見出し画像

世にも美しいカスピ海の沈殿だ!

昼間から飲む酒は格別だ。わたしは特に酒飲みじゃないし、むしろビールやハイボールなど何が美味しいのかさっぱりわからない。大人になったらわかる、と言われて数年、もうすっかり大人の年齢だが、やけになった夜か、勇気をつけたい夜にしかお酒は嗜まなかった。でも果実酒はおいしい。ジュースみたいだし、おまけに酔える。崇高だ!
人生にはハイになりたいときがある。日光を浴びたり、空を眺めたり、好きな映画や音楽を楽しむだけでは乗り切れない、大きく重く高くひんやりと冷たい壁がとつぜん目の前に現れることがある。そんなときに壁の上にいて引っ張り上げてくれるでもエールを贈ってくれるでもないが、一時でも壁の存在を忘れさせてくれるのがお酒だ。どうでもいいじゃん〜なんとかなるさ〜って気分にさせてくれる状態異常回復魔法、兼、状態異常悪化魔法である。ドラクエの呪文で言うとパルプンテである。
それを平日の昼から飲むとなると、不健全の体現であり、背徳感に背中がぞくぞくしてなんだか楽しくなってくる。学生時代に学校を無断で欠席して制服姿でいろんなところへ行ったときと同じ気持ちになる。人生にはこういう背徳感と高揚感が乗車するジェットコースターみたいな時間が大切だ。みんな!人生を楽しもう!(無断欠席は両親や学校に多大な心配をかけるし、わたしは欠席しすぎて出席日数が足りなくなり、夏休みを数日返上しなくてはいけなくなったのでほどほどにしよう。わたしとの約束だよ!)


トム・アット・ザ・ファームを見終わった。トムが農場を出て行かない理由がずっとわからなくて、フランシスからの暴力で脳が萎縮して正しい判断を下せなくなったのかと思っていたけど、トム、フランシス、アガーテの三人は共依存の関係に陥っていたんだとやっと中盤で理解できた。ギョームという共通の存在を失い、それぞれがそれぞれの中にギョームの面影を見出して離れがたくなってしまっていたんだと。
サラが来なかったらトムは危ないところまで堕ちていってしまったと思うので結果として彼女が農場まで出向いてくれて良かったと思うけど、知りたくなかったギョームの過去を知ってしまうことになったし、怒っても泣いてもギョームは帰ってくることはないし、モントリオールに帰ってきたトムのどこかすっきりしない顔を見ているとある種のバッドエンドのようなものを感じた。
フランシスは粗暴で、恐喝で相手を支配してくるようなどうしようもない男だが、きれいなオッドアイ、タンゴを踊る逞しい腕、なんだかんだ言いつつも母を愛している姿を見ているとトムが魅入られてしまうのも仕方のないことなのかな、と思えた。
あらすじに愛のサイコ・サスペンスと書かれているのを見てあぁそういう紹介なんだ、と思って、この作品に関してはたしかになんと言っていいかむずかしいところがあるけど、思い込み激しめで不器用で滑稽な愛の映画だとわたしは感じた。
ドランが金髪パーマ眼鏡でライダースを着ていたときがセクシーで目がハートになりました。セクシーサンキュー。おわり。


2021.2.18

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?