そして静かな夜がくる


序章

正義の女神

女神は地上に降り立った。
大きい方の国の主の脳内に語りかけた。


小さい国を奪おうとするのはやめなさい


主は言った。


頭のおかしい女が話しかけてくる。

見つけ出して処刑しろ。


兵たちは困ったが、とりあえず捜しに出た。

女神は小高い丘に立ち、一度だけ指を鳴らした。
とたん、大きい国が持っていた、永久に世界を穢す爆弾がすべて炸裂し果てた。

大きなキノコ雲がたくさんあがったが、毒は一歩たりとも国土を出なかった。
上空からも。
大きい国のすべての人民が死に絶えた。


女神は小さい国の主の頭の中にも入った。

大きい国には自滅してもらいました
だからといってあなたがたが無謬ということではありません
失われたたくさんの命のことを忘れないで
あなた方の側に立った人たちもたくさんいたのだから

小さい国の主は青ざめた顔で、それでもしっかり頷いた。

女神は超大国の主のところにも現れた。


今回は、あの国だけに責めを負わせましたが、あなたの国にも毒の爆弾がありますよね
同じようなことをしたり、他国にさせたら、私はあなた方にも同じ罰を与えます
似たようなものを持つ、すべての国にもね
愚かなことはやめなさい


そう言って、女神は姿を消したという。

ああこれで、世界は平和になったのだな


東の果ての小国の主が胸をなで下ろす。
だがその脳に、女神が送った文言はこうだった。


海にあれを流すのでしょう?
自国のミスを全海に担わせる
そういう考え方が嫌いです


東の小国は無くなった。
瞬時に。
跡形もなくかき消えたのだった。

正義の女神に論理はない。

ただただ我流の正義があるのみである。




そして静かな夜がくる

           NN


 迎撃~なな日常記 抜粋~


呼び出しだ。
別に行かなくてもいいじゃん。
長瀬でいいでしょ。
え?
長瀬解雇?
集中力落ちた?
まあ落ちるわな。
24時間365日張りつめてるコトなんか人間出来ないもの。
詰めさせるから悪いんよ。
私みたいに放牧しといて貰わないと。
新潟?
オッケ。

とらえた。

オトス?

海?

えりに漁船どかさせて。


OK。


消した。



 迎撃2~なな日常記 抜粋2~

メリス合国本土に届くかも?
飛距離出てきたね。
人民ほったらかしだもん、できるわな。
で、どうする。
上空行かせる?
万一落ちたらヤじゃん。
ドーム状にバリアー張るか…

誰一番パワーある今?
めぐ美!?
まだ七つじゃん!
集中切れたらどうすんの。

えり。
国土動かせる?
うん。
12秒くらい。
亜空間に待避とか。
ケネスが手伝えばイケる?
じゃあそれで。


政治はいいよねえ。
国防はあたしらにお任せでさ。

あー。

今回の終わったら、あたしもリタイアする。

ばかばかしいもん。



 迎撃3 ノースバレイラ
       ~なな日常記 抜粋3~

寝起きを叩き起こされた。
地震だ。
人為的なやつ。
やったなノースバレイラ。
いくつ実験すれば気がすむほんとに。
この間は人工衛星、この間はみさいる。
バクダンと、飛び物と、そろえば他国、やすやす攻めれる・・・
専守防衛?
いやいやいやいやいや。
持てば使いたくなるのが人情だ。
あの国のトップはとくに。
あたしらの苦労もしらないで。

ちょっとだけ。

目を閉じた。

なな

何をした


え?

な、何も?


思わず口ごもる。
ちょっと続く沈黙。
ややあって。
管理官AZ90はそれ以上あたしを追及せず、かわりにぽそっとこう言った。


放射能値が跳ね上がっとる
地下実験は地上に放射能が漏れ出さないことで知られておる
それが漏れたとしたら、

誰かが

地盤に

亀裂でも入れたとしか考えられまい?


