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ヒラサワをすこれ

※これはTLのオタク Advent Calendar 2017の12日目の記事です!

 平沢進。知らない方は多いであろう、しかしだからこそ是非とも知っていただきたい。この年でいうことではないかもしれないが、私にとってこれまでで一番衝撃を受けたといっても過言ではない人物である。このつたない文章で少しでも、彼(彼と呼称するのもおこがましいほどだ)に対して興味を持っていただけたら幸いである。

 そもそも平沢進とは何者なのか?ひとことでいえば「アーティスト」である。これは個人的に譲れないことで、ミュージシャンではなくアーティストである。なぜならば、彼は自身の中に構築された価値観や世界観に裏打ちされた、唯一無二の音楽を創りあげている。さらに、自分で曲に合わせたミュージックビデオまでも創っている(曲以上に彼の頭の中がそのまま出力されているようで未だに理解が及ばないものも多いが)。これらのことは「ミュージシャン」の範疇におさまるものとは私には思えない。むしろ、ひとつの芸術であるとすらいえる。よって、彼に対する認識は「アーティスト」である。彼の詳細なプロフィールは公式サイトhttp://noroom.chaosunion.com/modules/artist/hirasawa.html を参照していただきたい。

 それではなぜ私がここまで平沢進という人物に惹かれるのかということについて述べていく。
 平沢進の魅力、それは(繰り返しになるが)なんといっても圧倒的な世界観による時代を感じさせない音楽である。ここでいう「時代を感じさせない」とは単に曲が発表された時期と曲が乖離しているということではなく、そもそも「発表されたのがn年前なのに古く聴こえない」というような、「時代」という概念を前提とした表現を許さないということである。彼自身の独特な世界観は、「時代」などというものには決して縛られないように私には思える。またそうした独特さゆえに、曲に自分が共感してその曲を好きになるというよりも、曲の方が自分の中に入り込んでくるような感覚がある。
 私はニコニコ動画にあったとある動画のBGM に使用されていた「パレード」で初めて彼の曲を知ったが、その時の衝撃は忘れがたい。平沢進の曲を聴くにあたって、初めに是非聴いていただきたい曲のひとつである。
  そして、そんな音楽づくりに反して、人柄は謎が多いながらも非常に愛嬌がある。ていうか可愛い。詳しくは彼のTwitter(後述する)を見てみればお分かりいただけるかと思う。

 さて、ひとくちに平沢進といっても時期によって活動形態が異なっている。
プログレッシヴ・ロック・バンドであったマンドレイクからP-MODELへ、そしてP-MODELの活動休止からソロ活動へと移行している。だがソロ活動と並行して核P-MODELという実質的なP-MODEL(ただしソロである)としての活動も行っている。当然それぞれの活動における音楽的な方向性は異なっているが、根底にあるものは同じである(ちなみに、P-MODELは「けいおん!」のキャラクターの元ネタである。キャラクターの苗字と担当楽器が当時のP-MODELメンバーと一致しているため、気になる方は調べてみてほしい)。私の場合はまずソロ曲から好きになり、それからP-MODEL→マンドレイクと知っていった。つまり遡っていったわけである。もちろんこれは私個人の経験であるため参考にする必要などないが、時代を遡っているにもかかわらずそんな感想をもたなかったことに非常に面白さを感じていた。

 長々と抽象的な話が続いてしまったので、具体的な曲(リリースされているアルバム)について書いていきたいと思う。ここからは曲のおすすめというよりも曲に対する私の感想のようなものになるので、それを読んで興味を持ったものから気軽に聴いていただきたい。が、個人的にはやはり平沢進ソロから聴いていただきたいため、ソロ作品から紹介していく。

