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番外編4ボツシーン(『彼女が花を咲かすとき』とのコラボ)

※本編冒頭、「元町商店街の花屋に行く壮馬と雫」の場面に入れるつもりだったボツシーンです。冒頭試し読みと合わせて読んで、どこに入れるつもりだったか想像していただいてもおもしろいかも。(今回の文章量:文庫見開き弱)

 そうこうしているうちに、目的の花屋《あかり》に着いた。世界的に有名なフラワーデザイナーが始めた花屋のチェーン店だが、納得できる条件の場所にしか出店しないため、国内に数店舗しかないのだという。

 こんなすごい店が何気なくあるのも、元町ショッピングストリートの特徴だろう。

《あかり》元町店の店長は、花屋より格闘家の方が似合いそうなごつい外見で、ガタイのいい俺よりもさらにでかい。顔もいかつく、どうしても身構えてしまうが、雫は違う。

「こんにちは。榊がほしいのですけれど、ございますか。神前にお供えしたいんです」

 臆することなく、参拝者を相手にするときと同じ、かわいらしいにっこり笑顔を浮かべる。
 その途端、店長の方はでれでれ顔になった。

「いつもありがとう。久遠さんにそんな顔をして『榊がほしい』なんて言われると、サービスしたくなっちゃうな。お花も一緒にどう? 神さまにお供えしたら?」
「神道では、お花をお供えすることはないんです。榊だけお願いします」
「なるほど。榊だけね、榊だけ。よし、わかった」

 やけにうれしそうな店長と笑顔でコミュニケーションを取り、雫は大量の榊を安値で手に入れた。紙に包んでもらった榊の束を抱え、俺は雫とともに店を出る。

「またよろしく」
「はい、ありがとうございました!」

 店長に一礼して背を向けた瞬間、雫は冷え冷えとした無表情に戻った。劇的ですらある変化に、再びまじまじと見つめてしまう。

「今度はなんですか」
「その……表情が変わりすぎだな、と思いまして。いまのいままで、にこにこしてたのに」


あとがき(というか解説)
『境内ではお静かに』と『彼女が花を咲かすとき』は同一世界のお話なので、後者の主要人物・榊をカメオ出演させようと思って書いたものです。

榊のその後を示唆する場面だったのですが、『彼女が花を〜』を読んでいない人には意味がわからないのと、ページ数がぎりぎりだったので、ばっさり削除。「『榊だけお願い』と言われて喜ぶ榊さん」というのが、書いたはいいけど別段おもしろくなかったことも削除の理由です(笑)。

今後も劇中に登場することはないでしょうが、設定上、榊は光咲市から横浜の元町に移って花屋をやっていると思ってください。

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