あたしは黙ってる。
しましたとも。
ほんの2ミリ幅。
地殻に空隙を・・・


私らに陰でおっちゃんと呼ばれてる、その顔なじみの管理官はため息をつき、あたしにではなく己の副官たちにてきぱき指示を出し始めた。


国土防衛要員増強
放射能防衛能力者四名追加投入!
記憶改竄はケネスと亜利に指示
サブにリョータ
アミカはまだ実戦はむりだろうが、一応張り付かせておくように
それから・・・


あたしを放置のまま、指令が積み上がってゆく。
あたしを罰する文言はない。
まああったところで、あたしを罰せる能力者はほとんどいないのだろうが。


すんまへん


とだけ思い、あたしは再び眠りにつく。
ごめん。
寝起きのあたしはちょい無責任だ・・・


 撤退~なな中堅期 回想~


AZ90は知っている。
あたしの無謀も、かっとしやすいところも、気まぐれも。
それでも指令には懸命に従う。
そんなあたしだからかわいがられてもいたんだきっと。
そう。
今のめぐ美と同じ。
同じだから心配なのだ。
こんなこともあった。
あれは在タルミム邦人撤退期限の日だった・・・

メリス合国軍の撤退日限に向けて、うちの空軍の移送機も、ケメルクで待機してると聞いたが、ケメルク!
メニェムからケメルクまではどうやって行くのだ。
ケメルクはタルミムじゃないぞ!
他国なんだぞ!


そこはなんとかしていただいて


なんともならないからあたしらにお鉢が回ってきてるんだろ!?
事務方。
ばかなの!?
ケメルクのあるアズサーは、国軍が国境に防壁作ってるって。
メリス合国がマケシクと接する国境に以前作ってたみたいなやつ。
必至で逃げてきて防壁!
鬼畜すぎる!!

あたしは考える。
トぶしかない。
でもたぶん、一度に運べるのは・・・
ああまてまて。
人海戦術なら?


トべるの何人いる


十二、三人・・・


大人運べるのは?


それでも十一人・・・


ラッキー!
全員集めて。


トぶ。
住所頼りに。
人間だけ。
下手すると服さえ無理。
裸で連れ戻った場合のために、引き戻し座標毎にカーテン張ってある。
うちの国の人は残百二十人。
行って。
戻って。
行って。
戻って。
負荷で細胞がバラバラになりそうだ。


なな!
トラブル!


なんっ?


旦那さんの遺骸を置いて行けないそうだ


たわけすぎ!


とりあえずトぶ。
ああ、言いそうな女!
一発ひっぱたいて連れ戻る。
これで終わり?


アキとマキが!


双子ちゃん?
二人で一人運んで来るコたち!


力尽きた。
ゲリラに追われてる。


追われてる、じゃない!
あたしも限界来てるけど、後一回、トぶぞ!


やめろなな!!
行くな!


おっちゃんの声を置いてトんだ、


走る双子ちゃんの真ん前に出、両腕に一人ずつ抱えた。


行く!!


だめ!あのおじちゃん!


とアキが指さす先に背広の中年が、書類かなんか探してやがった!


あんた!
書類は持ってけない!


機密なんだ!


知るか!


アキとマキ左手で抱いてバカ背広の首に右手巻いた。
ゲリラがなんかわめいてるけど、かまうもんか、トぶ!


ズガアアン!!


背中がドン!って熱くなったけど、

『荷物』は無事ケメルクまでもってこれた。


邦人全員救出!


叫んだ途端に天井が回った。


なな!


医療班のエナが走ってきてくれて、ソッコー背中にエネルギー充填してくれてる。
撃たれて抉れていた。

息をつく。
痛いけど、痛くない(死んでる)よりはいい。
向こうで背広がおっちゃんに怒鳴られてる。


ななはな、あのこらもな、おまえの百万倍も価値があるんだぞ!!


言ってやって。
言ってやって。
七つくらい殴っちゃって。


と思った瞬間、おっちゃん、人一倍温厚なる管理官AZ90が、いきなり背広を殴りはじめた!

一発、二発、三発、四発、

なにが起きてるか、みんなわかってる。
半数の視線はあたしに来てる。
だめだめだめ。
あたし。
止めて。
能力止めて・・・止まって!!


ようやっと、おっちゃんの動きは止まった。

六発目だった。


コントロールできないと、処分だ。
あたしは力が強すぎる。
強すぎる・・・



こんなあたしを庇ってくれて、使ってくれてるおっちゃんらに、あたしは恩義と負い目がある。
だからできるだけのことを・・・

でも。

想いだけではどうにもできないことがある。
あの日がそうだった。



 想定超~なな末期 回想~


きっかけはどこかすらよくわからない。
ロス国の操作ミスとも、
メリス合国のセンサー過剰反応とも、ノースバレイラの誤発射ともいわれている。
とにかくあと四秒で世界は終わる。
あたしケネスに好きと伝えておけばよかったな・・・・・・

とそのとき。
いきなり思念があたしに触れた。


ななだいすき。


え?

めぐ美!!??

