
そしてロッタは一言、ボソリと言った。

「……うざいよ?」
「……!」
「いつもうざいけど、何? いつにも増してうざい……あたしが弱ってるの知っててやってるの? ふーん……ちょっとこれは頭にきたなぁ。昨日に引き続き二回も、飼い犬に手を咬まれまくるとはこのことだわ」

目を見開き、ロッタにぶつかる直前でロボセンが停止する。プルプルと体が震えていた。
ロッタは冷ややかな目で、明らかにいつもよりも巨大な相手を見上げ。そして鼻の脇をピク、と痙攣させた。

「何? 文句あるの?」
「イ……イヤ……ボクノ、正妻ニ……」
「意味分かんないんだけど……何? 巨大化すればあたしに勝てるとでも思った?」
「正妻ニ……」
「いいからほら、ここに座んなさい」
「セ……」
「早く」

命令され、素直すぎるほど素直に、膨れ上がったセンがその場にしゃがみ、そして正座をしてから背筋を伸ばす。その頭をぺシぺシと叩き、熱でうつろな視線のままロッタは続けた。

「これあんたがやったの?」
「ケッコン……」
「質問に答えなさい」
「…………ハイ…………」
「あたしに反逆を企てたのかどうか分からないけど、とりあえず言うことがあるわよね?」
「………………」
「ないの?」
「……ゴメンナサイ……」
「謝って許されるなら警察はいらないわ。選びなさいセン。デコピン三百回と尻尾千切り。どっちがいい?」

にっこりと笑いかけられ、ガクガクガクとロボセンが震え出す。

「選びなさいよ」
「……」

ロッタは真っ赤に熱を持っている顔で、ゆらりとロボセンの目の前に指を持ってきた。

「あらそう。敢えて両方罰を受けるなんて……セン。あなた最高に素敵よ……」
「ヒ……」
「ねぇ、まだ言い足りないことがあるんじゃない?」
「ゴ……」

目の前に引き絞った中指を持ってこられ、機械人形が体中からバネと歯車、そして吸い取った魂を洩らしながら震え出す。数十秒もそのまま停止され、ついには目から大量のオイルと、体中から媒介液を垂れ流し。

「ゴメンナサイィィ!」

ビシコン、と額を弾かれ、口からすべての魂を吐きだした。

生徒会室で頭を抑え、ロッタはため息をついた。そして軽く首を振る。

「ごめん全然覚えてない……」
「全員の怪我治すの大変だったんだよ」

フィルに言われ、彼女は軽く肩をすくめた。

「あたし熱が出ると、その時のことよく思い出せなくなるのよね。だから何かしたらしいけど、さっぱりだわ」

そして彼女は、部屋の片隅で丸くなって震えているセンを一瞥し、指先でひょい、と彼を指した。

「ねぇ、それであいつは何であんなに卑屈になってんの?」
「ひぃっ!」

小さな叫び声を上げてドラゴンがビクッと体を震わせる。ガタガタと震えている彼を見て、近づこうとしていたロッタが逆に戸惑って動きを止めた。

「何? 何でそんなにビビってんの? あたし何かした?」
「魂レベルで服従を刻み込まれたんだな……」

ゼマルディがぼそっと呟く。

「まぁ、とりあえず死人が出なくて良かったじゃない。怪我人もフィルフィルのおかげで治ったんでしょ? 委員長がいないのが気になるけど、まぁいいよいいよ、よく分かんないけど水に流すよ」

気さくに笑って見せたロッタを、センが怯えた瞳で見上げている。人魚の姿はなかった。今日は学校を休んでいるらしい。

「お前がそれを言うのか……」

ゼマルディがまた突っ込んだのを完全に無視して、ロッタは手をポン、と叩いた。そしてカバンの中から小さな、高級皮で包まれた小包を出す。
それを震えているセンに向け、彼女はニッコリと笑った。

「あぁ忘れてた。あたし具合悪くてそれどころじゃなかったんだけどさ。あんた一昨日、誕生日だったでしょ? プレゼントも買ってきてあげたから、今日はみんなで第一食堂に――」
「ひぃぁあぁ!」

奇妙な叫び声を上げ。転がるようにエレベーターに駆け込んだセンを、呆然とロッタは見送った。

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天寧霧佳

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