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自分の胸の中に偽りがあるときにそれを隠しながら心から話すことはできない。
これは言わないようにしよう、としながら片方で素直な気持ちを伝えるというようなことができない。
ひとつ何かを隠すなら、それに関わるなにもかもから隠れ続けないといけない。
わたしは嘘をつくのがそんなに上手じゃないから。
いや、多分外に対して嘘をつくのはすごくうまい。
本当に必要だと考えてつく嘘は、たぶんおいそれと見抜けないだろうと思う。(たぶん)
でもそういう嘘であるほど、自分を内側から壊す。
そういう意味において、わたしは嘘をつくのが上手じゃない気がする。
自分の嘘に耐えることがうまくできない。

2時間もかけて、胸にたまったものを読まれるものにしようとしてみた。
けれどきっとこれはこうして誰もの目に触れるようなかたちでは書かれないほうがいい。
きっと、
たぶん。

頭で何かをしっかり理解していても、納得したつもりでいても、どうしてもそこに対して動き出せなくて、おいどうしたと叱りつけても石のように動かなくて、ぐずぐずしながらも手先だけ動かす、ようなことをしていると結局それは着手したくない理由にあとから気づいたりする。
感覚は、私の知らないことをこんなにも知っている。
感覚は私の頭の知らないことを知っている、ということを何度も経験しているし、そういう頭で理解のできないスープの中に身を浸してたゆたっていることを触覚しているくせに、やっぱりこんなに自分が知っていることを、わたしは知らない。

フランスに来て最初に読んだ絵本をぱらぱらと読み返す。
世界中に伝わる「人間が火を得たきっかけ」譚のひとつであり、なにも物珍しい話ではないのだけれど、初めて読んだときにひどく胸を打たれた。

崖の上に置いてきぼりにされた少年が泣いていると、人間の姿をしたヒョウに拾われる。
ヒョウは少年を自分の棲家に大切に運び、息子のように可愛がる。
火で肉を炙って少年にごちそうするが、少年は火を見たことがなく、焼いた肉を初めて食べたのだった。
弓矢を教わったり美味しい肉を食べたりして親密な時間をすごすが、やがて少年は村に帰りたくなる。
ヒョウは優しくそれを見送るが、火のことだけは誰にも秘密だと固く口止めをする。
少年は村に帰ってヒョウに親切にしてもらったことを村人に話し、炙った肉をみんなにごちそうする。
村人はその肉をどうやって手にいれたのかと少年に詰め寄り、少年はついに火のことを村の大人たちに話してしまう。
すると村人たちは少年を騙してヒョウの棲家へ案内させ、火を燃えさしひとつ残らず盗んで帰ってしまう。
夕方になって人間の姿をしたヒョウが棲家へ戻ると、そこにもう火は残っていなかった。
彼は息子のように可愛く思っていた少年に裏切られたことを知り、怒りのあまり人間の姿を破り捨てて森に分け入り、獣の声で吠える。
ヒョウが森の中で恐れられるようになったのは、それからだそうだ。


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