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【エンジニア座談会】延べ40万人を動員したTOKYO GAME SHOW VR 2022 空間を構築したエンジニア6名に聞く開発秘話と今後の取り組み

※こちらの記事は昨年別媒体にて掲載した記事の再編集版になります。

2022年9月15日から18日にかけて開催された、TOKYO GAME SHOW VR 2022(以下、TGSVR2022)。昨年引き続き2年連続で、世界最大級のゲームの祭典である東京ゲームショウのVR会場を、ambrが企画・開発いたしました。

今回は、少人数で大規模VRアプリを構築したエンジニアの皆さんに、TGSVR2022の技術的な変化や機能追加、またプロジェクト進行中の開発環境についてお話をお伺いしました。TGSVR2022のテーマである「ダンジョン」を実現するための作り込みやゲームのような没入感を感じられる工夫など開発秘話をお伺いしましたので、ぜひご一読ください!

お話していただいた稲田さん(上段左)、横山さん(上段中)、越山さん(上段右)、大田さん(下段左)、近澤さん(下段中)、藤田さん(下段右)

Mitsuru Inada / 稲田 弥鶴
愛媛県出身。iOSエンジニアとしてスマホアプリの開発に携わった後、VRSNS上でのご縁から2022年5月からクライアントエンジニアとしてambrに転職。マイブームは仮想空間での弾き語り。

Akihiro Yokoyama / 横山 燿広
小売系SIerにてAWS移行刷新案件やSaaSの開発、電子書籍取次にて電子書籍配信システムの開発に携わった後ambrに2022年9月からサーバーサイドエンジニアとして参加。
おそらくゲームをするのとAWS LambdaのCustom Runtimeを自作するのが趣味。

Tomotaka Koshiyama / 越山 智貴
長野県出身。ゲーム、Webシステム、iOS・Androidアプリの開発に携わりambrに転職しました。ambrではUnity・サウンドプログラミングを担当しています。デザインとシナリオを大切にする事をモットーにしています。

Yuto Ohta / 大田 雄土
サーバーサイドエンジニア。APIの設計・実装及び、AWS上のインフラの設計・構築を担当。好きなものは映画、小説、ホラー、犬、猫、自然。苦手なものはジェットコースター。

Takumi Chikazawa / 近澤 拓実
栃木県出身。前職で受託開発として遊技機、システム、ソーシャルアプリなど幅広い開発に携わった後、クライアントエンジニアとしてambrに転職。趣味はPCゲームで基本家に引きこもっているが、そろそろ外に出て体を動かしたいとうずうずしている。

Yusuke Fujita /  藤田 裕介
医療設備会社でVRとオンラインを駆使した仮想設備検証シミュレーターを単独で企画/設計/開発。ambrを創業後、VRSNS「仮想世界ambr」の開発を手掛け、直近では「TOKYO GAME SHOW VR 2022」のテクニカルディレクターとして開発統括を担当。


「ゲームの地層で未来を発掘せよ」ゲームの没入感を生み出すための工夫

─皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。さっそくですが、まずは皆さんのポジションとTGSVR2022での役割を教えてください。

稲田さん:クライアントエンジニアです。Unityを使ってユーザーが実際に触る部分の実装などを担当しています。

近澤さん:クライアントエンジニアです。TGSVR2022では、ゲームサーバー周りの担当をしていました。

横山さん:サーバーサイドエンジニアです。TGSVR2022が開幕する直前の9月に入社したので、皆さんの業務をお手伝いしていました。

大田さん:サーバーサイドエンジニアです。ambrのVRアプリのバックエンド側を担当し、APIのアプリケーションのコード実装とAWSインフラの設計・構築を行いました。

越山さん:クライアントエンジニア兼サウンドプログラミングを担当しています。TGSVR2022ではアバターのカスタマイズや装備の実装をしたほか、サウンド担当としてサウンドの実装を行いました。

藤田さん:クライアントエンジニアとして、体験に関わる把持やクエストシステム、基盤拡張などシステム側の実装を行いました。また、開発統括として各部門を見ていました。

ーありがとうございます。それでは早速ですが、TGSVR2022についてお伺いします。VR会場の制作は今回で2回目となりますが、前回と比べて大きく変更した部分や新たに追加した機能など教えてください。

