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第28章 「暗記は悪か」

久しぶりの更新です。

今回は、学問において暗記は悪かどうかのお話です。

1. 暗記しなくてもいける?

最近のタイムラインでこんなのが流れてきました。

とにかく、何も考えずにまず公式を暗記せえと。

案の定、炎上しております。

さて、まずは私の個人的な能力の話をしますと

私は暗記が死ぬほど嫌いです。

というか、そもそもかなり苦手で、人並みにできません。

どれぐらい苦手かというと、小学校の2年生でやる九九の暗唱は結局クリアできませんでした。

未だに暗唱はできません。

英単語の一週間とか、12ヶ月の綴りは未だに怪しいです。

そんなレベルで、大学教員とか大丈夫なん?

と思われるかもしれませんが、ぶっちゃけ九九の暗唱なんてできなくても掛け算はできるし、英単語の綴りの記憶があいまいでも、読めたらなんとかなります。

そんな暗記大嫌いな私が断言しましょう。

暗記は悪ではない。

なんでやねんと。

まあ、聞いてください。

「数学は公式をとにかく暗記しろ!」

「数学は暗記で解ける!」

とか言う人おるやん?

それに対して、真面目に反論する人おるやん?

「丸暗記なんて意味ない!」

「ちゃんと理解すれば暗記なんて必要ない!」

この意見、しょうもないよね。

何を当たり前の話を偉そうに・・・

って思いません?

私事で恐縮ですが

数学の二次方程式の解の公式ってあるじゃないですか?

あれ、私は覚えてなかったんですよ。

正確に言うと、ぼんやりとしか覚えていませんでした。

暗記嫌いやから。

テストで必要になったら、毎回導出してたんですよ。

三角関数の公式なんかも全部そうです。

これ、別に自慢とかじゃなくて、アホですよね。

それぐらい覚えとけよと。

そんなレベルで一応、約20年前に一浪で京都大学の工学部に受かりました。(これは自慢ととってもらってOKです。ええ年したオッサンがこんなこと自慢してもダサいだけですが・・・)

世間的には一流って言われてる大学の理系学部に合格してるわけですから、やっぱり暗記はいらんやん。

という話になりますが、実はそんなことないんですよね。

だって、私が公式を自分で導出できるようになったのは「暗記しろ」と言われたからなんです。

ちょっとわけわかんないと思うので、順を追って説明します。

2. 結局は興味がすべて

暗記を否定する意見の人がよく言うのは

「暗記させるより、ちゃんと理屈を説明して理解させる方が大事」

とか

「すぐに暗記させようとするのは教師の怠慢」

とかいう意見です。

もっともらしく聞こえるんですが、個人的には、あんまり正しくないと思うんですよね。

ちゃんと理解している状態を仮に10としたとき

わけもわからず暗記してる状態は、1か2ぐらいです。

理解してる状態とは程遠いですよね。

それに対して、教師が懇切丁寧に説明して、生徒が「なるほど!そういうことか!」となっている状態は0~3ぐらいです。

というか、あえて言いますが、多くの場合は0です。

いやいやいや

なんでやねん。

となるかもしれませんけどね、実際そうなんですよ。

わかりやすく説明してもらって、理解した気になってる状態ってのは、一番いけてないんです。

なぜなら、自分の頭で考えてないから。

授業をやった経験のある人なら、だいたいわかると思うんですが、丁寧に説明して、実際にその場でちゃんと理解して、問題も解けるようになってたのに、翌日になったらすっかり忘れてできなくなってる子っていますよね。

