「萌え兵器擬人化」ジャンルはいかにして発展したか

2018年7月24日追記

オタク文化における「兵器擬人化」作品のルーツ・流行時期・ファン層等を調べるためのアンケート結果をもとに考察などを垂れ流してみます。
ドヤ顔で語っちゃってますが、私は平成生まれの艦これチルドレンなので、間違っていたらご指摘よろしくお願い致します……。

結果だけ見たい方はこちら

ありがたいことに340人以上の方から回答を得られました。ご協力感謝いたします。(引き続き募集中です!)

まず回答者の年齢層・男女比です。

Twitterで募集したので若い世代中心になるのは致し方ありませんね。男女比に関しては、ミリタリーというかいわゆる「萌えミリ」ジャンルならこのくらいかなと言った感じ。

では実際に回答結果を見ていきましょう。

Q1.はじめて「兵器擬人化」作品を知った時期はいつですか。はっきりとわからなければだいたいの年をお答えください。

Q2.その作品(あるいは発表された媒体)の具体名をお答えください。

予想はしていましたが、『艦これ』強い……。『艦これ』のリリースが2013年4月なので、2013年頃に急激に増えているのも納得ですね。

メカ少女の広まり

年代別にもう少し詳しく見てみましょう。

グラフ中の1990年代以前では「MS少女」が結構な割合を占めています。いわゆる「メカ少女」タイプの兵器擬人化は『ガンダム』シリーズから派生した「MS少女」の影響を色濃く受けていると言われます。
※MS少女…モビルスーツ(MS)の外装をまとった少女。あるいはモビルスーツの擬人化を指す。

モビルスーツは架空兵器なので、MS少女も「兵器擬人化」と言えそうですが、MS少女が擬人化かどうかは人によって判断が分かれるそうです。

例えば、MS少女を広めるきっかけになった明貴美加(あきたか・みか)先生は「モビルスーツの外装をまとった女の子」を描いており、擬人化ではないようです。(身も蓋もないこと言うとコスプレみたいなもんだと思う)

アンケートでは「グフレディ」(1983年登場)など80年代のものを回答している人がいました。
1990年より前を選択肢に含めなかったのは完全に私の落ち度でした……。申し訳ありません。

あとは『モデルグラフィックス』、『B-CLUB』などの80年代からある模型雑誌や、『ジ・アニメ』といったアニメ雑誌が上がっていました。
それから同人誌も一件回答がありました。

『ストライクウィッチーズ』シリーズで知られる鈴木貴昭(すずき・たかあき)氏はこう語っております。

「自分の知る限り、80年代頃には既にメカ少女は、まだ今ほど規模も大きくない同人誌の世界を中心に確かに存在していた。今は大メジャーとなった漫画家の同人誌には、メカリータと呼ばれる機械少女がページ狭しと踊っていた。同じ頃、各種ロボットのパーツを装着した少女の絵も、同人誌やアニメ雑誌の投稿欄に登場していた。」

出典:明貴美加(2010)『MOBILE SUIT GIRL 明貴美加 MS 少女アートワークス』角川書店

1990年以前のアンケートはおおむねこれと一致しているように感じます。「MS少女」を選択肢に入れたらまた変わった気がしますね……。
何をもって擬人化とするかというのも難しい問題です。

アマチュア・ムーブメント

さて、お次は1991年から2004年です。ここでMS少女や同人誌等の個人発表作品、模型雑誌に加えて、新たに「制服兵器兵站局」というのが加わります。


厳密には「制服兵器兵站局」が登場したのは2002年なのですが、回答者の記憶に頼っているため90年代に入っていることもありました。

2000年代初頭は初期萌え擬人化ブームが起こっていました。
発展の過程で重要な点が、「萌え擬人化」黎明期はアマチュアによる同人誌・インターネット等を中心に起こったブームが大きな役割を果たしたということです。

2002年頃の「PINKちゃんねる」の半角二次元板で生まれた「ビスケたん」とかその最たるものかと思われます。
※ビスケたん…ケンタッキーフライドチキン ビスケットの擬人化。インターネット掲示板で誕生以降急速に普及し、一種のムーブメントを起こした。

兵器擬人化も例に漏れず、半角二次元板にミリタリーファンによるイラストが投稿されていました。
そういったイラストをまとめるのに機能したのが「制服兵器兵站局」なのです。

「制服兵器兵站局」の影響力は、アンケート結果を見ても一目瞭然かと思います。
『ストライクウィッチーズ』等で有名な、萌えミリ第一人者の島田フミカネ先生も投稿していたことが確認されています。

