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落ちても落ちても

今の事務所に入って数ヶ月。めちゃくちゃ新人のとき。ショーのモデルとして初めての、東京コレクション(Japan Fashion Week)のオーディションが入りました。

「ファッションというよりはコンサバティブなモデルの仕事を目指してほしい」と言われていたところですが、"物は試し"ということで、初回は様々なブランドのオーディションを受けさせてもらいました。

受かったり落ちたり…その中でも、落ちたときにかけられた言葉でとても印象的なものがありました。今回は、そんな周りの言葉に励まされたり奮起したりしながらオーディションに備えていたときのお話です。

◆憧れのブランドに出会う

新人ということもあり、自分が受からなかったショーは、同じ事務所の先輩が出演されるときに限り、見学することができました。

格好いいな、自分もあんなふうに歩くことができたらな…先輩たちの姿に、どんどん意欲が高まっていきました。自分がモデルということもあり、いつも視線が服ではなくモデルにばかりいってしまうのですが…そんな中で唯一「このブランドのショーに出てみたい…!」と強く思うブランドがありました。

それは、今までの「爆音の中を軽快なリズムで歩く」という私の偏ったショーのイメージと異なり、会場全体が静けさに包まれつつも心地よい音楽が響き、その音に乗ってモデルたちが前に出てくる、とても新鮮な空間でした。服や音楽、照明等がぴったりと一致したこの場所に、自分もモデルとして立ってみたいとすぐに思いました。

出ているモデルの方々を見ても、とっても素敵。この中にどうやったら入れるのか…そんなことは検討もつきませんでしたが、ただ「このショーに出たい!」という気持ちだけを熱く持って、次のシーズンもオーディションに臨みました。

◆言葉にショックを受ける

①背中に聞こえた〇〇という言葉

結果は、またもや落選。

しかし前回受けたときとは大きく違う点が。自分が歩いている最中、背中越しに聞こえた言葉があったのです。


「もっとオーラを引っ張ってこれる子がいいんだよねぇ…」

聞こえた瞬間はとてつもなくショックでした…その場で落ちたことも見当がつきましたし。。
でも実はこのグサッときた言葉が、次にまた挑戦する上での大きなヒントとなりました。

「オーラ」ってなんだろう…?そしてそれを引っ張ってくるってどういうことだろう。当時始めたばかりの私にはすぐに答えを出すことはできませんでしたが、確かにショーに出ている先輩たちには、こちらに迫ってくるような、風を感じるような雰囲気があった。。そのことを言っているのかな、、?

次にオーディションを受けるまでには半年ありましたが(今思うと、2回落ちててもう呼ばれない可能性もあるのに、勝手にまた呼ばれると思ってました笑)、またがむしゃらに受けても結果は同じになる気がする…でも何をどうしたらいいのわからない…段々と弱気な気持ちになっていきました。

②奮起する

そんな思い悩んでいたとき、そのショーの常連となっていた先輩のモデルと仕事で一緒になる機会があり、思い切って相談したことがありました。

「どうしても〇〇のショーに出たいんですが、どうしたらいいんでしょうか…」(今思うと、こんな漠然とした質問をされて先輩も大いに困ったと思います。。)

答えとして返ってきたのは、

今出ている先輩たちが(引退して)出なくなったら出れるんじゃない?

というものでした。確かに、、今出ている方々はキャリアの長い方やショーでも活躍している方ばかりで、そこに新人の私が急に取って代わるなんてことは難しそうだ…言ってることはすごくわかる…

でも、だからってその時を待っていたらいつ出れるかわからないし、そんないつ出れるかわからないのに待つなんて嫌だ、、、!
聞いたくせに、返答に納得ができませんでした。

やっぱりどうしても諦められない…!