めぐ美!!??????


いま史上最強の超能力少女が、

すべてのセンサー
すべてのミサイル
すべての核弾頭を止め


そのかわり


彼女のちいさなからだは

瞬時に原子にかえった。


細胞膜で放射能すべてを包み込んで


七才のめぐ美が世界を救ったのだ。


日本の超能力防衛部隊の存在は明るみに出てしまった。
非難の声もあるが、地球救ったのだ。
何の文句がある!


めぐ美を思う。
おっちゃんに連れてこられたときは四才だった。
お名前は?と聞いたら、四本指を立てた。
うすよごれた人形抱いてた。
かわいかった・・・・・・

内側から爆発しそうな怒りがあたしのなかに生まれたが、必死に、必死に押し殺した。
めぐ美の守った世界だ。
めぐ美の守った世界だ!!!!!!!

軍拡競争はまだ終わっていない。
人はいつまでも愚かだ。
けど、この世には常にめぐ美みたいな子もいて・・・



今夕陽が沈む。


めぐ美の守った世界が眠り、


明日がまた来てしまうのだ。



そう書いて終えたはずの日記。
続きがあった。


あたしは知ってる。

この世にめぐ美はいない。

心はしっかり閉じてるに限る。

メリークリスマス。


いつの・・・クリスマス・・・?




 想い人~さみの世界~

このあとななは隊を抜けた。
もちろんあれだけの能力者だ。
大人たちがやめさせてくれるわけがない。
全大人スタッフは密命を受けた。
みつけて連れ戻せ。
拒んだら殺せ。
あれほどの能力者だ。
他国の手に渡ったら困る。


気持ちはわかる。
でも私たちだって人間なのだ。
能力あるからというだけで、国に縛られたらたまらない。
ましてや私みたい、大した力もない能力者は、任務も与えられずに飼い殺されるか指令で下手打って命を落とす、そんなところがせいぜいなのだ。
私なんかはとくに。
単なる長距離感応テレパスでしかない私は、ななの超越的な力をめちゃめちゃ羨んでいた。
ななはおっちゃん含むほとんどすべての上層部の記憶を消した。
外見も、遺伝情報操作して、身長と目の色を変えたようだ。
そんなことのできる能力者は私、なな以外に見たことがない。
このまま逃げ切って。
と、心密かに願っているのに、なな、何を思ったか、私の思念の中に入っ


でね、そのいぬったらおかしいの!


他愛なく笑い、ケネスとの、世間話に興じる私。
ああ私、ケネスとのデートの途中だった。
でもいましゃべってるのは私じゃない。
私に入ったななだ。
そうか。
なな、ケネスを・・・
しょうがないよね。
ケネスかっこいいもん。
少しの時間なら、私、ケネス、貸してあげられる・・・とおもう・・・


ところがケネスは、めっちゃ冷たい声で言ったのだ。


なな。
さみ返して。


私の口が問う。


何でわかるの。


ケネスはやっぱり冷たい声で言う。


おまえほどじゃないけど、俺もそれなりに能力者だから。


沈黙が、流れた。


だよなー。
ごめん。


ななの声で謝って、私は唐突に私に戻ったのだった。


大丈夫か、さみ。
ほんとななって最低だ。


最低だろか。
好きだけど言えなくて、ずっと見てた相手と、ちょっとだけ談笑したかっただけなのに、それって最低なのだろか。


だってきみに入ったまま捕縛されたらどうなる!
俺はあんなやつのせいできみを失うのは絶対厭だ!


強い口調に私は怯えた。
これがケネス?
誰もが憧れる私のカレ、部隊一のイケメン?
なんだかちょっと怖くなって、私はその日のデートを早々に切りあげたのだった。



あれがケネス。
ちょっと幻滅した。
さみが大事なのはいいし、理解できる。
でもだからってあの声音は・・・

ないよなあ・・・


薄ら寒い心で、あたしは街をさまよう。
行き場もなく、居場所もなく。
頼れるのはかすかに感覚がキャッチしている“印象”。
逃れの街がどこかにある、らしいこと・・・




 ななのいないスクランブル

管理官AZ90~あたしたちはおっちゃんと呼んでいた~は、かなり慌てていた。
ノースバレイラがひさびさに、ミサイルを放ったのだ。

あたしはいない。
めぐ美もいない。
ケネス、まりりん、るな、アカネ。
新人の子はパニクって逃げ、基地の外で射殺された。
(だから厭なのよ!)
私は隠れ家にいるままで、まりりんの心理に介入し、ミサイルの軌道に干渉し、どうにかこうにか海に落とした。


案じておるなら戻れ、なな
叱らんから


今一人撃ち殺してるじゃん!現実に!