また、個人サイトも影響力を持っていました。

Q3.Q5.「上記以外の同人誌・個人サイト・掲示板・SNS等での個人発表作品」を回答した方にお聞きします。具体的な発表媒体や作家名、サイト名等を差し支えなければお答えください。

福住兵器工廠、電算連合艦隊提督 桜花、対空絵画室、駿河南海軍工廠『遠い約束』、く〜ま⭐︎どっとこむ、装甲天国、がんばれクリーグスマリーネ

これらのサイト(とか作品)が挙げられていました。ミリオタの間で有名なあのサイト~!ってなりますね。(残ってるサイトも多いから各自でググってね)

また、この時期に雑誌以外の商業兵器擬人化はなかったのかというと、実はありました。

月刊少年エースで連載されていた漫画、『成恵の世界』の劇中劇として、『魔砲少女四号ちゃん』というものがあり、2000年から何度か読み切り化(2014年から連載)しています。
アンケートでは340人中4人が2000年・2004年に初めて見た兵器擬人化として挙げています。

スピンオフといえば、『戦闘妖精雪風』から派生した『戦闘妖精少女 たすけて! メイヴちゃん』(2005年)も架空兵器擬人化作品ですね。

【追記】
他の方から言及がありましたが、『軍艦越後の生涯』(2000年)という架空戦記小説に非メカ少女系の擬人化表現があるようです。
当時のミリタリーファンの間でも話題になったのだとか。
こちらの影響力も調べたいところです。

商業萌えミリの大々的登場

2004年まではこのあたりにして、グラフの2005年以降の話に移ります。

まずは島田フミカネ先生・コナミによる『メカ娘』シリーズ。

初出は2003年です。グラフ中にも少ない割合ですが2001~2004年の中に入っています(水色の部分)。
航空機や戦車を中心に、マニアックな実在兵器を魅力的に擬人化したことで人気を博したシリーズだそうです。

それから2006年に初の「萌えミリ」専門誌の『MC☆あくしず』が発艦…じゃなくて、発刊されました。
それまで雑誌における「萌えミリ」は、前述の通り、軍事・模型誌の記事や読者投稿欄で取り上げられていましたが、『ミリタリー・グラフィックス』誌から独立しました。

2000年代半ば頃から「萌え兵器擬人化」が商業でよく見られるようになったと推測されます。

2007年にはPC用ゲームソフトとして『萌え萌え2次大戦(略)』が発売されます。

元祖兵器擬人化商業ゲームといえばこちらになるのでしょうか。

ところで、商業作品だと特に「擬人化」って表現使わないと思うんですけど、○○擬人化っていう半ば固有名詞化した表現はいつできたんでしょうね。ネットでざっと確認した限り、少なくとも2005年には物や動物の人間キャラクター化のことを擬人化って言ってましたが。

余談ですが、私が「擬人化」という単語に初めて触れたのは2006年頃の「ポケモン擬人化」でした。掲示板の住人の間で一般的に使われてたなーと…。(どうでもいい)
この年、『擬人化たん白書』なる萌え擬人化の通史(⁉)的な本が刊行されました。

商業作品が萌えミリ・兵器擬人化の中心に

そろそろ2009年以降の話をしましょう。(語りすぎたのでもう一度貼ります)


新たな勢力が出てきてますが、赤色は『艦これ』ですね。厳密には『艦これ』リリースは2013年からなので、ここには含まれません。
というか、時期を誤認した人たちがこれだけあぶれるほどの『艦これ』、ちょっと影響力大きすぎる……。

また、ピンク色のグラフ、ロクザキ先生による『深夜隊』が目立ってきましたが、これについては別グラフと共に後ほど語ります。

2009年~2012年は、2000年代半ばに土台固めをした商業萌えミリが、『ストライクウィッチーズ』、『ガールズ&パンツァー』といった大規模な企画に繋がった印象があります。

また、兵站局や個人発表作品の影響力が低下しており、この時期はアマチュアから商業へ兵器擬人化ジャンルの牽引役が移り変わったように感じます。
掲示板や個人サイトから、ブログやpixiv等のSNSに移り変わったことも影響しているかもしれません。

2013年『艦これ』の登場

2013年以降は、説明するまでもなく、『艦これ』の影響力が大きいですね。『艦これ』以後の話は色々な方が語りまくっているので、またいつか書きます。(正直に言うと文章書くの疲れた)

1つ、アンケートをもとに語りますと、『艦これ』より後の兵器擬人化作品から初めて兵器擬人化を知った人がほぼいないということはとても特徴的だと感じました。(赤色は『艦これ』と『艦これ』以後の作品)

それだけ『艦これ』が超大手ジャンルという証拠でもありますね……。

女性向けジャンルに見る兵器擬人化

最後に一つグラフを出します。(実は私が一番知りたかったところだったり……)
※男性向け、女性向けジャンルという同人特有の言い方はあまり使いたくないのですが、ジャンルの特徴を表すのに便利で使っております……。

