そっと、確かに、響かせる #03:お店のスピーカーはなぜ天井に吊るしてあるのか

今日は「カフェやアパレルショップなどのお店で流れているような音楽の環境にしたい」と思っている人に特に読んで欲しい内容となります。音楽に気を使っているお店のBGMというのは、そのお店の世界観を作る要素のひとつとしての役割をしっかりと担っています。食べ物や服といった好きなものに囲まれる喜びと同じように、音楽に包まれる喜びを感じてみたいと思いますよね。

音は三次元

前回、スピーカーを左右に動かす効果について書きましたが、今回は上下です。上下?と思われるかもしれませんが、スピーカから出た音は左右だけでなくもちろん上下方向にも広がっていきます。図1は横から見た平面図ですが、立体的に考えた場合、高音域は円すいのように、低音域は球のように三次元的に広がっていきます。

[図1]

お店のスピーカーがどこにあるか、意識して見たことがありますでしょうか。多くのお店で見かけるのは天井にスピーカーを吊るしていたり、天板そのものに埋め込んでいたりするものです。BOSEというアメリカのメーカーのスピーカーを目にすることが多いでしょう*。あれはなぜ天井にわざわざ付けているのでしょうか。ひとつはスペースの問題かもしれません。床に置いたらスピーカーの分だけ客席のスペースが減って邪魔になります。しかしもっと重要なのは、音を空間全体に広げるのと同時に、人(お客さん)の耳と同じ高さになることを避ける、という目的です。

*例えばこれですね。
http://audio-heritage.jp/BOSE/speaker/111ad.html

部屋の天井の角2か所にスピーカーを吊るします。音の広がりは図2(縮尺はテキトウです)のようになります。頭の上のほうから音楽が響いてくる感じで、「わたしはBGMですよ。気にしなくていいですよ。」と言われているかのようになります。

[図2]

人や家具がある床のほうではなく、空洞となる上のほうの空間にたっぷり音は反響し、音の響きが豊かになる効果もあります。まるで部屋全体に響いた音が降りてくるような感じ…と言ったら大げさかもしれませんが。もちろんお客さんの居る位置によっても音の印象は変わります。また、天井が低かったり部屋が狭すぎる場合は効果が薄れます。天井が低い物件のお店は天井から鳴らすのは思ったほど効果が出ないかもしれません。

音を直接耳に向けない効果

前回「音像定位」の話をしました。スピーカーから再生された音を100%聴き込みたい場合は耳と同じ高さで正三角形に結んだ位置にスピーカーを置くのが定石です。その場合、耳に音の情報がストレートにどんどん入ってきます。ではカフェに友達とお茶しに行ったときはどうでしょう。「音像定位」どおりのスピーカーなら音楽が耳に入り過ぎて、友達との会話の邪魔になることでしょう。だから音を直接耳に届けさせないように、スピーカーを設置するのです。具体的にはお客さんの居る位置からスピーカーの「顔」部分が見えないようにすればいいのです。そうすればスピーカーから出た音がまっすぐ耳に伝わってきません。

皆さん経験上なんとなくわかるかと思いますが、スピーカーの真正面に立った時とずれた位置に立った時では音の聞こえ方が変わります。何故かというと前回ちらっと書きましたが、音の「指向性」が原因です。音には向きがあるのです。

さて、じゃあ自宅でもお店と同じような音響空間を作りたい場合には、手っ取り早いのはお店と同じような位置にスピーカーを置けばいいのです。図3の感じです。

[図3]

天井から吊るすことは難しいので大きな棚の上のほうに置くなどしてチャレンジしてみるといいでしょう。その場合少しだけ下向きに置けたらベストです。少しでも元の音に近づける意味と、高音が天井に反射してしまって若干不自然な音になるかもしれないという理由からです。どうしても上のほうに置けない、という場合は耳より低い位置に置いてもいいでしょう。床に近いところに置いてください。どちらも無理そうであればスピーカーの向きを考えましょう。部屋の中であなたが長い時間居る場所にスピーカーの顔を向けないようにします。あさっての方向(!)でもいいです。

間接照明ならぬ間接音響

東京・恵比寿のとあるお店…そこは芸術書などをメインに扱う本のセレクトショップでしたが、そこに行ったとき、僕は店内BGMを流しているスピーカーが見えないことに気が付きました。歩き回りながら音のありかを耳で探りながら、おそらく棚の裏側の、お客さんには見えないところに置いているのだろうと推測しました。棚の裏と言っても音がこもってはいけません。見えない位置と言っても、2メートル弱ぐらいの高さの棚の一番上の当たりのすぐ裏にあったのではないかと思います。あるいは店内デザインの関係上、スピーカーを見せたくない、という意向だったかもしれません。いずれにしても、程よく刺激性を弱めた音が、お店の商品とマッチして良い効果を生んでいたと感じました。

さて、そのお店のように、スピーカーから出る音を直接聴くのではなく、敢えて隠すことによって壁や家具に反射させ、音の当たりを柔らかくさせるのもひとつの方法です。

間接照明に倣って「間接音響」と僕は呼んでいます。間接照明は柔らかな明るさを求めるときに使われますよね。あれと同じように、柔らかな音を響かせたいときには間接的に音を鳴らすことをお勧めします。もちろんクリアな音ではなくなります。それを承知したうえで、という試みです。

スピーカーと耳との間に障害物があることで音にどういう変化が生まれるのか。その物理的な作用については、先ほどの指向性の話も含めて次回からの音の性質についての回でじっくり書いていきます。それではまた。


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