ホテル・サッドモーニング
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ホテル・サッドモーニング。
寂れた街の、小さなホテル。
その街の人間に場所を尋ねても、おそらく答えられるものはいないだろう。
それは確かに存在しているのに、誰の目にも留まらない。そんな不思議な場所なのだ。
だが、ふとなにかの拍子に、そこを見つけてしまう者がいる。
赤茶けた外壁に、白いポピーが咲き乱れる入り口の花壇。
古いがよく手入れされた客室に、優しく、愛想がいいが、どこか達観した、別の世界を生きているかのような雰囲気の従業員たち。
宿代は、気にしなくていい。
そこで支払うのは金ではない。宿の主人はとても奇妙なものを要求する。
宿代は、悲しみの記憶。
愛するものを失った苦しみ、手の届かなかったものへの執着。とにかく、客が心に抱えている、いちばんの悲しみを支払うのだという。
そして、そこで支払った悲しみは、二度とその人を苦しめることはないのだとか。
そもそも、宿代にふさわしい悲しみを持つ者以外は、ホテルを見つけられないのだという。
私自身、その街へ何度も赴き、実際に宿泊した者をなんとか見つけ出して話も聞いたが、ホテルの場所はついに見つけられなかった。
宿泊した者でさえ、なぜかもう一度行くことができないのだと言っていた。だがそれでいいのだ、あそこは何度も行ってはいけないような場所なのだ、とも。
ホテル・サッドモーニング。
寂れた街の、小さなホテル。
悲しみに呻く者たちの朝をそっと受け止める、不思議なホテル。
もし、聖ユダの描かれた看板を見つけられたなら、迷わず行ったほうがいい。
それは、あなたがその悲しみを手放すときが来た証なのだから。
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以下より付け足しアンド付け足し。
https://twitter.com/amatasu/status/115865408292139008
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