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アパートメントのこと

アパートメントのクラウドファンディングの素敵な贈りものを住人さんがタイムラインで紹介されているのを見かけて、気持ちを伝えたくなったのに、声をかけることができなかった。
手をかけて用意してくださったことが嬉しかったし、手にとってみたいと思うような素敵な贈りもので、そのことを伝えたいと強く思いながらも、いやいや今更どうしてアパートメント側みたいな顔ができるんだ、と、何度も言葉を書いたり消したりした挙げ句、Twitterを閉じた。

全力でクラウドファンディングの協力をお願いしていたくせに、途中で離脱して、最後まで自分の手で遂行できなかったことを思うと、忸怩たる思いがする。

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先日ライバルでもありお隣さん(?)ウェブマガジンの「モンスター」が8年の幕を閉じた。
モンスターもアパートメントとはほぼ同時期に始まったウェブマガジン。
村上さんも書いているように、8年前は個人が自分の文章や作品を気軽にあげられるこういう集合的なサイトはまだなかった。
編集長の村上さんも私も、それぞれどうやって当時の社会を自分のやりかたで切り開くかということをそこに込めて運営を続けていたと思う。

村上さんの挨拶のなかに「僕自身が編集者であり一番の愛読者だった」というものがあって、思わず私は泣いてしまった。
私自身もアパートメントの一番の愛読者であったと思う。
毎日あがってくる記事を読んで、できる限り感想を書いて、読者のみなさんとやりとりをし、記事があがっているか?Facebookに投稿されているか?Twitterには?またサイトがおかしい…と朝晩見回る8年間は、ほんとうに大変だった。
でもやはりそれ以上に、書いてくれることが嬉しく、それを読めることが嬉しく、また読んでもらえることが嬉しかった。

8年の間に私は埼玉から町田に引っ越し、トロントに引っ越し、パリに引っ越し、日本に引っ越し、またパリに引っ越した。
身体的にも精神的にも数々のアップダウンがあった。
アパートメントを通じてたくさんの方と友達になれて、縁や、嬉しいことば、親切や手助けを頂いた。
震災後に素人の思いつきで作った場所なのに、そこに関わってくれる方がアパートメントを楽しく意味のある場所にしていってくれた。
わたしはせめて庭を掃除し、枝を切りそろえ、水漏れを修理し、花を植え、どうしたらアパートメントが楽しくなるかばかりを毎日考えた。
クラウドファンディングに向けてお手伝いしてくださる方々を悠平が見つけてきてくれて、やっと少しサイトにテコ入れができるお金を集めることになり、アパートメントいよいよ楽しくなるぞ、となった時に、急に8年分の無理が爆発してしまった。

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みなさんのお力でクラウドファンディングの目標金額を達成し、この先の企画やらサイトをどう再構築するかとお金をどう使わせてもらうか、そんなことを興奮しながら考えていた。
そして同時に、予想以上にたくさんの方に助けて頂いて、私はこれから先どうしたらいいんだろう、と考えても仕方がないから考えないようにしていたことが、ぐんぐん胸の中を占領していった。
これまでの8年間より頑張ることは、もう私には想像ができなかった。
このありがたい責任をどう果たしたらいいのか。
もしかして、こういう時にひとは死ぬのかもしれない、と人生で初めてうっすら考えた。

いま考えればばかなことだ。


アパートメントを辞める、という考えは一度も頭にのぼらなかった。
自分が作った場所なのだから、自分が辞める時は責任を持って閉じるものだと考えていた。
今まで通り管理してゆく自信が持てないのなら、思い切って規模を縮小しよう。毎日更新される理由はもうない(震災後にはあったが)から、連載の人数もぐっと減らして、1ヶ月に一人くらいになら対談のようなかたちで話を聞くようなこともできるかもしれない。
そういう、一対一の、ゆっくり深く掘ってゆける、わたしひとりでも息切れせずおばあちゃんになっても続けられるサイトにしよう。
とりあえずは爆発してしまった自分のフォローをお願いできる友達に、いったんアパートメントを任せてもいいかと相談までした。

でもそうすると、クラウドファンディングで応援してくれたみなさんが望んでいる「アパートメント」の姿からは変わってしまうことになる。
お手伝いしてくださったスタッフの皆さんのことも裏切るかたちになる。
だから悩んだ。
悩んでいるうちに、今更ながら「私が辞めたらいいのでは」という考えが浮かんだ。
そのことが選択肢になかった自分に気づいてびっくりしつつも、そんな私自身の信頼を損ねるようなことができるか、その考えを却下していた。私への信頼はアパートメントへの信頼に繋がるのだ、と。

でも冷静に考えたら、クラウドファンディングをきっかけに管理を手伝ってくれる方ができた、リーダーとしては私よりうんと適任な悠平もいる。
信頼できるスタッフが運営体制を整えてアパートメントを継続させてくれるなら、そしてなにより、この姿のアパートメントだからこそ、みなさんが継続を望んで支援してくださった。
私が辞めることが最善の道なのではないか。
やっとそう結論付けることができた。

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8年の間にアパートメントは私の生活の真ん中にいつもあって、嬉しいことや楽しいことの他に、個人的にひどく辛かったことも全部そこにがっちりと絡んでいる。
(「辛かったこと」は、もちろん住人さんや読者の方が原因ではまったくありません。ひとつも!!)
アパートメントがあるから耐えすぎてしまったこととか、我慢しすぎてしまったことがあって、今でもアパートメントの仕事をするとぶり返すように体の震えが止まらない。
でも同時に、アパートメントがあるからその度に救われた。
アパートメントにみなさんが関わってくださっている、そのことでいつも心を助けられた。

アパートメントは私にとってそんなかけがえのない場所だけど、だからこそ私の考えひとつで変えちゃいけないよな。
と、やっとしがみついていた手を離すことができた。

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クラウドファンディングで頂いた信頼を私自身は裏切ることになってしまいました。
そのことをずっと申し訳なく思っています。
そして、これからもアパートメントを継続すると引き受けてくれた悠平をはじめ管理人の皆さんに感謝しています。

少し前から、クラウドファンディングの贈りものが徐々にみなさんのお手元に届いているかと思います。
そのすべてを、ほんとうは自分の手で「わー!」って言いながら中継してお届けしたかった。その贈りものでさらに繋がってゆくもののことを、私も見届けたかったな。
贈りものに協力くださっているみなさん、管理人のみんな、ほんとうにありがとうございます。
サイトのリニューアルについても、強力な助っ人を得て、設計図が引かれたりシステムのことが話し合われたり、土台がこつこつ築かれたりしているようです。
素敵な生まれ変わりのためにじっくり話し合いが進んでいるはず…
どうぞ、楽しみにしていてください。
アパートメントをこれからもよろしくお願いいたします。


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