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「京子さんってお勤めしたことあるの?」と聞かれる時がある。
若い時はバイトなるものはたくさんしたが、実は会社員というのを2年間したことがある。
20代前半はメイクの講師をしていて、その職で関東中心に展開している大手の美容室に勤めたことがある。
そこのカリスマ会長直々の面接によって、時々イロモノのような人材がその美容室に送り込まれては、現場は荒れるのだが、今思えば 私もそのイロモノ人材だったと思う。
「お前はいくら欲しいんだ。」と面接で会長に聞かれ、「最低でも20万円です。」と答えると、「よし!お前 気に入った採用!」となった。

「広部〜(当時の名字)、お客さんを喜ばせるのがお前の役目だからな。どんどんメイクしてあげて喜ばせてくれよ〜!」と、たまに現場に顔を出す会長は、私の肩をポンッと叩いて決まってこう言った。
現場は忙しい。
メイクのサービスなんかよりも現場の上司たちは実践的な補助を求めている。

ある時、上司が言った。
「広部って、ニワトリだよな。」
「は?どういう意味ですか?」
「言ったこと(指示)をすぐ忘れる。」

初めてのお勤め、集団の中に揉まれて私なりに頑張ってきたわけだが、その上司の一言は、私の全てを言い当てていた。
「本当ですね!」思わず吹き出して笑った。
嫌味も込めて言ったであろう上司は一瞬固まったが、結局一緒になって笑った。

それが私の2年間の会社員時代だ。

あの箱の中の2年間は苦しかった。
私が見たかぎり、箱の中で幸せそうに泳いでいる人はいなかった。
一体何が苦しさの原因なのか?全く分からずに。
〝あの人とあの人は不倫している〟とか 〝あの人はやらかして移動させられたみたいよ〟とか、皆どこか訳ありで病んでいた。

会長は「お前のやりたいことを実現しろ!(箱の中で)」と言った。
入る前、その箱は大きな世界に見えた。
やりがいを持って箱に挑んでみたつもりだったが、新しいことを企画しても企画しても、箱の中ではただ苦しいだけだった。

あれから、自分の外にある箱に入る事はもう二度としなかったが、実は自分の中にも箱はあった。
母親はこうでなくてはいけない箱。
妻とはこうあらねばいけない箱。
仕事で成功しなくてはいけない箱。
人に好かれなくてはいけない箱。
‥‥‥。

その箱を見つけては出て‥、見つけては出て‥してきた。

もちろん、まだまだ箱はいくらでも自分の中にある。
いのちがおとなしく収まる箱なんて、この世にはない。
自分の中にもない。

と、私は思っている。

今日は、そんなお話。


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