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第29章 「人はなぜ疑問を持つのか」

超久しぶりの更新です。

書きたいことはあるんですが、間違いのないようにちゃんと調べて書こうとすると筆が止まりますねえ…。

さて、今回はわりと気軽に普段思っていることを書こうと思います。

ヒトが疑問を抱くメカニズムについてです。

1. 子供は純粋?

もうかれこれ15年以上前の話ですが、私がまだ大学生だったころ、後輩とこんな話をしたことがあります。

後輩「なんでアイツら、ちゃんとやらんのですかね?」

私「その『なんで?』は純粋な疑問?」

後輩「・・・どういうことですか?」

私「『なんで?』には2種類あるやろ。純粋に理由を知りたい『なんで?』と、自分の思い通りにならないことに対する怒りの『なんで?』があるやん」

後輩「その観点はなかったです。」

私「大人になると、だいたい後者になるよね。子供のころは純粋に『なんで?』と思ってたのが、だんだん常識とか価値観が固まってくると、自分の常識に反することに怒る『なんで?』が増える。こういう『なんで?』は実際は純粋に理由が知りたいわけではないよね。」

後輩「たしかにそうかも。」

私「純粋に理由を知ろうと思えば、おのずと怒りの感情もわきづらいんちゃうかな。」

後輩「そうかもしれないです。アイツら、なんでちゃんとやらんのやろ?アイツらなりの理由があるんやろか・・・」

このときの私、すごくわかってる感じで調子にのってますよね。

ぶっちゃけ、間違ってました。

大人も子供も、「なんで?」の正体は「不安」や「とまどい」、「怒り」の類なんですよ。

それが疑問の正体です。

そういう意味で、疑問には純粋もなにもありません。

2. 直感に反するもの

ヒトがなにかを疑問に思うのは、自分の直感に反したときです。

直感とはすなわち、知識や経験、常識や価値観からくる予測です。

さきほど、「子供の疑問は純粋」という話がでてきましたが、子供でもメカニズムは同じです。

子供の中で形成された常識に反することが起きたときに疑問を感じ、「なんで?」と聞くのです。

ひとつ具体例をあげると、子供のときにガス風船が浮くことに疑問を抱いたことはありませんか?

一方で、ものが下に向かって落ちることに疑問を抱く人はいませんよね。

地球上で生活するかぎり、ものは自然と下に向かって落ちます。

これは私たちが物心ついたころから目の前で起きる当たり前の光景です。

ものは落ちて当たり前。

ヒトは、日常的に目の前で起きていることには疑問は感じません。

だから、その常識に反する浮くものに疑問を抱くのです。

「なんで?」と。

マジシャンのマジックを見たときにも、「え?なんでなん?」と思いますよね。

「なんで?」と思うのは、おかしいからです。

直感に反したとき、はじめて人は思考をめぐらせると言ってもよいでしょう。

3. ニュートンの話

さて、ものが下に落ちるという話をすると、ニュートンを思い浮かべる人がいるかもしれません。

ニュートンは「リンゴが木から落ちるのを見て重力を発見した」なんて言われることがあります。

そう教えられた人もいるでしょう。

これはウソです。

ニュートンが発見したのは万有引力であって、重力ではありません。

ちょっとその話をしてみましょう。

大阪に大阪市立科学館という施設があります。

海遊館と並んで有名なデートスポットですね。

大阪で育った私は、小学校の社会見学(だったはず)ではじめてここを訪れました。

この施設の一角に、椅子に腰かけたニュートンの像がありました。

そのニュートンの像のとなりのスペースが空いていて、座ることができたのでなんの気なしに座ったのですが

像が突然しゃべりだしました!

リンゴは木から落ちるのに、月はなぜ落ちてこないのだろう?

小学生の私は、急に像がしゃべりだしたことにもビックリしましたが、もう一つ、台詞の内容にもビックリしました。

聞いてたんと違うと。

私は「リンゴが木から落ちるのを見て重力を発見した」と聞いていたので

「なんかちゃうこと言うてるやん!」

という感想を抱きました。

皆さん、「なんで月は落ちてこないんだろう?」なんて疑問に思ったことはありますか?

