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秘密基地、鶏肉、『文盲』

ベッドのマットが壁に立てかけられていて、その裏にできた三角の隙間から男の子が目をきょろきょろさせていた。
運動靴と赤い金魚の主人公と、ニュー・シネマ・パラダイスのトトを同時に思い出す。
男の子は気づいてこちらを見つめたが、私はにやりと目配せするだけで何も言わない。
秘密基地はあまりじろじろ見るべきではない。声をかけるなんてもってのほかだ。
しかしすぐに姉らしき子が建物から走り出てきてマットと同じ模様の枕を壁に投げつけた。

火曜日に行く八百屋さんは、とても安い。
日曜日の八百屋さんはものすごく安くはないが質が良い。
中華街の八百屋さんの野菜も元気で安い。
でも火曜日の八百屋さんは、日曜日の八百屋さんの半額ほど、中華街の八百屋さんよりも3割ほど安い。
いつもの肉屋さんはいなかった。時間が遅かったからなのかバカンスだからなのかはわからない。
あまり遅い時間に行くとこの暑さにさらされた肉が傷んでいるかもしれない、それなのに今日は遅い時間に行ってしまったから、肉屋さんがいなくてちょっとほっとしたかもしれない。

マダムが時計だか日用品だかを見ていて、その後ろで旦那さんらしき人がただぼおっと道を塞いでいた。
双子のベビーカーを押す女性が旦那さんにちょっと通して下さいと声をかけたら旦那さんは体を引っ込めたものの、どうして移動しなければならなかったんだろう?というような憮然としたようなきょとんとしたような顔つきをずっとしていた。
自分が道を塞いでいたことなんか全然気づいていなかったし、指摘されても全然気が付かないままなのだった。

いつも道端で物乞いをしている若い男の人もいなかった。
私が遅い時間に通ったからなのか、バカンスだからなのかはやっぱりわからない。
それにしても「物乞い」という言葉は他になにか良い言い方はあるのだろうか。道でコインをもらっているひと?それだとちょっと長い。

帰り道に秘密基地を覗いてみたけれど、もう男の子はいなかった。
郵便局員の真似をして「あなた宛のお手紙だよ」とメモを渡したら秘密基地らしさが増すんじゃないかな?と想像しながら歩いてきたのだけれど。
ベッドと壁の間にできた三角の隙間には電子レンジのようなものが収まっていた。
男の子と電子レンジがすり替わった時に起きたであろうひと悶着のことを想像する。

昨日はアゴタ・クリストフの『文盲』を読んだ。
初めて読んだとは思えないのだけれど、記録がない。
母国語を離れてフランス語で書かざるを得なかったアゴタ・クリストフの小説を、いまわたしがフランス語で読んでみるのはとてもいいんじゃないかと思った。
今度図書館で借りてこよう。

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その後、『文盲』をフランス語で読んでみている。


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