これが「理解した気になってる状態」です。

もちろん、翌日以降もちゃんと忘れてなくて、ちゃんと成長していく子もいます。

そういう子は、普段から色んなことに疑問を持って、自発的にものを考えてる子です。

完全に個人の力の差です。

だから、「ちゃんと説明すればわかってもらえる」というのは、教師の傲慢でしかないんですよね。

説明してわかってくれるのは、教師の努力や能力のおかげじゃなくて、生徒個人の能力がほぼ10割です。

当たり前ですが、教師に能力がいらないとか努力が無駄だとかいう意味ではないですよ。

しっかりと身につくかどうか、というのは「自分の頭で考えたか」と「反復量」で決まります。

説明されてわかった気になっている状態の何が一番マズいのかというと、そこで満足してしまって、あまり自分で考えなくなるからなんですよ。

だから、結果として何も残らず、わかったつもりになったことも忘却のかなたです。

それなら公式を丸暗記してるだけの方がまだマシなレベルです。

教育というのは、教えるのが正しいのか、教えないのが正しいのか、非常に難しい部分があります。

だから、ちゃんと教えない怠慢な態度の方が教育上有効な場合もあるんです。

「考える」のと「反復する」ことの重要度の割合で言うと8:2ぐらいですかね。

考えることの方が重要ですが、反復がゼロだとさすがに身につきません。

どっちも大事です。

で、「考えること」と「反復すること」のモチベーションになるのは「興味」です。

誰だって、興味のないことについて考えようとはしないし、反復しようとも思わないですよね。

3. 興味の源泉

何に興味を持つのか、というのは本当に人それぞれで、色んなパターンがあると思います。

でも、かなり高確率で興味を持てるものというのがあります。

「身近なもの」です。

そして、何かを身近なものとするのに手っ取り早い方法の1つが暗記です。

育児をしたことがある人はわかると思うんですが

幼児はまず最初に、徹底的にあらゆるものを「覚えて」いきます。

何かを考えるのは、ある程度覚えた後です。

法則性について考えたりするには、ある程度の知識が必要だからです。

興味はインプットのあとから生まれるものなんですよね。

4. 暗記は煩わしいから良い

さきほど「私が公式を自分で導出できるようになったのは『暗記しろ』と言われたから」だと書きました。

これはかなり逆説的な話なんですが

暗記が苦手な私は「暗記しろ」と言われると、極力暗記しなくてよい方法を考えるんですよ。

それはもう、わずかでもいいから暗記量を減らせる方法を考えます。

一番手っ取り早いのは筋道を理解することですよね。

そういう理屈で、私は高校数学の公式をほとんど覚えずに済みました。

(もちろん、何度も反復しているうちに覚えてしまった公式もありますが)

逆に「暗記しろ」と言われなければ、ここまでがんばって考えなかったかもしれません。

あるいは、暗記が苦じゃなかったら、数学への理解があまり進まなかったかもしれません。

結局暗記してないやん!

と言われるかもしれません。

でも、そんなことはなくて、数学以外では結構頑張って暗記したんですよ。

極力暗記しなくていい方法について考えますが、どうしようもないものは割り切って覚えるしかありません。

そして、そこから興味が生まれることも往々にしてあります。

例えば漢字。

漢字って、偏(へん)、旁(つくり)、冠(かんむり)とか色々覚えないといけないじゃないですか。

すごい苦痛じゃなかったですか?

でも、がんばって覚えてしまうと、今度は漢字の成り立ちとか歴史とかに興味が出てきますよね。

それに覚えかたも、最初はとにかく形を丸暗記するだけだったのが、だんだんと意味を伴って覚えるようになりますよね。

それも、暗記ファーストで興味が湧いてきている証拠です。

地理で覚える地名なんかも、基本的には丸暗記するしかないですけど、覚えてしまうとその地名に少なからぬ興味がわきますよね。

ニュースで聞いたことない地名が出てきても、ほぼ聞き流すだけですけど、社会科で習った地名が出てきたりすると「お?」となりますよね。

5. おわりに

「暗記を強要することで数学嫌いになる可能性がある」みたいな意見に関しては、正直論外だなと思ってます。

数学好きの人からしたら「数学は暗記だ」とか言われても

「うっせーよ。バーカ!」

ってなるだけですよね。

数学を嫌いになる理由がない。

逆に、数学が苦手な人からしたら、「暗記でもある程度解けるよ」と教えてあげることで、少しでも数学に興味を持ってもらえるかもしれないじゃないですか。

「そんなのはダメだ!」と断じても、それこそ「じゃあ自分には無理だな」と思われて敬遠されるのがオチですよ。

あと、最後に、とりあえず何となく覚えていた言葉に、実はちゃんと意味があったと気づく瞬間って凄く楽しくないですか?

マンホール = Man hole (人が出入りする穴)

あ!そういうことか!

ってなりません?

だから、暗記も捨てたもんじゃないと思うんです。

嫌いやけど。

以上です。

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