(1)ソロ作品
 第1作は1989年リリースの『時空の水』であり、2017年現在ソロアルバムは13作発表されている(最新作は2015年リリースの『ホログラムを登る男』)。それぞれのアルバムで(難解ではあるが)独自のストーリーが展開されており、ブックレットとともに曲を楽しめる。そのため、平沢進の曲を聴いてみたいと思った際には、ぜひともCDを借りてほしい。他のアーティストの作品でもいえると思うが、曲単体だけでなくその曲が収録されているアルバムそれ自体が一つの作品である。ブックレットとともに曲を聴くと、自分が自身では理解の及びもつかないような世界に放り込まれたような感覚におちいる。たとえそうでなくてもぜひ感性をとぎすませて聴いていただきたい。しかしそうはいっても、ソロ作品だけで13作も存在するとなると「いったいどのアルバムから聴いたらいいかわからない!」という方が多いであろうと思われる。
 そこでおすすめしたいのが、1998年リリースの第7作『救済の技法』と2003年リリースの第9作『BLUE LIMBO』である。前者はアルバム名からしてかなり胡散臭いように思えるかもしれないが、個人的に名盤中の名盤だと考えている。曲調が昼→夜をくり返すような緩急のついた構成であり、通しで聴いても飽きずに楽しめる。とくに3曲目の「庭師KING」は非常におすすめである。『救済の技法』は7作目ながらかなり入門的なアルバムという雰囲気を強く感じているため、臆せず聴いてみていただきたい。一方で、もうひとつのおすすめである『BLUE LIMBO』は時期的な問題もあってかなり直接的なメッセージ性が強く、他のソロ作品の曲と比較すると「理解の及びもつかない世界に取り残される感覚」よりも「現実世界のおぞましい面を目の当たりにしている感覚」を強く感じる。これは後述する核P-MODELのアルバム『ビストロン』(2004年)にも通じる。構成については『救済の技法』よりも長いスパンでの緩急がついており、何曲か鬱々とした雰囲気のものが続いてから目の前が一気に開けるような雰囲気をまとった曲が現れるのは一種の感動すらおぼえる。とくに5曲目の「帆船108」は爽やかな電子音のうねりが楽しめる。
 また、私が平沢進を知るきっかけになった運命の曲ともいえる「パレード」は2006年リリースの第10作『白虎野』に収録されている。今敏監督作品のアニメ映画『パプリカ』でお聴きになったことがある方もいるかもしれない。なお、『パプリカ』で流れる「白虎野の娘」は『白虎野』に収録されている同名の曲とは歌詞の一部とアレンジが異なるため、聴き比べてみると楽しい。
 2つの作品とも、最後の曲が聴き手にそれぞれの世界の余韻を感じさせるものになっており、通しで聴き終わったあとにもう一度初めから聴きなおしたいと思わせるすばらしい作品である。そしてぜひ、ここにあげた2作品以外も例外なくすばらしい作品なので聴いていただきたい。

(2)P-MODEL
 P-MODELはボーカル&ギターを務める平沢進以外のメンバーが頻繁に入れ替わっていたバンドである。それゆえに時期ごとに作風がP-MODELのなかでも若干異なっている。さらに、P-MODELの活動時期が1980年代~90年代であったため、とくに初期の作品が手に入りにくくなっていることが悔やまれる。第1作は1979年リリースの『IN A MODEL ROOM』であり、「培養」と称した活動休止までに12作品を発表している。
 とにかく入手しづらくなっている作品の存在が大変残念だが(プレミアがついている作品まで存在する)、初期作品は入手しづらいのが納得できるほど良曲ぞろいなのでぜひぜひ聴いていただきたい。ここでは、私が所持している中期・後期P-MODEL(前者は『解凍』、後者は『改訂』とよばれている)の作品のなかでおすすめの作品と曲を紹介する。
 まず、解凍期のP-MODEL作品のなかでのおすすめは1993年リリースの『big body』である。これぞテクノという感じの電子音の奔流に圧倒される。なかでも「幼形成熟BOX」は平沢進の作曲ではないが、P-MODELらしさが前面に出たいい意味でカオスな曲である。この作品のなかのおすすめの収録曲は、前述したものに加えて「LAB=01」を挙げたい。こちらも平沢進の作曲ではないうえに短い曲であるが、左右に違うメロディが振り分けられているという面白い構造をとっているので、ぜひイヤホンもしくはヘッドホンで聴いていただきたい。
 改訂期のおすすめは1997年リリースの『電子悲劇/~ENOLA』である。1曲目から出し惜しみせず全力で聴き手に世界観を訴えかけているような印象をもつ、非常に聴きごたえのあるアルバムである。おすすめの曲は7曲目の「LAYER-GREEN」である。この曲は、聴き入っていると思わず涙しかけてしまうほどメロディが美しく、それにぴったり合った雰囲気の電子音が曲の完成度を高めている。また、最後の曲「A Strange Fruit」は不気味なほど爽やかなインストゥルメンタルであり(Yellow Magic Orchestraを彷彿とさせる)、一気に現実へ戻ってこさせられるような気分になって非常に面白い曲である。
 ソロ作品は公式サイトの記述を借りれば「無国籍風サウンド」であり、慣れない人には異質な奇妙な曲に聴こえるかもしれないが、P-MODELの曲は「テクノポップ」な曲調が多いためそうした電子音を聴きなれた人にとっては馴染みやすいものであろう。「難しそう」などと思わず、軽い気持ちで聴いていただきたいと思う。

