私本義経 平泉

秀衡様には歓待された。
既に齢五十をいくつか超えていらしたが、まだまだ矍鑠とされており、私が連れてきた金商人にも優しい眼差しを投げてくれた。

金商人か。
金は平泉の特産物でもある。
これを縁に、私を訪ねるがよい。

北方一の大物~と聞いている~に親しく声かけられて、金売吉次はめちゃめちゃ恐縮しているていだった。
弁慶のことはとみると、なにやら祖父とか路傍の好々爺のように、にこにこにこにこ見ている。

大きいな。
いかついな。

そつのないだけの申しようだが、不思議と厭みはない。

弁慶、何かお気になりますか?

いや別に。

飄々とされておる。
ただこれは言われた。

これから郎党、家臣、増えていくだろう。
その際、弁慶殿のお立ち位置ははたしてどちらかな。

にっこり言い置いて去るご老人の背(せな)を、私はただじっと見送ったのだった。


弁慶。
腕の立つ。
豪快な。
異形の。
私を主と慕ってくれる。
だがそれは、永遠か?
栄達が?
野心が?
遅れてきた信仰心が、私から去らせることはないのだろうか。

馬鹿な考え休むに似たりですぜ。

不意に現れた吉次が、私に声をかけてきた。

たれが裏切るたれが去る。
その場にならなきゃわからんことや。
ただね、義経様。
俺が思うにあの御仁は、よっぽどのことがなきゃあんたを捨てん。
いや。
よっぽどのことがあってもだめや思うね。

なぜそう思う。

金商人の観相、ですわ。
儂等金商人は価値の高いものを商っとる上にブツは重い。
力の強い者が裏切れば、こんな命なんか吹いて飛ぶんや。
そんな儂等は人を見れんかったら生き抜いてゆけんのですよ。

なるほどそういうものか。

そんな金売りが言うとるんや。
ちょっとは信を置いたってや。

そう言って、にんまり笑って、吉次は平泉を後にした。

それでも地球は回っている