H29.12.6受信料最高裁判決批判(4)

2.2民法414条2項但し書きによる意思表示の可否
 最高裁は、契約における意思表示を重視し、NHKが受信機を設置した者に対して、受信契約を申込んだことによって、一定期間の経過の後、自動的に契約が成立するとした高裁判決(東京高裁平成25年10月30日)を否定した。これにより、契約成立時期に関する争いは、一応の解決を見たといえる。しかし、最高裁が支持した民法414条2項但し書き「法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。」を、一般的に受信契約にも適用できるのかは疑問なしとしない。この規定は、債権債務の内容が具体的でなければ適用し得ないからである。受信契約に関しては、受信設備設置者がNHKに対して契約の承諾を求めることは可能でも、本件の場合、受信設備設置者の債務が不明確なために、請求することが不可能なのである。この点については、鬼丸裁判官補足意見でも、木内裁判官反対意見でも指摘はされている。
 
 鬼丸裁判官は、放送法64条1項の規定からは、放送受信規約2条1項が定める世帯単位の契約を導くことは困難だとし、さらに、世帯単位であっても、契約締結義務が世帯のうちいずれの者にあるかについて規定を置いていないことから、受信契約の締結を強制するについて疑義を生じさせかねないとしている。また、契約強制は「契約締結の自由という私法の大原則の例外であり、また、締結義務者に受信料の支払という経済的負担をもたらすものであることを勘案すると、本来は、受信契約の内容を含めて法定されるのが望ましいものであろう。」と言う。その例外を認める根拠が示されていないだけでなく、本来、法定されるべきものを、国家機関でないNHKに委任している現状をどう理解するのかも述べられていない。そうでありながら、多数意見と同様、契約締結強制を認めているのだから補足意見としては説得力がない。
 
 これに対して、木村裁判官は、判決によって受信契約を成立させようとしても、契約成立時点を受信契約設置時に遡及させること、また、判決が承諾を命ずるのに必要とされる契約内容(契約主体、契約の種別等)の特定を行うことはできず、受信設備を廃止した受信設備設置者に適切な対応をすることも不可能として、多数意見に明確に反対している。しかし、木内裁判官は民法414条2項但し書きの適用の可否について詳述しているものの、放送法は受信契約の内容を定めておらず、NHKの定める放送受信規約がその内容を定めていることの「当否は別として」と、肝心な部分を避けてしまっている。この立法の、国家機関でない者への委任と思われる状態は、国民の間に優劣関係を認めることになるため、平等の原則の観点からは、極めて重要な問題なのである。これが立法でないとするならば、受信契約締結後に、受信規約の変更によって、対等関係である契約の相手方(NHK)から一方的に契約内容を変更すること(そもそも、受信規約が契約内容というわけでもない。)の説明がつかない。たとえ、総務大臣の認可が、受信機設置者の利益のため、つまりNHKが不当な受信料の値上げなどをしないようにするためであっても、立法としなければ法理論として説明できないのである。また、木内裁判官は、受信契約締結が義務付けられていることについて「『受信契約を締結せずに受信設備を設置し原告の放送を受信しうる状態が生じない』ことを原告の利益として法が認めているのであり、この原告の利益は『法律上保護される利益』(民法709条)ということができる」とする。しかし、ここで、「受信可能性」だけで「法律上保護される利益」とすることで、受信を望まない者の利益(知る自由)を反射的に侵害することを考慮していない。
 
 加えて、そもそも受信契約承諾の義務があるかどうかも確認できない場合がある。本件では、被告が、テレビを所有し、受信できる状態にあることを、NHKが、被告の自発的発言あるいはその他なんらかの方法で知り得たから、契約承諾を求めることができたにすぎない。NHKは受信契約を締結している世帯を把握しているから、それ以外の世帯を訪問することで、受信設備の設置の有無を尋ねることは可能ではあるが、私法上の契約であるならば、NHKと私達は対等関係にあるから、NHKに対してテレビの有無、パソコンの有無、カーナビの有無、携帯電話の有無等、自己の所有する財産状況について回答する法的義務はない。現に、近時は、受信契約のお願いに伺っても、取り合ってくれない者もいるそうである。そもそも、放送法の規定する「受信設備」の範囲が不明確であり、そこに、放送を受信することを主たる目的としたものかわからない携帯電話やパソコンやカーナビが含まれるかは不明であり、いくらNHKが受信規約をもって、それらが受信設備に含まれると主張しても、受信規約が受信契約の内容であるのかどうかわからない以上、それらの設備を所有する以前に受信規約の内容を確認する義務もなく、また、受信規約が契約以前にそれらの機器を所有しようとする者を拘束するならば、受信規約は立法として機能することとなり、憲法41条に違反する。受信規約が官報で公布されるからといって、立法として認められるわけではない。
 
 このように、民法414条2項但し書きは、承諾義務の存否すら不明な受信契約には適用できないのであって、本判決多数意見は、受信契約を締結させることを前提に、適用できそうな条文を検索したにすぎないのである。

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