普通に考えて頭おかしいですよね。

「さすがに天才は違うな―」と思うかもしれません。

でも、実はそうでもないんです。

上記の台詞を実際にニュートンが言ったかどうかは知りませんが、こういう疑問を抱くことは、そこまで突飛なことではなかったのです。

なぜかというと、ニュートンの時代には、すでに次のことがわかっていました。

・地球は球体である

・地球上の物体は地球の中心に向かって引っ張られている(重力の存在)

・月は地球よりも小さい球体で、地球から離れたところに浮かんでいる

この3つの知識を合わせると、

「じゃあ、なんで月は地球に向かって落ちてこないの?」

という疑問を抱くのはむしろ自然だと思います。

月が落ちてこない理由は、一般の人にもわかりやすいように簡単に言えば、遠心力(慣性力)のおかげです。

月も他の物体と同じように地球に引っ張られているんですが、地球の周りをぐるぐると回転しているので、遠心力のおかげで落ちてこないわけですね。

人工衛星が落ちてこないのも同じ理屈です。

さらに細かい話は今回は割愛するので、興味がある人は自分で調べてみてください。

重要なことは、ニュートンは「すべての質量をもつ物体は互いに引きあっていること(万有引力の法則)」を発見したということです。

地球の重力もこれで説明ができます。

なぜこんな発見ができたのか、ニュートンはフランスの哲学者の言葉を引用して、友人宛の手紙にこんな内容の文章を残してます。

If I have seen further it is by standing on yᵉ sholders of Giants. 

「私が人より遠くを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからです。(意訳)」

先人たちが明らかにしてくれた知識のおかげだと言っているわけですね。

学問的知識があったからこそ生まれた疑問ということです。

4. 常識を疑う難しさ

研究の世界ではよく「常識を疑え」といわれます。

これを聞くと、「常識を疑うことは大切なんやな」と思うかもしれません。

でも、実は本質はそこではありません。

これは、「常識を疑うことの難しさ」に対する警鐘なのです。

ヒトは基本的に常識を疑うことなんてできません。

だって常識なんだもの。

常識を疑うことができるのは、直感(常識)に反することが起きたときです。

日々実験をしていると

「あれ?思ってたんとちがう・・・」

となることがあります。

こういう直感と反する結果を、つい黙殺しがちです。

こういう疑問を突き詰めることで、あらたな発見が生まれたりするわけです。

思っていたのと違う結果になったときは考えるチャンスです。

これはなにも研究に限った話ではないですよね。

おそらくはどんな分野でもそうでしょう。

よくスポーツなんかで「敗北から学べることは多い」なんて言われますが、これには条件があります。

最初から負けると思って試合にのぞんで負けた人は、「当然のこと」として特に何も考えませんよね。

「あー、やっぱ負けたかー。」

と思うだけ。

こういう負けは得るものがありません。

本気で勝利を目指して準備してきた人は、敗北は「思っていた結果と違う」ので「なんで?」と思えるし、敗因についてしっかり考えますから、得るものも多いわけです。

人間は自分が当たり前と思う結果からは基本的に何も学べません。

5. 学者は変人が多い?

いわゆる学者肌の人というのは、世の中では「変人」として扱われることが多いですよね。

実際に、一般の人が疑問に思わないようなことについてあれこれ考えるので、はた目には凄く変な人です。

でも、これは上で述べてきた通り、実は普通のことです。

研究の世界に飛び込んでみるとわかりますが、驚くほど普通の人が多いです。

変に見えるのは、その人の専門分野での知識が一般人とはかけ離れているからです。

つまり、持っている常識が違うので、疑問に思うポイントも違います。

一般の人が当たり前と思っていることが、専門家にとっては不思議だったり、逆に一般人が不思議と思うことが専門家にとっては普通のことだったりするので、結果的にズレちゃうんですね。

変人(とされる人)が変なところで疑問を持つのも、一般人が常識的な疑問を持つのも、本質的なメカニズムは同じです。

「あれ?直感と違うな―」です。

天才とされるニュートンもアインシュタインも、過去の学問の積み重ねがなければ、あんな突拍子もないことは思いつかなかったはずです。

最後に

なにか疑問に思ったことについて考えるときに注意すべきは、自分が常識だと思っていたことが、実はすでに学問的に否定されている場合があることです。

自分が常識なかっただけ、なんてことがあります。

常識を疑うには、まずは基本的な知識が必要なんですね。

やっぱり学問って面白い。

以上です。

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