駅舎のストーブ
雪深い田舎の小さな駅。待合室には冬になると石油ストーブが置かれます。
通勤、通学、旅行。様々な目的で毎日多くの人達がこの駅を訪れますが、外の凍てついた空気を背負った彼らは、このストーブの周りでぬくもりを分けてもらうのです。
大雪の日は、肩や頭に雪をのせた人々が駅舎のドアを開けます。顔を真っ赤にした雪だるまのようです。彼らはこのストーブに駆け寄り
「あったかいなぁ」
無意識のうちにこぼすのです。彼らの頭や肩から落ちた雪がストーブの頭の上でじゅっと音をたてて煙になります。その煙の中で、こわばった顔も徐々に柔らかくなります。雪だるまから出てきた人達は、例え知らない者同士でも心を許してしまうのです。ほら、いつの間にか打ち解けて、世間話。
「毎朝、毎朝、雪かき大変だよ」
「そうだよな。朝一番の仕事が雪かきだろ」
「せっかくの休みも雪かき三昧」
「こんな時は温泉であったまるのが一番」
「ぽっぽ湯がおすすめだよ」
そんな彼らの中心にいる、人気者のストーブ。
春になれば、この古い駅舎は取り壊され、エアコンが取り付けられるそうです。
ストーブにとっては、駅舎をあたためる、最後の冬なのでした。
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