(3)核P-MODEL
 「培養」と称したP-MODELの活動休止後、平沢進ひとりで再開され、現在も断続的になされているP-MODELのソロ活動である。現在『ビストロン』(2004年)、『гипноза (Gipnoza)』(2013年)の2作品が発表されている。私はまだ前者しか聴いたことがないので、ここからはそれについて述べる。
 ソロ作品の項目で説明したように、『ビストロン』に収録されている曲に対しては「現実世界のおぞましい面を目の当たりにしている感覚」をおぼえることが多い。具体的には、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』をモチーフにした「Big Brother」や、タイトルからして露骨な「崇めよ我はTVなり」(!)といった曲があげられる。ただ、ソロ作品とは異なりあくまでもP-MODELの一部であるため音楽は主に電子音で構成されており、ソロ作品の重層的な音楽と比較すると軽い雰囲気で聴ける(あくまでも相対的にとらえたものなのでそこまで軽いわけでもない)。
 しかし、このアルバムでの私のおすすめは最後の曲「アンチモネシア」である。この曲を聴いたときには、1曲目から容赦なくまくしたてるように続いた電子音が、ほとんど休憩もなく疾走していった先にひとつの終着点にたどり着いたような印象をもった。静かな曲であるが、なんともいえないもの悲しさをまとっていると同時に、それまでの曲を聴いて積み重なっていったごちゃごちゃした感覚が浄化されていくようであり、非常にさっぱりした気分で聴き終えることができる。短めの曲が多く通しで聴くのにそれほど時間がかからないため、ぜひ気軽に聴いていただきたい作品である。
 『гипноза (Gipnoza)』はまだ聴けていないので、自分でも一刻も早く聴きたいと考えているし、ぜひ聴いていただきたい。

(4)マンドレイク
 具体的な紹介の最後になるが、マンドレイクは時系列的には平沢進自身の活動における最初期のものであり、1973~78年に活動していたプログレッシヴ・ロック・バンドである。作品の入手が難しく、私が知っているなかでは中野にあるメカノ(後述する)くらいでしか見たことがない。プログレということでかなり好みが分かれると考えられるが、初期P-MODELを先に聴いていればいくらかは馴染みやすいと思われる(個人の感想であるが)。おすすめの曲があげられるほど聴き込めていないので、この程度の説明にとどめる。


 非常に長くなったが、これで具体的な紹介を終える。これでもできる限りかいつまんで説明したつもりなので、それだけ彼が現在に至るまで多くの作品を発表してきたことがうかがえるだろう。

 ここまで読んできたなかで、平沢進というアーティストは非常に浮世離れしていて近寄りがたいと感じた方も少なくないかもしれない。しかし、決してそんなことはない。むしろ愛嬌のあるお方である(2回目)。ヘッダー画像から分かるように、彼はTwitterのアカウントを運営しているので、興味のある方は覗いてみるといいかもしれない。本人は自身をステルスメジャー(要するにマイナー)であると称しているが、フォロワーが10万人以上いる時点でそれはあてはまらないと私は思っている。もちろん私もフォローしているので、これから先いいねやRTで彼のツイートが回ってきたらそういうことだと思っていただけると幸いである。
 また、さきほど述べたメカノについて軽く説明する。メカノというのは中野ブロードウェイ(中野駅北口から出てすぐ近く)にある「Shop Mecano」というCDやレコードなどを扱うセレクトショップのことである。詳しくはhttp://shopmecano.com/index.htmlを参照してほしい。確かに平沢進作品をAmazonなどで購入できることはできるが、中野まで行ける余裕がある方はぜひ足を運んでみてほしい。平沢進の作品だけでなく、他のCDショップなどではまずお目にかかれないようなジャンルの音楽作品が並んでいるので、見るだけでも楽しいお店である。


 こうした機会でもないと趣味が語れないので、詰め込めるだけ詰め込もうと欲張ってしまったことを反省しなければ、と当初は考えていたが、書き上げた文章を見れば見るほど加筆したいという欲があふれてしまってしょうがなかった。本当は私が聴いたことのあるアルバムひとつひとつについておすすめの曲をあげたかったくらいなのだが、さすがに冗長になりすぎるため割愛した。もっと聞きたいという方は直接リアクションしていただけると幸いである。
 この長い文章で私が伝えたかったことはただひとつ、タイトルにもあるように「ヒラサワをすこれ」である。この文章の初めには「興味を持ってほしい」と書いたが、私の蓄えていた情報と少ない語彙力を駆使して書き上げたので、それに加えて少しでも、平沢進の作品と人柄双方に魅力を感じていただければこれ以上のことはない。
 なお、この文章は正確を期すために、年号について平沢進公式サイトhttp://noroom.chaosunion.com/modules/artist/hirasawa.html を参考にしながら執筆した。

 まだまだ書き足りないことはあるが、このあたりで筆をおきたいと思う。こうして記事を書く機会を作ってくださった方、またここまで読んでくださった方々に心から感謝を申し上げる。

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