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この2日の気温差は20℃もあった

25日、
外に出たとたん肺の中に熱風が押し寄せてきて、冷たい空気を求めて小さくあえぐ。
肺は冷たい空気=新鮮な空気と考えているのか、しつこく何度も深呼吸をしようとするがそのたびに熱い太陽を吸い込むので咳き込みそうになる。
皮膚からも肺からもじっくり焼かれて、もう汗をかかなくなったころのサウナみたいだ。目玉の表面がすぐに乾いてひりひりするので目を閉じてみるが、冷たい闇はおとずれない。

こんなに誰にも会わないのは初めてかもしれない。
太陽は惜しげなくあちらにもこちらにも照射しているのに、町はしいんとしている。
止まっている車ばかりなのでなんだか時が止まってしまったあとみたいだ。
SFだSFだ、と思いながらわたしのキックボードがちょっと宙に浮いて進む未来のキックボードだということにして地面を蹴った。
真っ白な前髪を額に垂らしながらほとんど地面しか見ずに角を曲がってきたおばあさんを避ける。

期限が切れてしまった図書カードを作りにいく。
アゴタ・クリストフの『悪童日記』を一冊だけ。
子供の頃、夏休みには父や母の図書カードまで借りて、持ちきれないほどの本を借りたことを思い出す。
フランス語ではまだゆっくりとしか読めない。
だから一冊きりでいい。

そういえば本を読むのがずっと好きだったけれど、まだ日本語をたどたどしくしか読めなかった頃の記憶はない。
文字があれば読んでいた。
スーパーのチラシも、ふりかけの裏も、教科書はもらったその日に全部、お父さんの購読している雑誌。
でも文字のかたちと色を足早に通り過ぎるだけで、ほんとうに読むということをしてきただろうか?

26日、
ひどい暑さの後に激しい雨と雷がやってきた。
彼は雨の音を聞かせようとして、私の部屋にすっとんで来、窓を全開にする。
細かい霧と暴力的な音に包まれる。
雨と雷の音を録音しながら、ろうそくだけ付けて部屋に寝っ転がった。

山の斜面、原生林が生い茂る深い森の、それか広くてどこまでも、霧がその境を覆い隠すくらいどこまでも広がる草原を雨が叩くのを眺めたい。
なにも言わず、鹿みたいに。

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