逆境の中でも微笑むことのできるMtFの方へ──IS-MtFもね、そうなんだ

2017年4月4日 ホルモン補充療法開始直前の更年期障害時(数え45歳)

 Facebookなどを拝読していると、様々なMtFの方々をお見かけする。
 恵まれた人、そうでない人、いろいろといる。
 MtFというか、人生のだいたいのことは、3つのKのバランスできまる。一つは健康、一つはお金、もう一つは人間関係。平均して60点もあれば最高に幸せな人生を送れるだろう。
 MtFの苦しみはこの3つにまたがってしまうことが多い。最近は、お金の面では苦労しない人も出てきたし、人間関係の面でも家族や友だちの暖かな支援を得られることが多くなってきてはいる。
 とは言え、それはまだ例外と見做して置いたほうがいいだろう。
 それに、外見的に3つのKが満たされているように見えたとしても、当の本人にとっては、一生どうしたって逃げられない問題だ。どれほど完璧な外見を得ようが、本人は本当のことを知っているからね。

 ネットやYouTubeで見ていると、割といけてるMtFの人たちがチューバーとしてやっていたり、硬派だとTwitterで世間の故なき攻撃から日夜戦ってくれている。
 いずれにしても私が思うには、MtFに関しては、結局は表に出られるのは、ある程度外見に自信があったり、声に自信があったりする人が多いかな。埋没して生きていけば楽そうだけど、まだまだそうはいかない。あえてオープンにして戦ってくれている。それに、外見や声のことを書いたが、そもそも、外見や声の時点でネットでいじめられてしまっては、伝えたいことが伝えられないのだから、致し方がない。だから私は、外見や声を生かして活動しているMtFを見て、自己顕示欲が強くてズルい人などとは、基本的には、思わない。FtMはハードルが低いので、若干ズルさを感じることもあるけどね。

 さて、それはそれはそれで、MtFと同じくらいの数がいるにもかかわらず、ネットにはほとんど出てこない人たちがいる。私はセルビア共和国にいたときに、LGBTQ+の運動を見ていて、親子ぐるみでインターセックス(DSDsという言葉は使われない。同じように、トランスジェンダーと言うのが一般的な言葉として使われる)の権利を獲得するための活動をしているのを何度も見かけた。それこそデモすらしていた。セルビアでは出生届は一切変更できないのが現状だから。

 そういう姿を見ていて、私も自分が本当はインターセックスの基盤の上に立ったMtFに過ぎないことを公に認めるようになった。戸籍を女性にしておけば、もっと楽に生きられただけだろうが、私の場合は、非常に判定が難しい、アンドロゲン不応症の軽症よりちょっと重い状態だ。出生時に異変には気が付いていても、男児として育ててみようとしてみようというのは理解できる。そもそも私の生まれた70年代はLGBTQ+などという概念はなかったから。

 それまで私は「性同一性障害」のMtFですと名乗っていたのだが、ジェンダークリニックに行っても「恵まれている……」と先生に嘆息されるほどだった。別に恵まれているのではなく、私は単に長年中性であることに苦しんできただけなのだが……。生殖能力はない、性欲も(どうやら比較するとほぼ)ない、第2次思春期には胸が膨らんだ。性自認は物心ついたときから女性だ。染色体がXY型で、一応男性器状としか見えないものも付いはないことはないとなると、昔はほぼ救われる機会はなかった。実際には、男性用トイレに行っても立ってできないほど、排尿排泄に問題を抱えているので、幼稚園のときなどトイレに行けず、尿毒症になってしまった。そして、30代後半になっても、未だ病院に姉と行けば、男性の格好(普通にジャージを着ているとかその程度)をしていれば中学生と間違えられ、看護師さん達の格好のゴシップ話の餌食になる。看護師部屋の会話なんて、ほとんど聞こえてますから……。髪を切りにに姉とお店に行って、姉がちょっと買い物に出かけようものなら、「ボク、お母さん、お買い物?」とスタッフに話しかけられる。「あの、わたしはもう三十路なんですけど」、と言いたいのをガマンして「はい、そこのスーパーに行ってます」などと、小学生になりきって答える羽目に。こんな事態が毎日のように続くわけなので、もう笑い話を通り越して、苦痛でしかなくなってしまう……。そういう苦しみは、MtFの人は味わわないでしょう。あえて言えば、FtMの人たちが、実年齢よりも若くしか見てくれもらえなくて、仕事上の威厳を獲得できずに困るということがある。それにちょっとだけ似ているかな。

 まぁ、感傷に浸るのがこのエッセイの目的ではない。48歳のクリスマスの日、滅多に外に出ることがない、プロがとったピンナップ写真を載せてみることにした。ノンホル、無化粧。こんな条件でこんな風に見える人がいたら、その人はIS-MtFかもしれない。それを隠していては、ISではないMtFの人たちを傷つけると私は思う。自分のMtFとしては恵まれた見た目だけに酔いしれて粋がるのではなく、苦労もきちんと晒すべきだと思う。私は、今はあえて、MtFを傷つけないようにフルメイクも何もしたことも10年以上ない。MtFを傷付けてしまう経験があるからだ。中性として生まれたのなら、そのままいけばいい、と思っている。なぜ、私を脅迫観念的に人工的に変えなければいけないのか。望むならまだしも、はるな愛ですら心の苦しみは永遠だと言っている。

 だけど、今のところ、戸籍、パスポート以外の口座や資格、大学の学の籍の性別は絶対に「女性」であることは譲らないけどね。女子寮にも住み続け、女子(お母さんだけどね)としてチューターを務める。そうね、マイナンバーカードは、まぁ、そのうち運用を変えてみせますよ!

2021年12月25日 午前8時16分 甘利 実乃(あまり みの)
https://www.facebook.com/mino.amari.1

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