小説がノンフィクションより売れる理由

事実は小説より奇なり、という言葉がある。実際、その通りでいかに考え抜かれた小説も事実あったことにはその奇怪さでかなわない。
そうなると、小説よりもノンフィクションの方が面白いのではないか、ノンフィクションの方が売れるのではないか、と考えるのも当然のことである。

しかし、実際、本屋の棚を見ればわかるが小説の方が圧倒的に多い。また、執筆志望者の数でも圧倒的に小説家の方が多い。つまり、需要でも供給でも小説の方が幅を利かせているのが事実である。

これはどういうことであろうか。

以下のような理由だろうと考えた。
1.読者は想像をしたい。そのためのシーズとして小説を読んでいる。つまり、小説には想像の余地があり、そこを楽しんでいるのだ。ノンフィクションではそれができない。書いてあることが事実なので、問答無用で受け入れなければならぬ。想像の楽しさどころでなく、もしかしたら苦痛すら伴うのである。
2.小説家の志望動機は、面白い話を考えたよ、きいてきいて、という子供のような動機であることが多いと考える。つまり、他人を喜ばせたい、笑わせたい、すっきりさせたいことが多い。これはほとんどの人が自然発生的にしてみたいことではないだろうか。子供の頃を思い出してほしい、自分はしなかっただろうか。
対して、ノンフィクション作家の志望動機は、世の中の理不尽さを訴える使命感から来ていないだろうか。戦争、犯罪、貧困の原因とは何か。つまり、平和な人に考え込ませるようなことをさせたい、いわば、大人の発想なのではあるまいか。

こうなると、事実が小説よりも奇なのは正しいとしても、事実が小説よりも面白い、とは限らないと言えてくる。

面白いことを求める需要が、面白くないことを求める需要より大きいことはわざわざ証明するまでも無いだろう。

小説家には想像力が求められ、ノンフィクション作家には正義感が求められているとも言えまいか。