緊急事態法制(非常事態法制)の必要性

前提

憲法秩序を一時的に停止して非常の措置をとること。権力分立から権力集中への移行がなされる。憲法秩序に変更が加えられないものは緊急権の範疇から除かれる。つまり、法律の範囲内で対応できるものは緊急権として扱わない。

類型

1.憲法に規定がなく超憲法的に非常措置がとられるもの

2.憲法に憲法を停止する規定があるもの

1.については、法の世界の埒外なので、通常は、2.に関する問題。憲法に規定することで1.に比べて濫用の恐れはないが、あまりに厳格に規定すると非常事態に対処できないから、この調整が問題となる。

諸外国の例(憲法との関係)

イギリス:Emergency Powers Act 1964;イギリスは憲法典が存在しないから、すべて議会の制定する法律で行われる。

アメリカ: War Powers Resolution 1973; National Emergency Act 1976; International Emergency Economic Powers Act 1977;憲法典は存在するが、憲法に規定のないものは「コモンロー」(いわゆる慣習法)が適用される。「マーシャル・ロー」(戒厳令)は、判例によって、「必要な場合」に発せられる。発令中は、憲法の規定は停止する。なお、アメリカの裁判所による違憲立法審査権も憲法に根拠はない。

ドイツ:基本法に明記;平時から非常事態まで段階的に政府の権限が拡大。政府の行き過ぎをコントロールするため「合同委員会」(連邦議会議員32名、連邦参議院議員16名、議会の政党の議員数の割合に応じて構成)がおかれる。

日本国憲法の場合

非常事態に関する規定が存在しないため、非常事態によって選挙が実施できない場合など、憲法違反が生じてしまう。

54条 衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から30日以内に、国会を召集しなければならない。

非常事態が発生した場合、かつ、それに対処できる法律が存在しない場合、かつ、両議院の定足数をみたす議員が召集に応じられない場合、法律を制定することができないから、政府も動けない。

56条 両議院は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。

参議院の緊急集会も不可能な場合は、国会の議決に代わる機関が存在しないことになる。

54条2項 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。

現行のままでは、「超憲法的な非常措置」によるしかない。

憲法改正が必要

総理大臣に権限を集中させる方式:行政機関に立法権を移行。

ドイツ的にミニ国会を置く方式:衆参とも選挙でえらばれる議院内閣制のもとでは、総理大臣に権限を集中させる方式とかわらない。

「非現実的かどうか」ではなく、「理論上ありうるかどうか」で考えるのが法理論。そのうえで、「明らかな非常事態」からはじめて、「グレーゾーン」の検討に入ること。最初から「グレーゾーン」を扱うと、集団的自衛権の議論のように、本質が見えなくなる。

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