藤田さん:「ゲームショウがゲームになる」というコンセプトは前回から継承しつつ、今年のテーマとしては「ゲームの地層で未来を発掘せよ」ということで、コアの構造が大きく変わりました。

TGSVR2022に入ってすぐに出現するコア。

また、ダンジョンというビジュアルテーマも設けて、エリアと呼ばれるところに各社展示ブースを出展いただきました。エリア自体も3分割してそれぞれ異なるテーマ「デザートエリア」「フォレストエリア」「クオーツエリア」を作ってゲームに寄せた空間づくりを行いました。

コアでは地層という概念を設けて、下に行くごとに年代が変わる表現を行ったほか、ファミ通さんとコラボして歴代のゲームの歴史を振り返れるブースを作る企画も行いました。

コアの下層から上層を見上げた様子。時代が積み重なっている「地層」のイメージ。

全体としては、「ゲームショウがゲームになる」という部分を掘り下げて、クエストシステムの実装や把持と呼ばれるモノを持てる仕組みも今回から導入しています。サウンドに関しても大幅にボリュームアップしたり、各ブース毎に各社BGMを流すなど、展示会としてのコンテンツ力としても大きく変わった部分だと思います。

ーこれらの作りこみはどれくらい大きな変化だったのでしょうか?

藤田さん:コアは大幅に変わったと思います。前回は入口というニュアンスが強かったのですが、今回はコアの空間だけでもかなり楽しんでもらえるようになりました。CGのデザインの影響も大きいです。

Oculus Questやローエンドの端末に対応させるために、いかに体験やビジュアルの品質を両立するかといった課題があり苦労しましたが、開発の最後の詰めで集中的に対応してチューニングアップを施しました。また、サウンドのアップデートにも注力しました。

ー今回のサウンドについては、多くの方から賞賛の声をいただきました。どのようなアップデートがあったのでしょうか?

稲田さん:サウンドについて1つ着目していただきたいのが歩く場所によってサウンドが変わっていることです。越山さんが実装されたのですが、私はこのサウンドの変化が今回の没入感にすごく寄与していると考えています。

越山さん:TGSVR2022ではアバターに足がついたので、今回から足音も追加しました。足音を切り替えたかったというよりは、ユーザーが歩き回っているときにいろんな変化があるほうがいいと思っていて、効果音やエフェクトの音などの切り替え処理の一環として足音もつくっていただき、今回一緒にいれることができました。

ーこのサウンドの変化も「ゲームショウがゲームになる」というコンセプトを体現するための要素だったのでしょうか?

越山さん:そうですね。CGがしっかり作りこまれていたので、特に足音が切り替わらないと違和感があると考えていました。

藤田さん:ダンジョンがテーマ別に分けた空間を作ることになっていたので、場所によってテイストが違うところだと足音の体験の影響は大きいことは開発当初から話していましたね。

AREA1「砂漠」。動くと砂の上を歩いているかのような音が聞こえる。

ーなるほど!サウンドには越山さんのこだわりが詰まっていたのですね。

越山さん:はい。ほかにも隠し要素として、ポリゴンで表現されたドラゴンがいる部屋があったのですが、部屋に入るとBGMや足音が8bitに切り替わる遊びを入れておきました。気づいてくれた人はどれくらいいるのかな。

稲田さん:それでいうと、私も実はこだわって作った機能があります。Twitter用の写真を撮影した際に、ミニプレビューが出るときの「ぽよんっ」っていうアニメーションですね。秒数やイージングにはこだわりました。

ー随所にこだわりと遊び心が詰まっていて、このお話を聞いたうえでまたプレイしたくなってきました(笑)。さて、これまでは比較的クライアントサイドのお話をお伺いしてきましたが、サーバーサイドの新機能やこだわりについて教えていただきたいです。

大田さん:サーバーサイドでは、TGSVR2022で新たに2つの機能を追加しました。1つ目は会場の写真を撮影してTwitterに投稿するという機能、そして2つ目はユーザーがクエストをクリアすることで報酬となる装備を獲得・アバターの見た目を変えることができる機能となります。

去年まではアバターのTシャツを着替えることしかできませんでしたが、今年からはアバター自体の見た目を変えたり、頭・体・脚の3部位を自分の好きな装備に着替えることができるようになりました。

