優しさを偽造する

そぞろ歩きのちいさな深夜
足取りは変に軽いのに
どこに視線を送っても
歩みが満たされることはない

白い待宵草が
狂暴な昆虫のように翅をひらき
べつの生き物に変われた悦びを
あらわそうとしている
新しい牙を試したがってる

ぼくの肌には紅く歯形がのこり
滲んだ体液が少しずつ
少しずつ
夜に吸われてるのがわかるけど
足を止めて傷を確かめることもない
ぜんぶ
染み出してなくなってしまってもいいかな
ぜんぶ
めんどうだから

後ろから影がついてくる
暗闇に少し輪郭を光らせながらついてくる
振り返ると目を逸らす
同じ場所にできた傷を隠すみたいに
ぼくになりたいから
新しい生き物になりたいから

きみにぼくの身体をあげてもいい
もうしばらく後
白い花たちがぼくをはんぶん以上
吸ってしまったら
きみにこの食べ残しをあげてもいい
この身体を苗床にして
たくさんの影が飛び立つのを
ぼくは見られないけど
それでもいいかな

たくさんの視点があり
それぞれの欲望があり
身体が一つしかなくても
夜に溶け出してしまえばぜんぶ叶う気がする
白い待宵草が翅をひろげるみたいに
ぼくにも新しく脚が生えて
平坦な夜を
ずっとずっと歩き続けたい

街灯もないくらい道だから
何も見えてないし
本当は歩いていないし
夜じゃないかもしれないし
でもこの身体は
たしかに白い花たちにまとわりつかれて
少しずつしぼんでいってる

2021.06.15

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