そんなことを思いながらも、刻々と近づいてくるショーシーズン。直前に行なわれる、事務所主催のウォーキングレッスンも始まりました。

そこでラッキーなことが起こります。
普段は顔を出すことのない同じ事務所の先輩が、急遽レッスンに参加することに…!実はその先輩も、例のショーに頻繁に出ていた方でした。

いつものようにウォーミングアップをしたあと、2人ずつ並び、息を合わせて歩くことに。
通常のレッスンはヒールで行なうのですが、今回私は特別、裸足で行なうことに。そのブランドのオーディションではいつもフラットシューズか裸足になって歩くため、レッスンでも同じ状態にしたのです。

そしてなんと、、一度だけ先輩にも裸足になってもらい、横に並んで一緒に歩いてもらうことに…!(なんて贅沢な後輩なんでしょう、、!)。

どうやって歩くか、スピード、歩幅はどのくらいか等、いろいろと気になることはあったはずなのですが、当時の私が感じたのは、横から伝わってくる先輩の「空気感」。どこを学んだ!というよりは、実際に本番も歩いてる先輩の“それ”をただひしひしと感じて歩きました。
たった1〜2往復だったと思いますが、オーディションで言われた「オーラを引っ張ってくる」の意味を少しだけ感じることができたように思います。本当に貴重な一瞬だったと、今でもそのときの情景が浮かびます。

もちろん他のショーのオーディションもあったのですが、当時はひたすら裸足で歩く練習を重ね、一点集中で自分の憧れのショーに備えました。

◆三度目の正直

受け始めてから3シーズン目。いつもと同じ、奥に審査員席、歩く横にはズラーッとモデルたちが座っている中、レッスンで先輩と歩いたときの空気感を思い出しながら歩きました。

そして、初めてその場でフィッティングに…!
自分の着ていたものに長めの上着を羽織って歩いたように思うのですが、多分ものすごい緊張と集中で全くと言っていいほど記憶がありません。ただ、それまでは歩いたら即、「ありがとうございました」と言われて帰っていたので、次のステージに進ませてもらえたことが心底嬉しかったです。

結果、合格、、!涙

そこから本番はあっという間にやってきました。

今まで見ていたショーの舞台裏はこんなにバタバタだったのか、ヘッドピースはこんなふうに装着してもらうんだ、先輩たちの空気感すごい、、、!音楽、照明、演出、そしてそこに立体となってなびく服とモデル。やはりとても素敵な空間で、見ている側の感動は、出る側にも同じようにあったことにまた感動しました。
ちなみに、自分が観てきた過去のショーと同様に絶対に素敵な空間になると思い、初めて両親を招待したのもこのショーでした。

その後もご縁は続き、NYにいるときを除いて5シーズンも出させていただくことになりました。そしてその間、新たな言葉をもらうことに。
毎回、ショー前はフィッティングをしにアトリエに伺うのですが、そこで

「またオーラが(良い方向に)変わりましたね。どこか行ってきました?」と。

それは必ず、NYやミラノの滞在から帰ってきたときでした。自分自身では何とも思っていなくとも、経験がそういうふうに表れているのかと思うと、とても嬉しかったです。その度に当初オーディションで言われた言葉を思って、自分の成長を少しだけ感じていました。

◆自ら言葉を選択する

背中にかけられた一言、そして先輩からの返答。
どちらも私にとってなくてはならない言葉だったと思います。
しかし、もしも「私はオーラが引っ張ってこれないんだ…」とか、「今出ている先輩たちがいなくならない限り、私は出れないんだ」と決めつけて諦めてしまっていたら、、、私がそのショーに出る未来は消えていたかもしれません。

言葉をどう受け取るのかは、本当に自分次第なんだとこの仕事をしてからよく思います。
どの言葉を信じ、自分にとって大事とするのか、逆に反発して奮起するのか、または受け取らないようにするのか。自分の中で選択して、嫌だと感じる言葉は無理に受け取らなくていいし、嬉しかった言葉はいつまでも大事に胸にしまっておきたいと思うようになりました。

この選択を今でも時々忘れちゃうことはあるけれど…!
そんなときは、大切にしまっていた言葉を取り出して、ひたすら眺めたいと思います。それはいつ見ても、私を励まし幸せな気持ちにしてくれます。

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