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アメリカの大学で教えてみないか(15):仕事と家庭の両立について

仕事をしすぎると家庭生活がおろそかになります。今回はこの辺をどうやって両立させるかについて書いてみます。

ってのは、前々回書いた「変な院生」、もとい、「行動力のある」カナさんからのリクエストがあったし、家族社会学者としてはこの問題は書かない訳には行きませんよね。

大学院にいる間、そして教職についてからも、留学生もしくは海外出身の教員で、独身ならば(自分の拡大家族が身近にいないので)、「両立」問題はほぼ発生しません。ただし、結婚、あるいは子どもができるとこの問題は大きくのしかかります。

僕の個人的な話をすれば、いろんな面でラッキーでした。大学院に留学した時にはすでに結婚してましたが、長男が生まれたのが留学5年目に入ってすぐ。6年で卒業後、就職してから1年半経って次男が生まれました。

奥さんは当時住んでたシアトルで大学に行ってたこともあって、長男が生まれて3ヶ月は休学して面倒を見ましたが、その後は僕が研究室に毎日連れて行きました。当時は研究助手(research assistant)として働いていましたが、「通勤」は院生用のアパートから歩いて5分もかからない。雨でも降らない限りはバギーに乗せてのんびりと研究所に向かいます。

大きな研究所の一室がオフィスでしたが、そこにベビーベッドを置き、「ハイハイ」を始めた頃にはベビーサークルを持ち込みました。活発にハイハイをするようになるとさすがに退屈しちゃって無理になったので、生後9ヶ月まで、6ヶ月で僕の「子連れ出勤」は終わりました。

長男が飽きてぐずりだすと、研究所の入り口の石段のところに連れ出してお守りをしました。通りがかりの男性が、「オレも子育てしたくて、ボーイング辞めたんだぜ」って話しかけて来たり。ボーイング社はマイクロソフトができる前は、シアトル1の大企業でした。

「子連れ出勤」を辞めてからは僕と奥さんで半分ずつ面倒を見ました。保育園にも入れました。その頃までには、博士論文用の分析もほとんど終わっていたので、その点もラッキーでした。ルイジアナに引っ越す時にも、最初に探したのは家ではなくて保育園(Daycare=デイケア)でした。長男は手がかかったので、当時は仕事をしていなかったとは言え、奥さんが家で一人で面倒を見るのは無理っていう合意がありましたw。

さて、僕が女性だったらどうでしょう。

博士論文を仕上げて、全米の何か所にも面接に行って、仕事がもらえたらテニュアを取るべく、論文執筆に集中する。シングルマザーだったりしたらちょっと考えただけでもきつい。例のカナさんも決まったパートナーがいましたが、ずっと別居だったので、大変だったと思います。シアトルで一緒だった院生の女性もシングルマザーでした。赤ん坊をおぶって授業を教えてたこともありました。

別の院生の男性はやはり研究室に赤ん坊を連れて来てましたが、授業の間は学部のスタッフに預かってもらってました。この辺を気楽に頼めるかどうかってのはジェンダーの非対称性のなせる業かなと思ったのを覚えてます。

子どもを産めるのは女性だけなので、結婚、もしくは同棲してない限り、あるいはゲイのカップルでない限り、子育ての負担は女性が負うことになってしまうのが人間社会。

皇帝ペンギンのオスはメスが栄養をつけて海岸から戻ってくるまで、絶食状態で2ヶ月も卵を温め、さらには食道から出る「ペンギンミルク」と呼ばれる分泌物をヒナに与えます。つまり、「産む」ことと「育てる」ことは必ずしもセットである必要はありません。

ただし、人間の場合は、ジェンダー規範の刷り込みや、男女の収入差のせいで、男性(主には父親)が「ずる」をします。つまり、「家事や育児は女性のもの」ということにして(あるいは疑いもせず)、社会や家族を「構成」します。

その結果はと言えば、配偶者、もしくは同棲相手が意図的に家事と子育てを半分以上請け負わない限り、女性(母親)はハンディキャップを課されてしまうことになります。

シアトル時代の女性教授が女性の院生に「子どもを産むのはテニュアを取ってからにした方がいいよ」って言ってましたが、同じことを男性に言うはずがないので、これは明らかに不平等ですよね。

この、生物学的にビルトインされた、もしくは男性の「都合のいい解釈」による男女間の不平等を解消するのは、今のところ、パートナー/配偶者、もしくは社会的なサポートです。男性であれ女性であれ、パートナー/配偶者が家事と子育てを担えば母親のハンディキャップは解消されますが、いかにも他力本願です。

大学院生に対してデイケア利用料の補助が出る大学もありますが、そうでもないと日本のように「認可制度」や公的補助がないので、結構高額になります。デイケアに入れたとしても、家に帰れば子育てが待っている現実は変わりません。

なんか、袋小路に入り込んじゃいました。

子どもが大きくなってからでも、学校行事や友人関係(子どもを友達と遊ばせるのに送り迎えが必要なことも多いです)、お稽古事、スポーツクラブなど、親としての負担は大きなものがあります。

僕は時間が自由になること、子どもが幼稚園から僕が教えてる大学の附属校に通っていたこと、どちらも男の子だったこともあって、この手の送り迎えをほぼ全て担当してました。PTAもほとんど僕。もちろん奥さんは家のことやら病気の時やらで多分僕と同じくらいの負担でした。

で、僕は特に仕事と家庭の両立で苦労したっていう経験はないです。まあ、子育てをバリバリやってた頃(特に次男の野球で全米を飛び回ってた頃)はさすがに研究のスピードが落ちて、教授昇進が遅れましたが、僕の男性の同僚も同じ問題で昇進が遅れました。これは僕が女性でもあまり変わらなかったと思います。

つまりは、(親きょうだいは海外にいるので)拡大家族に頼れず、社会全体で子育ての負担を軽減してくれない限り、解決法は一つしかない。「パートナーが半分、もしくはそれ以上貢献すること」です。「それが簡単に行けば苦労はしない」っていう批判を覚悟の上で、論理的にはこれしかないんです。

子どもを持たない場合より仕事との両立は大変になりますが、これを1人ではなく2人で負担して少しでも楽になるようにする。この点に関しては、日本よりアメリカの方が環境はいいかも。ってのは、日本の男がだらしないから。あとは残業やら(首都圏は特に)長い通勤時間やらで、日本の社会そのものが「男女で家事・育児を分担する」っていう構造になっていないこともその理由ですね。

このバリエーションとして、「シェアハウスのような形態で子育てを共有する」ってのがありますが、ロマンティックな関係にないと(あってもそうですけど)、どうしても不平等感に苛まれることになるようです。

カナさん、申し訳ないです。解決策ってないわ。

見出し画像:ハロウィーンのコスチュームはグループでテーマがあると目立ちます。これはピーターパン(長男)がキャプテンフック(僕)、ウェンディ(奥さん)、ティンカーベル(次男)と一緒にいるところ。結構インパクトありましたw。


人とは違う視点からの景色を提供できたら、って思ってます。