上は女性回答者に絞った「初めて見た兵器擬人化作品」の回答です。

こちらの男女合計した回答と比べると、若干構成が異なっていることがわかります。

MC☆あくしず・制服兵器兵站局よりも、『深夜隊』『日本海軍菊花聯合艦隊』『その他個人発表作品』が上位に来ています。

これらは「メカなし擬人化」、いわゆる『ヘタリア』系擬人化と考えてもらって構いません。
イラストより漫画を中心に作られているストーリー重視の兵器擬人化です。
アレンジされたメカがない分、元ネタになった兵器を丁寧に描いている作品も多いです。

2009年にロクザキ先生による艦船擬人化作品が個人サイトで発表されました。
(アンケートでは2005、2006年に見たと回答があったので、もしかしたらもっと前にあったのかもしれませんが、このあたりは不勉強でして、詳しい方がいましたらご教示願いたいです)

その後、2010年には商業コミックス化しております。
『深夜隊』から兵器擬人化を知った人も、2009年以前は5人、2010年から8人に増加しています。(母数が少なくて、なんともかんともかもしれない…)
pixivのファンアートは1500件以上ありますが、すべて2010年以降のものですね。
アマチュアによる創作のファンアートはなかなか表立って描かれないので商業化以後増えるのは当然と言えば当然ですが……。

牧先生の『日本海軍菊花聯合艦隊』も、WEB公開から2010年に商業漫画連載化したケースですね。
牧先生の擬人化作品は商業連載化の前か後か失念しましたが、pixivのランキングに載っていたのを見た記憶があります。

また、その他個人発表作品でも、『ヘタリア』の影響が色濃い「擬人化王国」というオンリージャンル即売会を筆頭にメカ少女系兵器擬人化とは趣を異にする作品が多く見られます。

ネット上の発表媒体は個人サイト、通常のブログサイト、pixivのほかに手書きブログもありました。(アンケートによる回答)

pixivでは「WW兵器_擬人化」タグのついた作品が2009年から登場しています。
メカ少女系擬人化が比較的多い「兵器擬人化」タグとは棲み分けがされている模様。ちなみに「兵器擬人化」タグ作品の初出は2007年。

アンケートでは2006年より前は女性からの回答もMS少女や兵站局等となっていたので、非メカ少女系兵器擬人化ブームは2009年頃からのヘタリアや、その他萌え擬人化流行の系譜と思っているのですが、どうなんでしょうか?
(ちなみにヘタリアは2006年頃から個人サイトで発表、2009年にアニメ化という流れ)
もう少しアンケートの母数が多くなれば何かつかめるかもしれません。

ざっくりまとめ

80年代頃かそれ以前から同人誌や雑誌でMS少女等のメカ少女が観測され始め、その影響を受けつつネットの普及と共にアマチュア中心に兵器擬人化が2000年代初頭に広がりました。

2003年から2000年代半ばにかけて、『メカ娘』シリーズやMC☆あくしずが登場し、商業でも徐々に定着、発展します。

2009年頃には兵器擬人化ジャンルの牽引役は商業へ移り、2013年に『艦これ』の爆発的ヒットがあって兵器擬人化ジャンルの知名度を大きく押し上げました。

また、2009、2010年頃にはメカ少女系とは別の潮流の兵器擬人化が、いわゆる女性向けで盛り上がりを見せていました。
こちらもWEB公開作品の商業コミックス化によって定着したことを考えると、2000年代後半の萌え擬人化商業パワーを感じます。

終わりに

色々語りましたが、アンケートそのものは大いに参考になったとともに、設問や言い回しなど多々ご指摘も受け、反省点も見つかったので今後に生かしていきたいところです。

そもそも「萌え」っていつから? 「オタク文化」っていつから? という、下手すれば文化史レベルの話に及びかねないのが……。
極論、竹久夢二の美人画はオタク文化につながってる! とか言う人もいそうですし。

それから、兵器擬人化の定義も人によって変わってくるのもわかりました。
例:『MS少女』『ストライクウィッチーズ』『蒼き鋼のアルペジオ』は擬人化か? という話
兵器を人間化、あるいはキャラクター化すること自体は戦前からありましたから、そこが萌え兵器擬人化のルーツだという人もいるかもしれません。

今後は80年代以前の考察が課題なのかなぁと思ったり。
MS少女は私がやらなくてもかなり考察進んでますが…(※私はガンダムについてはよく知らないのです)

【女性向けに関する追記】


ここまでお読みいただきありがとうございました。
兵器擬人化ファンの参考になれば幸いです。

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