見出し画像

最愛の妹に捧げたニュールックな香り

”I wanted to create Miss Dior to see all my dresses emerge, one by one, from the bottle, and to dress women in the scent of desire.” ーChristian Dior
「私のドレスが次から次へとボトルから現れ、魅惑の香りで女性たちをドレスアップさせるために、ミス ディオールを作りたいと思いました」

クリスチャン・ディオールは世界的に有名なファッションデザイナーであり、パフューマー(調香師)でもありました。今回は、彼の生み出したアイコニックな香水ミス ディオールについてまとめました。

「ニュールック」の香水

1947年2月12日、クリスチャン・ディオールがニュールックと同時に発売したフレグランス、それがミス ディオールです。

画像1

「コロール(花冠)」ラインを彷彿とさせる、優艶なアンフォラ型のボトル

パリのアヴェニュー・モンテーニュ30番地に自身のクチュールメゾンをオープンさせたその日、新しい時代の幕開けを体現する彼のデザインに魅了された人びとで溢れかえった彼のサロンは花々で装飾され、ミス ディオールの香りが漂っていました。

最愛の妹:ミス ディオール

初代ミス ディオールにインスピレーションを与えたのは、クリスチャン・ディオールの妹であり同じイニシャルを持つ妹カトリーヌでした。

画像2

カトリーヌ・ディオールは、フランスのレジスタンス運動のメンバーとして活動していました。1944年8月15日、カトリーヌはナチス・ドイツ占領軍によりドイツにあるラーフェンスブリュック強制収容所に送られてしまいます。彼女はどうにか難を逃れ、翌年の4月19日南フランスのカリアンに戻りました。南仏の地で彼女は母親の愛したバラの栽培家となり、バラを生産しそれは遠く離れたインドシナまで輸出されました。

帰還と再生の証

ミス ディオールは、クリスチャン・ディオールの最愛の妹であるカトリーヌのこと。彼女は今でもディオールというメゾンに欠かせない存在です。

画像3

「可愛いカトリーヌへ。愛と心からの慈しみを込めて、兄より」        (1956年自伝『Dior by Dior』の表紙の裏)

彼女の不在で兄クリスチャンは心を痛めていました。1947年、兄のクチュールのサロンにカトリーヌが姿を現しました。兄は最愛の妹の帰還と新しい生活への再生の証として、フレグランスを捧げました。

もっとも「クチュール」な香り

画像4

クリスチャン・ディオールは最初から、オートクチュールと香水における調和を意識していました。1949年、不要な装飾が削ぎ落とされ、女性の体のシルエットが強調され、幾何学的なフォルムで構成されたヴァーティカルラインとオブリークラインを発表。クチュリエは、このコレクションに調和するボトルのデザインを考えました。

「私たちの文明はラグジュアリーであり、それこそが私たちが守ろうとしているものである」

常に理想を追い求めたディオール。千鳥格子に包まれ、ダガーボウで装飾され、メダリオン型ラベルには「ミス ディオール」の名が刻まれています。そのボトルを収めるギフトボックスなどには、ディオールの好んだ白と黒が使われました。

Dior and I

画像5

ラフ・シモンズによるナタリー・ポートマンのためのミス ディオール ドレス

2012年ラフ・シモンズによるディオール オートクチュールの初めてのショウがパリで開催されました。大注目された若い才能あるデザイナーの初めてのショウは、約100万本の生花をふんだんに使って壁を覆い尽くした中で行われ、それはまさにクリスチャン・ディオールのアヴェニュー・モンテーニュ30番地のサロンで行った初めてのショウを彷彿とさせました。こちらのショウの様子は、『ディオールと私 (原題:Dior and I )』 で観ることができます。

2015年、ディオールのミューズであるナタリー・ポートマンのために仕立てられたミス ディオール ドレスは、シルクのオーガンザで花畑に蕾がほころぶイメージ。そのドレスの構造はミス ディオールの香水を想起させ、ディオール の思想に裏打ちされたディオールの象徴として記憶に新しい。

AND YOU, WHAT WOULD YOU DO FOR LOVE?

ラフ・シモンズがディオールを去った後、新しいアーティスティック・ディレクターにマリア・グラツィア・キウリが就任。ナタリー・ポートマンは引き続きメゾンのミューズとして、2017年ミス ディオールのキャンペーンに登場。

「あなたは、愛のために何をする?」

イギリスの歌手Sia(シーア)の「Chandelier(シャンデリア)」とともに、ナタリー・ポートマンが魅せる女性が情熱に駆られて経験しうるあらゆる種類の感情から目が離せません。

「ミス ディオール」のドレスを再解釈

2019年9月、アーティスティック・ディレクターのマリア・グラツィア・キウリによる、2020春夏のショウがおこなわれました。マリアはミス ディオールのドレスを再解釈し、「女庭師」というテーマでクリスチャン・ディオールの妹カトリーヌから再びインスピレーションを受けたコレクションを発表しました。

「ファッションは欲望を表現するもので、ときに欲望はサステナビリティと対立する」

マリアは昨今のファッション業界が抱える問題に言及し、矛盾を抱えながらでも問題意識を持つことが大切だと説きました。

「ファッションにできることはたくさんある。ファッションには、人々の選択を左右する力があるのだから」

まとめ

女性たちと新しく明るい時代を夢みてメゾンを作り、そのドレスや香水で体現されたクリスチャン・ディオールの哲学。その伝統は、今も脈々と受け継がれ新しい時代の光になっているのかもしれません。

                              

                              2402文字

*参考文献 MISS DIOR : LOVE N’ ROSE, Dior.com,VOGUE.com, CAWTHORNE, Nigel, The New Look : The Dior Revolution, London : Hamlin, 1996, Dior by Dior

*写真は「MISS DIOR : LOVE N’ ROSE」の展覧会で撮影しました。

この記事が参加している募集

名前の由来

好奇心を広げるための旅の資金にさせていただきます。 サポートありがとうございます。