高校野球のプロフェッショナル

今年も明徳義塾が甲子園で勝利を収めた。大阪桐蔭や横浜のようなタレント軍団でもなければ、智辯和歌山のような派手さがあるわけではない。180センチを超える身長の大型選手が何人もいるわけでもない。

現に、明徳義塾の現役NPB選手の数は5名で、大阪桐蔭や横浜の4分の1程度だ。また、馬淵監督就任以降の明徳義塾は51勝(29敗)を挙げているが、優勝は1度しかなく、決勝進出も優勝した2002年夏のみだ。では、明徳義塾がなぜ甲子園という大舞台で着実に勝利を重ねることができるのか。その理由として、以下の3点があげられると考える。

①自滅をしない

②隙を逃さない

③取りこぼさない

いずれも非常に単純なことだが、このチームほどこの3つが長きにわたって徹底されているチームはない。まさに、「高校野球のプロフェッショナル」なのだ。

①については失点に絡む失策や、バント等の失敗でとにかく隙を見せない。馬淵監督の選手起用にもそれが現れている。ミスをしにくい選手を重宝しているのだ。トーナメントでは力を発揮できず試合を終えてしまうスラッガータイプの選手の選手はあまり起用されない。山形堅心(創価大)や田中秀政(天理大→ミキハウス)のようなスラッガータイプの選手が、高校時代出場機会が少なく、大学進学後に才能が開花したのはその典型といえる。この傾向近年強くなっている印象だ。

個の力を生かすような大型チームを作るわけではないので、必然的に②のような攻撃をするチームが出来上がる。今年の藤蔭(大分)との初戦も相手の四球や失策を逃さず得点を重ね、危なげなく勝利を収めた。強力打線で大量得点を挙げるわけではないが、いやらしく得点を重ねていく。気が付いたら得点差がついていたという試合は少なくない。

①と②を徹底できるからこそ③につながる。自分と同程度の相手には、まず試合を落とさないのは明徳最大の魅力である。技術・メンタルが成熟していない高校生年代で、このような戦い方ができるチームは稀有である。高校野球特有のノリではなく、地に足がついた野球を展開する。高校野球は、トーナメントで争われるため1敗したらもう次はない。些細なボタンの掛け違いで次がなくなってしまうのは日常茶飯事のことだ。それだけに取りこぼしをしないというのは何よりも尊い。

しかし明徳義塾にも欠点はある。どうしても力勝負に分が悪い。1998年夏の甲子園準決勝の横浜戦はギリギリまで「高校野球史上最強チーム」を苦しめたが、うっちゃられてしまった。また、2011年春の日大三戦や、2015年夏の敦賀気比戦のようま横綱クラスの相手にもありとあらゆる手を尽くしたが、力及ばずだった。

1998年から2004年頃は森岡良介(元中日)、筧裕次郎(元近鉄)など、タレントを揃えた時期もあったが、近年はタレントを揃えた年の方が珍しい。例えば、140㌔を超えるストレートを投げる投手がいなくても、様々なタイプの投手をやりくりしてゲームメイクする馬淵監督の采配が目立つ。それでも、優勝候補の高校とギリギリの勝負に持ち込むのが明徳野球の神髄だ。

現在の高校野球において、140㌔以上のストレートを投げる投手を当たり前のように抱え、1番から9番まで長打を打てるチームは当たり前のようになってきている。当然10年前、20年前とは野球の質が全く異なるものになっている。そのような潮流で、明徳義塾が今後どのような野球を展開するか目が離せない。気は早いが、2021年夏、森木大智投手の高知高校と高知県大会で対戦した際は、どのような野球をするのか。それが現在のトレンドに対する1つの答えになるかもしれない。





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