と言ったまま、あたしも管理官AZ90も黙った。
あたしは記憶を消してったから、誰かがAZ90の記憶を戻したということだ。
適性的にはケネスだ。

くそー。
好きだったのに。

顔のきれいな男は、これだから信用出来ないんだ。
にしてもこれからどこへ行こう。
噂の逃れの街。
ほんとにあるなら尋ね当ててみたいけど。
なければ無駄足、あってもあたし、受け入れてもらえるんだろか。


えーい。
いざとなったらそこの住民の記憶全部いじってでも入り込んでやる!
決意が固まると度胸が据わった。
とりあえず方角。
行ってみよう。




 ケネス

また打ってる。
打ち上げだか、ミサイルだかしらんけど。
あの女がいたころは、国境を固形バリアーで覆って、弾き返したり出来たのに、どこ行ったんだか、あのバカ女。
俺に入れ込んで、さみに成り代わろうとしたり。
ゴミめ。


ななハ居ル?


不意にテレパシーが俺の意識を捉えた。
カタコト。
ノースバレイラの訛りがある。


いない
辞めた
あんたは?


辞メレルノカ!アンタノ国ハ!


ちょっとむかっとなる。


辞めれるわけないだろ!俺らみたいな仕事で!
どこの誰だおまえ
ノースバレイラか!?


シ!
せんすナイナ、オマエ
ななナラ聞カナイヨ、ソンナコト
ソンナ危ナッカシイコト
ななハイツモ最善ノ判断ヲシテクレテタ
ななサエイレバ、今コノ瞬間ニモ最善ノ選択ガデキタロウニ・・・残念ダ・・・


ううううううううう!
なななななななななななな!
どこに行ってもなな、なな、なな!かよ!
敵まで!!
俺もいるのに!
ハリソンもいるのに!
何でみんな、なななんだ!


で?
用事は何なんだ!


怒りを抑えて問いかけた頃には、相手はテレパシーを止めていた。


トレースした一奈が、音質的に、ノースバレイラのシュウか、ロス国のヴェノワだといった。
超大物じゃねーか!!
捉え逃したことをAZ999にド叱られた。
ヒステリーババーめ!
こういうのもみんな、ななの名ばかり高いからだろ!?
ムカつくうーーーーー!!



 慚愧


かの国とのテレパシー交信を切り、彼らはしばし黙りこくった。


だめだあいつら


シュウが言い、


ほんとだめだ


ヴェノワも言った。


なながいたら


ななさえいたら


俺は主席を


俺は大統領を


あとは二人して沈黙した。


俺たちに力があっても


国家には逆らえない


俺の国は飢えている


俺の国は自分らが侵略者に成り下がったことすら知らない


トップを替えたい


トップを替えたいが


誰にも気づかれないようにそれができるのは、


かの国の機関のななだけだった


だからできない


きっともう、チャンスはない


そして二人は再び黙った。
テレパシー交信は止んだ。


 新しい病


流愛(るあ)の目はとくべつだ。
ウィルスまでも見分けられる。
ジャンナのあとにニュームがきたとき、国内で、最初に気づいたのも流愛だった。

彼女ほど見えないけど、健斗もけっこう役に立つ。
彼は色で感知する。

あの人ピンク。(ジャンナだ)
あの集団サーモンピンク。(ニュームだ)

こんなメンツが国を守ってる。


だからですか。
国内の発症が少ないのは。


まあね。

曖昧に答えながら、私はななのことを思う。
なななら、見るだけでは終わらない。
その色を“殲滅”する。
病そのものがなくなる・・・


そんなパワー持ってるのはななだけだった。
めぐ美ももってたけど、もういない。
そか。
ななもいない。
AZ90のおっちゃんも転籍になった。
私たちをある程度でも理解してくれる大人は、もう、そんなにいないのだ。

そうそう。
なな。
私、ケネスと別れたよ。
あの人あなたにひがんでばかりで、人間的に全然面白くなくなっちゃった。
よく考えると、もともと面白い人でもなかった。
あなたとか、めぐ美とかに会いたいな。
本当の力。本当の勇気。
そんなことばかり考えてます。



