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でっかい海

「京子ちゃんはでっかい海や!」と彼は言った。
「でっか過ぎて泳がれへん。」と私はフラれた。


昔の話だが、
その映画のワンシーンのような名セリフを私はたま〜に思い出す。
詩人のような人だった。


釈然としない私は言った。
「だったら、泳がなければいいじゃん!
ゆだねて、浮いていればいいんだよ。」と。
 

「いや!男は泳ぎたいんや。」
 

カッコ良いんだか、カッコ悪いだか分からない人。
でも彼は潔くフリ、私も潔くフラれた。
半年くらいの出会いだった。


彼のバイクの後ろに乗って、京都の天橋立に行った時。
白い浜辺を歩いていると
「これ見てみぃ〜!京子ちゃんの好きな物が落ちとる!」と彼が叫んだ。
 

走り寄って見ると、黒光りした茄子が落ちていた。
生き生きと新鮮な茄子が一本、砂浜に落ちてる様子は異様だった。
彼が言う京子ちゃんの好きな物とはペニスを意味している。
「えぇ?!なんでこんなところに〜!」と私たちは笑い合った。
 

海岸をしばらく歩くと、さらに目を疑う物が砂浜に落ちていた。
半分に割られた小さな南瓜。
橙色の口をパックリ開けて、こちらを向いている。
「山下くんの好きな物や〜!」
それはヴァギナを意味している。
 

天橋立の美しい白い砂浜に、黒光りした茄子と半分に割られた橙色の南瓜。
その有り得ない光景に、私たちは大いに笑った。
腹の底から笑った。
 

天橋立の上空の神さまが、私たちを楽しませようとジョークを効かせて空から落としてくれたんだと本気で思った。
(さすが関西だわ。)
その突拍子もないセンスに私たちは大いに笑い合い、出会いをやりきり、一夏が終わった。




初めて付き合った人と21歳で結婚した私は、2人の子を産んだが、その後離婚をし、若い時に燃やしきれなかった分の情熱を燃やすように、30代から40代にかけて、たくさんの恋愛をした。
「命短し恋せよ乙女」を地で行っていた時代の、
今日は、そんなお話。

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