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そっと、確かに、響かせる #04:音の性質を知れば

今回は物理の話です。音の物理的性質を知ることは音の響かせ方を考える上でも重要です。物理と言っても難しい話は書いていませんのでお付き合いを。

指向性

「指向性」ってあまり使わない言葉ですが、覚えておいてください。音はその高さ低さによって指向性、つまり音の向きや広がり方が変わってきます。

高い音はまっすぐ細く伸びていきます。例えば笛やトランペットといった高音域を出せる楽器は、本来音を遠くに届けさせる(遠くの者に知らせる)ために作られました。細く伸びるからこそ遠くにいても聞きやすいのです。その反面、細く広がるその音の指向性の範囲からずれてしまうと、途端にクリアな音でなくなります。

低い音は音の発信源を中心に円を描くように広がっていきます。高い音よりもその音の広がる幅が大きくなり、バスドラムやベースのようなとても低い音は楽器やスピーカーの向きに関係なくあらゆる方向に響いていきます。

スピーカーの正面に立つのと横に立つのとで聞こえる音が変わるのは、中〜高音域に特に現れる指向性に因るものです。

音は波

音は波の形をしています。海の波は水になんらかの圧力が加わって生まれ、水圧の差が波となって現れます。それと同じことが空気の中で起こっているのが音の正体です。音もなんらかの圧力…例えば叩くとか震わせるとか、を起こす事によって空気圧の高低差ができ、音の波になります。

振動と反射

その波が空気中を伝わる=空気を震わせることによって私たちの耳に届きます。この場合、音の伝導体となっているのは空気という物質です。では音を伝える物は空気だけでしょうか。違いますね。水の中でも音は聞こえますし、骨伝導(骨を振動させて聞こえさせる)というものもあります。音は振動であり、つまり振動するものがあれば音は伝わっていきます。

「ドンッドンッ」というドラムやベースなどの低い音が部屋の床や聴いてる人の体を揺するのを体感したことがあると思います。低音はスピーカーと接触している台や床を伝うことで、その音の波が「揺れる」という物理的なエネルギーとなって現れます。この「ドンッドンッ」、隣の部屋や街中を走ってる車などからも感じることがありますよね。音楽が鳴っている場所からは壁などで隔てられているのに、低音はよく聞こえます。建物や車そのものが低音と共鳴してひとつの楽器のように音を伝わりやすくしているのです。これこそが低音の指向性の広さと振動との関係から成る特徴です。

さて一方で高音はと言うと、ここでちょっとした実験をしてみましょう。スピーカーと硬い板を用意します。スピーカーからは高い音を含んだ音楽を流します。そしてスピーカーの前に音を遮るように板を置いてみます(図1)。高音のほとんどは板に反射してしまうためスピーカーの後方に跳ね返ってしまいます(薄い青色)。いわゆる「こもった音」になります。板の向こうには全く音が届かないわけではありません。板の周りを越えるように、あるいは板そのものに共鳴して板の向こう側にだいぶ威力を減らして響きます。もっと言えばスピーカー側に反射した音が、さらにスピーカーの後ろの壁に反射して板側に響いてきます。

[図1]

板を動かしてみましょう。角度が緩ければ緩い程、手前側に届く高音の量が増えていきます(図2)。板の左側に立つと、跳ね返った高音が聞こえてきます。※図の角度等はテキトウです

[図2]

高音は低音に比べ反射しやすい性質を持っています。そのため障害物(実際の生活の中では壁や家具や人など)があるとないとでは、高音の聞こえ方が全く変わってきます。障害物は硬ければ硬いほど反射率が上がります。ということはつまり柔らかい素材や隙間のある素材であれば反射率が下がり吸収されることになります。

透過と吸収

音が壁などの障害物に当たったとき、音は反射するだけでなく、障害物をすり抜けてゆく音(透過と言います)と障害物に吸収される音とに分かれます。吸収された音のエネルギーはわずかな熱エネルギーに変換されます。

障害物に隙間があったり柔らかかったり、音と共鳴しやすい材質である場合は、この透過や吸収の割合が高くなります。布は音を通しやすいですし音を吸収してくれる防音の役割も果たします。コンクリートと木では硬さや密度が違いますよね。鉄筋コンクリートと木造の住宅で全く違った響き方をするのは、壁や床における音の反射と透過が要因です。

音はその威力が無くなるまで反射し続け、反射した音のすべてを耳は聴いてしまいます。なので例えば地下道のような場所では様々な音が反射しすぎて聴きたい音がうまく聴こえないことが多々あります。逆に音楽ホールなど音の反射をうまく利用している施設では、楽器の音色は美しく響きます。エコーや山びこも、音の反射による効果です。

今回はわかりやすく高音と低音のふたつに分けた書き方をしていますが、低音にも少なからず反射は起こります。ただ高音ほどわかりやすくありません。またこれはリスニングルームの素材の話に繋がりますので後日の回の題材とします。

2階の兄の部屋から漏れてくる音

まとめとして高音の低音の違いをもっとわかりやすく身近な場所で例えたいと思います。

ここはありふれた父母兄弟、4人家族の2階建て一軒家。2階にある兄弟の部屋。兄が自分の部屋で大好きなヘビメタを大音量で聴いています。大きな音が弟の部屋にも下階の居間にも響いて、家族は困っています。この時響いてくる音は低音がメインです。兄の部屋のドアを開けると、それまで抑えられていた耳をつんざくようなジャカジャカと鳴るギターやシンバルやシャウトするヴォーカルなどが漏れてきます。高音は兄の部屋の壁や床によって反射あるいは吸収され、かなりの量が減衰し遮断されます。その一方で低音は建物(の材質)と共鳴して振動とともに他の部屋まで届いていきます。

低音は振動となることで、ときに不快感をもたらすことがあります。あなたの住んでいる部屋に隣人が居る場合、音量には気を使っているかと思いますが、特に低音について気にかけてみましょう。

次回は「聞こえやすい音と聞こえにくい音」、人間の耳の性質について書こうと思います。今回の指向性の話とセットになることで音の性質についての理解が深まるかと思います。

初夏です。当店のベストセラーから1枚。ライナーノーツも担当しました。
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