 逃れの街


伝説の街はかなり*の方で。
長距離輸送のトラックに、姪だということにして乗せて貰ったり、家族旅行のマイカーに、いとこだとして乗せてもらいながら移動した。
家族のないあたしとしては、ちょっとあったかい旅だった。
けどその壁が見えてきたとき、そのご家族は言ったのだ。


ほんとにここでいいの?
ここは原発跡地だよ?
残留放射能ひどくて、誰も住まないって聞いてる


大丈夫だよ
ここまでありがとう
全部忘れてね


指をパチンと鳴らすと、あたしの家族経験は終わった。
去ってゆく自家用車ちょっと見送り、あたしは『壁』に分け入った。


思った通りだった。
表の高放射能は隠れ蓑で、中は完全に洗浄されつくしている。
もっと言えば壁も精神障壁で、現人類がそこに関心を持たないようにするために、視覚的に構造物化しているだけなのだ。

中は

すごかった。
地球のテクノロジーとは違う技術で形作られた市街。
懐かしい感じがするのはなぜだろう。


と。
パトカーみたいな音出す車~地上も走るが空も飛べるようだ~でやってきたのは、私より幾分年下めの、きれいな男の子だった。
かれは私に呼びかけたが、それは声ではなかった。


ななっていうの?
ここで暮らす?


天使みたいな男の子。
当たり前のようにテレパシーをつかってる。
いやパトカーみたいのが自由に使えるってこと自体ふつうじゃない。
何かの立場があるのだ。


そか
超能力戦に駆り出されてたんだね
まだ少女なのにきつかったろうね
ここでは誰も差別されないし、ふつうに暮らせるよ
ただ、自分は特別って思っていたい人には不満かもな
特別じゃなくなるから


ああ!
完全に理解されてる!
テレパシーも使えて、異文明の要素があって、超能力に嫌悪もない。
こんな場所があったんだ!
ああもっと早く部隊を逃げてれば、めぐ美をあんなふうに死なすこともなかったかもしれない・・・
涙が止まらなくなったあたしに、少年はちょっと困ったように笑んでいたのだけど、いきなり視線を高く上げた。

姉さん。
何か起きてる!
地球全体が!

テレパシーで誰か~お姉さん?すっごい美人だ~に伝えてる。

戦争が、やめられない星を滅ぼす機械?
自称『正義の女神』?

テレパスどうしのコミュニケーションの簡単さは、表現のしようがない。
私も見た。
それは女性の姿をしたエネルギー中継ステーションで、ロス国を先ほど滅ぼした。
そしていま、そのエネルギーはこの国をも取り込もうとしているのだった。
少年は、あたしを振り向いた。

詳しい話はあとだ。
ここは境界線だから危険だ。
もっとシティーの奥へ

言葉は止まった。
あたしがいなかったからだ。
あたしはテレポートして、次の瞬間懐かしの、部隊のオペレーションルームにいたのだった。


 最後にできること

何があった!


突然現れたあたしを、誰何した人はいなかった。
ケネスやハリソンすら、頼りたげにあたしを見てる。


なな!


なななな!


懐かしいちびちゃんたちがあたしを取り囲む。
さみもエナも双子ちゃんもいる。


管理官は


逃げた
AZ90ならきっと逃げてない
999は真っ先に逃げた
AZ90なら


呼んだか?


おっちゃん!!


みんなの顔が一瞬輝く。
おっちゃんのばか。
逃げていいのに・・・


ロス国が消えた
ノースバレイラも
何が起きてるのか皆目わからんが国境線沿いに各国が消滅し続けておる
なな
事情がわかってるようだな
説明できるか


できるけど。
今更何ができるというのか。
数発のミサイルなら、めぐ美の手法が使えただろう。
でも、相手は『正義の女神』で、全地球規模での人類滅亡を決めたのだ。

ならば。

この瞬間に私の行動は決まった。


さみ
私のテレポート航跡を遡って!
ケネス、ハリソン、双子ちゃんはここにいる全員をさみの言うコースに委ねて!
おっちゃんもちゃんと連れてくのよ!


ななは!?


あたしにはやることがある


言い切ったあとはそのことに専心した。


みんなはあの街で新しく生き直して
あたしはせめて、この世界をすべて眠らせたげる
眠ったまま逝くなら、きっと誰も恐くな



ななの示した先に、逃れの街があった。
人口60万の地方都市。
超能力持つ者と持たざる者が共存する場所。
全員は連れて行けないその街に、

結局ななはこなかった。

ななはひとり、地球というゆりかごを揺することを選んだ。
そうして人類は永遠の眠りについた。





それでも地球は回っている