クエストを達成することで装備品を獲得できる。

藤田さん:Twitterの画像投稿機能によってみんなが撮った写真を見て、参加者が思い思いの遊び方をしているのを目にしていました。

自分が思い浮かぶものがあるとすれば、人数の遷移のパラメーターの調整は去年より改善できたと思っていて、同じ空間に遷移する確率が去年よりも良くなりました。

大田さん:遷移周りの処理については改善の余地があるので、空間の同期人数を増やす試みと並行して、今後変えていきたいと思っています。

ユーザーの目に触れていない部分の改善としては、今回からDBにAWSのAuroraServerlessV2を使用しました。これは本来開発スケジュールのなかに入れてはいなかったのですが、負荷試験で実運用に問題ないことを確認できたので投入されました。これによって、運用中の垂直オートスケーリングができるようになったり、コスト改善に繋がりました。

藤田さん:ambrの事業として期間限定のイベントを開催することが多いため、ダウンタイムが大きな影響を与えることがあります。これをなくすことができるというのが相対的に見て大きな効果を生むのではないかと思っています。


より良いVR体験を届けるために「非同期的な助け合い」

ー開発中は作業が立て込んだりスケジュールに追われたり、厳しい状況が続いたと思います。

稲田さん:終盤にかけて各社の要望が増えてくる時期があるので、そこでブーストかけてみんなで「いくぞ!」という雰囲気で実装や作業をしていました。また、リリース直前まで「もっとここを注力したい」「もっと良くしたい」という思いがそれぞれ出てくるので、時間の許す限り調整していました。

より感動できるものを、より良い体験を届けたいという気持ちで作っているため、やはり想定よりも作業量が増えてしまうこともあります。しかし、ambrでは、TGSVRの開発期間に限らず、オープンなチャンネルで質問を投げたりそれぞれのタスクの詰め込み具合を可視化し、スタッキングする人がいないようにする取り組み、体制づくりを行っています。ただ、質問を投げる先がほぼ藤田さんになっていますが(笑)

社内のwikiもすごく充実していて、技術資産、得られた知識を文章化していることはambrのすごく良い部分だと思います。人に聞ける環境にありますが、それ以上に明文化されていることがエンジニアにとっては使いやすいと思いますし、書くことも推奨しています。そういう意味では「非同期的な助け合い」が出来ていると思います(笑)

藤田さん:今年のTGSVRの開発期間はほとんどの期間がフルリモートの開発が余儀なくされました。非同期的な助け合いもありましたし、話せるときはなるべくオンタイムで話しかけられるような環境もつくってできるところはやろう、という気持ちでやっていて、みんなも協力しながらやってくれていたと思います。


ambrで実現したいこと

ーそれでは最後の質問となりますが、これからambrで実現したいことについて教えてください。

稲田さん:VRという技術が好きでambrに入社したので、VRならではの表現をもっとできればいいなと思っています。今後はユーザーインターフェース周りの向上をやっていきたいです。

横山さん:コンテンツ全般が好きなので、VRの体験をよりいろんな人に提供していきたいと思っているので、サーバーサイドとして安定したものを提供したいです。

越山さん:今回のTGSVR2022でやりたいと思っていたけどできなかった構想も多いので、それを次のプロジェクトで実現したいと思っています。また、去年以上にいろんなユーザーさんが見えたので、多くの方々に喜んでいただけるものを作っていきたいなと思っています。

大田さん:サーバーサイドチームとしては、マルチプレイで同じ空間に同期できる人数をもっと増やすことが、当面の目標になってくると思います。今までは位置同期などのリアルタイム通信には既存のSaaSを利用していましたが、今後これを内製化する予定です。

近澤さん:私もVRが好きなんですが、一般的にVRが普及しているかというとそうではない状態で、かつ現状だと現実を真似したのがVRとなっていると感じています。でもそうではなくて、現実とは別、現実を超えるものとしてVRで表現できるようになりたいと思っています。

藤田さん:今年のTGSVR2022を終えて「東京ゲームショウをゲームにする」を深めていけたのではないかと思っています。今後に向けては、VRネイティブな体験をもっととがらせていきたいです。その取り組みとして今回把持ができるようになりましたし、バーチャルだからこそできることを突き詰めていきたいと思っています。

ー皆様、お話いただきありがとうございました!


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