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呼び込みワンちゃん

桜が咲き始めた頃の事です。
毎年、この時期がおとずれると、私はある神社に出かけます。
神社の目の前には、大きなお城のお堀があって、お堀に沿って、それはそれは見事な桜が千本以上も植えられていて…
どちらかと言えば、お花見に訪れる人たちは、どちらかと言えば、そっちに行く人達の方が多いような気がいたします。
それでも、私は、神社の方が大好きで、いつも、お堀のほうではなく、神社のお花見に出かけます。

神社には、あの大きな戦争でなくなられた方々が、沢山祭られています。
そして…
桜の一本一本は、あの大きな戦争でなくなられた方々や、その遺族、生き残られた戦友達…
様々な方々の祈りが込められていています。
私は、そうした桜の木々の狭間をひとり歩いては、微笑みかける事にしています。
「今日と言う一日をありがとう。今日も元気です。」
なくなられた方々が、もし生きておられたら…
私は、彼らの孫が、曾孫くらいの年齢なのでしょうか…
いずれにせよ…
平和であったなら、きっと見たかったであろう、孫の笑顔…
替わりに、見せて差し上げたいと言う気持ちを込めて…
私は、桜の木々一本一本に、微笑みかけるようにしているのです。

と…
今年もまた、そうやって、花を開かせ始めた桜の木々一本一本を撫でながら、微笑みかけていると…
「ワンワン」
と、鳴き声が聞こえてきました。
振り向くと…
そこには、大きな屋台が立っていて、看板には、大きく…
『ぐるぐるうぃんなー』
と、書かれています。
そして…
その屋台の下の方に、小さな小型のワンちゃんが…
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー。おいしいワン。おいしいワン。」
と、一生懸命、呼び込みをしているのです。
まだ…
桜も咲き始めたばかりで、お花見に訪れる人も、殆どいない時期です。
いくら呼び込みをしたところで、誰もくるものではありません。
どこの屋台のおじさんやおばさん達も、お店は広げているものの、そんなに気をいれて、呼び込みをしている人など、誰もいるものでもありません。
見れば、隣のお店のおじさんと、次の休暇の釣りの話をしているおじさんがいるかと思えば、居眠りしているおばさんもいます。
ワンちゃんのお店のおじさんからして、一生懸命、グルグル巻きにしたソーセージを焼いてはいるものの…
殆ど、お昼ご飯代わりに焼いていると言った様子でした。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー。おいしいワン。おいしいワン。」
一生懸命、お客さんを呼び込もうとしているのは、このワンちゃんだけでした。
「おまえ、偉いな。一生懸命、お仕事しているの、おまえだけだぞ。」
私は、思わずワンちゃんの前にしゃがみこんで頭を撫でてあげると…
「おいしいワン。買って買ってー」
ワンちゃんは、尻尾がちぎれるほど振りながら、私の前に二本足で立ちながら、前足を一生懸命パタパタさせていました。
「どうしようかな…」
私は、ふと、お財布の中身とにらめっこしてみました。
決して…
余裕のある金額ではありません。
しかし…
「ねえ、買って買ってー」
ワンちゃんは、相変わらず、前足をパタパタさせながら、尻尾を振り続け…
とうとう、私の胸に飛びついて、頬をぺろぺろなめ始めました。
「しょうがないな…」
私は、ワンちゃんが可愛いのもさることながら…
グルグル巻きにして焼いたソーセージも珍しく…
とうとう、貴重な五百円を散財してしまいました。

すると…
ク~ンク~ン…
今にも、ソーセージを頬張ろうとする私の前で、ワンちゃんは口をへの字にまげて、小首を傾げて、ジーッとこちらを見ています。
おや?
私が、不思議そうに見返すと、ワンちゃんの視線は、まっすぐ、ソーセージに向けられていました。
「おまえ、食べたいのかい?」
私が聞くと…
ワン。
ワンちゃんは、元気よくなきました。
「しょうがないな…」
私は、ソーセージを少しちぎって、ワンちゃんに差し出すと、ワンちゃんはぺろりと人なめで食べてしまし。
「おいしいワン。」
と、元気よく言いました。
「そうか、そうか。」
私は、あんまりおいしそうに食べるワンちゃんが可愛くて、もう一口、また一口と、とうとう半分も、あげてしまいました。
すると…
「兄ちゃん、すみませんね。」
それまで、隣のおじさんと、競馬の話に花を咲かせ始めていた、お店のおじさんが、ワンちゃんに御馳走している私を見て、頭をかきかき言いました。
「こいつ、また、お客さんに御馳走してもらったな。」
言いながら、急いでもう一つソーセージを焼き上げると、私に差し出してくれました。
「いいんですか?」
「いいんだよ、いいんだよ。今日は、どうせ殆ど売れのこっちまうんだからさ。それより、次に来た時、また、買ってくださいよ。」
「ありがとう。」
私は、ありがたく、もう一つソーセージを貰って食べ始めると、後ろでは…
「おまえ、駄目じゃないか。お客さんにおねだりしちゃ。」
おじさんが、軽くこつんとワンちゃんの頭をたたくのもかまわず、ワンちゃんは…
「もっと食べたいワン。もっと食べたいワン。」
と、おじさんの足をガリガリやっていました。

今年の桜はとても長く咲き続け…
半月くらいは、何処のお花見スポットも、屋台が並び続けたと思いますが…
あの呼び込みワンちゃんのいたお店…
いっぱいお客さんが、来てくれたのでしょうか…

お花見の季節も終り早二ヵ月半…
ふと、あの日の呼び込みワンちゃんの事を、よく思い出すことがあるのです。

画像は韓国アイドルKARAのニコルさんです。記事のイメージとして使用しました。

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鈴木康仁

はじめまして。日韓アイドルが大好きです。特に韓国のアイドルグループaprilのジンソルさんのファンです。将来、映像化してたら、ジンソルさんを初めとするアイドル達に出演して貰おうと言う妄想を抱きながら執筆する、創作小説を掲載します。宜しくお願いします。

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