ブスの呪い

私はブスだ。
顔はでかい、鼻もでかい、何なら口もでかい。しかも眉も濃い。
誰が見てもブスだ。

私にはブスの呪いがかかっている。
私の妹は、顔が小さくて、顔のパーツも小さくて、とってもかわいい。
私の弟は、顔が小さくて、目鼻立ちがはっきりしていて、とってもかっこいい。
なぜ私だけ、顔がでかくて、むだに顔のパーツもでかくて、こんなにブスなんだろう。

小学2年生のとき、父方の祖母が亡くなった。
父方の実家とはほとんど交流がなかったので、葬式で初対面の親戚がほとんどだった。
私は覚えていないだけで、昔会ったことがある人もいるようだったが。
親戚のおじさんは、私にむかって「大きくなったね」「お姉さんになったね」と声をかけてきた。
そして妹にむかって「妹ちゃんはかわいいね」と。
私がどんな顔をしていいかわからないまま立ち尽くしていると、おじさんは他の人にも声をかけた。
「ほら、妹ちゃんがかわいいよ。将来嫁にしたらどうや」
「そうやなあ、ほんまにかわいいなあ」
私は何も言えなかった。
親戚のおばちゃんがそんな私に気づいて、「ごめんな、お姉ちゃんもかわいいで」と、困ったような顔で言ったのを覚えている。

これが、私が覚えている最初のブスの呪い。

中学2年生のとき、図書館から1人歩いて家に帰っていた。家の近所にはいわゆるやんちゃな子が住んでいて、よく溜まり場になっていた。外で騒いでいる声がしたが、道から少し遠いし、私のことは無視するだろうと思ってそのまま歩き続けた。
突然、「◯◯~!まじブス!」と叫び声がした。
私はただ下を向いて、歩き続けるしかできなかった。

中学3年生のとき、修学旅行でディズニーランドに行った。私はこの日をずっと楽しみにしていて、幼稚園から一緒の二人と回ろうと決めていた。1人はとてもスタイルがよくて、1人はスカウトされるような美人だった。
修学旅行には写真屋のおじさんも同行していて、ディズニーランドでも写真を撮りながら回るとのことだった。この写真屋は、地元の幼稚園、小学校、中学校とイベントがある度に呼ばれるのだった。
ディズニーランドについて、入園した直後、おじさんがいた。
「おっちゃーん、写真撮ってー!」
友達が声をかけた。
「おう、撮ろかー。お、◯◯!相変わらず不細工やなあ~!」
なぜ、今、それを言われなければならないのか。私が何かしたというのか。友達も困っている。
その時の写真の私は、必死に笑っていた 。きれいは友達二人の横で。
今でも修学旅行の話をする度に思い出す。ディズニーランドのCMを見る度に思い出す。

なぜブスは呪いをかけつづけられなければならないのか。

呪いは他人だけではない。親からもかけ続けられている。

私は思春期まではとても痩せていて、細いねとずっと言われていた。
思春期を迎え、急に太ると、親からはデブと言われ続けた。妹や弟と見比べて、ブスと言われ続けた。
少しでもかわいくなりたくて、おばと服を買いに行ったりしたが、母に似合わないと言われるのが嫌で仕方なかった。
顔がブスな分、せめてかわいい服を着て、普通の人になりたかった。
顔がブスな分、せめてかわいい物を持ちたかった。
幸い、学校で苛められるようなことはなかった。
だが、親に服が似合わないとかブスだとか言われる度に、笑ってごまかすのが辛かった。
大学に入って一人暮らしを始めてやっと、好きな服を選べるようになった。
誰にもブスと言われなくなった。
やっと、ブスの呪いを解き始められると思った。

なのに今でも、小学生のころの写真を見つけた母が、「めっちゃ不細工やん、これ」とコメントつきで送ってくる。「友達との写真を送って」と言われて送ると、「あんたデブやなあ」と言われる。なぜそんなことをするのか本当に理解できない。

なぜ呪いをかけ続けられなければならないのか。

幼稚園から仲のいい友達と数人で遊んだ日、みんなで撮った写真を友達が友達の母親に送った。友達のお母さんは厳しくて、美人の友達に「あんたはかわいいかわいい」とばかり言うので、私は少し苦手だった。私のことをよく思っていないのが伝わってくるような人だった。
友達が送った写真に、すぐに返事がきた。
「真ん中の子、だれ?」
「◯◯やで」
「なんか地味!」
友達が慌ててスマホの画面を隠したので、その先の会話は知らない。
私はシンプルな服が好きで、その日はスタンドカラーのシャツを着ていた。確かに派手ではないけど。それに、親子で仲良しのいつものメンバーなのだから、聞かなくても誰かくらいわかると思うのだけれど。

ブスの呪いは思いがけないときにかけなおされる。
いつまでたっても解けない。

親元を離れてずいぶん楽になった。でも、今でも他の人から悪気なく容姿のことを言われると、帰ってから泣いてしまうこともあるし、みんなで撮った写真が見れないときもある。眉の脱色をしすぎた日、恋人に「もうちょっと暗くてもいいんじゃない?」と言われ、すごく嫌な気持ちになった。濃いより薄すぎる方がよほどましだと思ってるのに。また私は運動がとても苦手で、持久力が全くないのだけれど、恋人はよく「運動しよ、走ろ」と言ってくれる。筋肉をつけて、体力をつけて、私が健康でいられるようにと思って言ってくれてるらしいけど、デブだから痩せろと言われているような気がして辛い。

嘘でもいいから親にかわいいって言われたかったな。

誰かに容姿を認めてほしいな。

せめて恋人には。

がんばっておしゃれした日くらい。

ブスの呪いがはやく解けますように。

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