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スパッとは行かず,ぬてっとした一区切り

 2023年3月28日


 昨日は午前中にE-3セレクションバトルというライブに,今日はバクツクバという僕が大学で前に所属していたお笑いサークルのライブに出させていただいた.とはいえ,所属していた間,僕は大学お笑いに分類される都内の大会などにはほとんど出たことがなく,今でもあまり大学お笑いとはどういうものなのかよく分かっていない.

 僕は,大学生という肩書きオンリーだった頃,友達とコンビを組んで漫才をやっていた.コンビ名は「鋼ズボン」.彼とは高校も同じで,高校一年の時は同じクラスだった.そして高校三年間を同じ部活で過ごした.僕も彼も陸上の長距離.

 高校生の時,彼含めて,いつも同じメンバーでふざけ合っていた.五人.全員,人見知りだった.卒業まで,恋人が出来たのは一人だけ.僕は三戦三敗で,ふられていた.

 高校三年の文化祭,僕は,それはもう運命の流れであるかのごとき思いで,漫才をしようかと例の彼を誘った.彼も二つ返事で了承した.受験期真っ只中で勝負とされる夏休み,我々は公園で漫才を作っていた.阿呆.いや,阿呆にもなり切れない,中途半端な奴.お笑いなんて理解していないのだから,勢いでやればいいのに,一丁前にボツにしたりしていた.お互いボケとかツッコミがわからない.こねくり回していたけれど,全然完成しやしない.本番は九月の第一週の土日.

 土曜日に一本,日曜日に一本やるために二本作った.テーマは「遊園地」と「文化祭」.最初,出来上がって通してやってみた時,両方20分ぐらいだった.ぞっとするほどつまらない.自分たちでこれを見せるとなると,ほぼ切腹に近しいと思った.これはまずいと二人でなり,友達に見せたりして,変えた.

 本番一日目,中庭の舞台の上に立った時,お客さんはほとんど知り合いしかいなかった.十人ぐらい.こんなにも舞台から中庭が隅々見えるとは思っていなかった.一個前に二学年のイケイケグループがダンスをしていた時は,「さすが文化祭,人がたくさんいるなぁ,こんな大勢の前でやるんだ,二人で頑張ろう」と考えて,緊張で震えている相方の彼の背中を叩いた.思い上がりも甚だしい.初めての舞台,大勢の人前でやれるわけがないだろうが.分をわきまえろ,丸メガネと呟いた.一方,あまりの人のいなさに,呆けていた自分もいた.こんなにもいないかね,と正直に思った.

 そこそこウケた.内容はシンプルな漫才コントだった.僕がボケで,彼がツッコミ.初めてにしてはいいという評判だった.がらんどうの前で我ながら頑張ったと思う.

 本番二日目,馬鹿みたいにぐだった.一日目のネタばかり重点的に練習していたため,無駄が多すぎた.なぜ二日間もネタをやろうとしたのか今となっては,ただ後悔に苛まれるばかりである.一日目の評判が良かったのか,少しだけお客さんが増えたのも,負の方向へ働いた.客席から「頑張れ」と声が飛んでくる.どうせなら罵声がよかった.応援が一番,心に来るものがある.舞台上がひどく日光を集めるもんで,「暑いな」と思ったことをそのまま漫才中に言ってしまった.相方は必死に大声でつっこみを繰り返す.

 戦意喪失のでくの坊と繰り返すのみの憐れな機械が舞台上に二十分ほど立っていただけだった.最後っ屁に,出し物の予定時間をかなり押したという事実が降りかかってきた.恥をまき散らしただけ.恥テロ.大きくなる声と反比例してどんどん少なくなっていく客席は,僕という人間の主題をよく表していた.今でもあの映像はフラッシュバックする.


 そんな形で始まったお笑いも,彼が大学を卒業すると言うので,最後にもう一度漫才をやろうということで,バクツクバにて,漫才をやらせてもらった.

 当日,いろはラムネとしても出演する予定だったが,僕の入っていたサークルに新井さんと柿田さんがいる違和感は大きかった.変な緊張をした.友達に友達を紹介する感じに近い.あと,サークルに入っていた頃,先輩で今はピン芸人として活動している前川さんもいた.相変わらず,人見知りでうろちょろしていた.

 ネタは相変わらずぎりぎりに出来たので,裏でずっと練習していた.一発目,二十分ぐらいだった.これはまずいとなり,色々と削り,七分半になった.もっと削ろうと,修正したものをやって計ったら八分十一秒と増えていた.もうなるがままでいこうと彼に言った.最後ぐらい不細工でも格好よく行こうと決めた.そうしたら,一周回っていつの間にか本当に格好いい姿になっているだろうと思っていたから.

 本番を迎えた.あえて言う.馬鹿みたいにすべった.つるんつるんにすべった.もう擬音が聞こえてきそうだった.ボケ,ツッコミ,つるんつるん.卒業するから楽しく見てくれるなんざ,甘ったれた戯言を抜かしていたのなら,まだ分かる.でも,僕らは今できる全力で漫才をやった.だから,全力ですべったのだった.漫才テーマは「大人になりたい」.本当に大人になりたい.一周回る前に力尽きて,不細工なまま終了を迎えた.誰も笑わない中,舞台上を横転したラジコンカーのごとく不協和音を奏でながら転げまわっている僕に,大声で突っ込んでくれた相方の優しさには感謝したい.

 舞台から戻ってきた時,新井さんと柿田さんは,何もなかったかのように,接してくれた.気遣われるほどすべったのだとじわじわと感じていた.すべりすぎて気遣われるって何だ.僕は,舞台で一体何をしたんだ.その後,無我夢中で,いろはラムネのネタをやった.

 ライブを終えて,僕の後輩と新井さんと柿田さんが仲良く話していた所を見て,それだけでも出演した甲斐があったと思った.


 そんな形で,僕の大学生活のお笑いは幕を閉じた.感触としては,閉じる幕に体が挟まって,身動き取れずに客席に向かってさようなら,といった感じだ.



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