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4文小説 Vol.31

関西での開催、しかも金曜日、日帰り圏内とはいえ年休取得で万全を期すには十分な条件が揃った。

セレッソ大阪がパリ・サンジェルマンを迎えた親善試合は、陸上トラックに隔てられ屋根が無いゴール裏の座席でも1万円、割に合わないのは承知で少しでも満喫しようとキックオフまで2時間も余らせて入場し、阪神百貨店名物のいか焼きを頬張ってみたが、快適なのは束の間だった。

混み合ってくると、端の席にかけた者の務めとして人が出入りするたび姿勢を変えねばならず、左隣は男女の学生グループで真後ろは会社の同僚たちか、独り座しているのは私くらいだ。

カメラ片手のお隣は長い脚を大きく広げ、後方のサラリーマンたちは酒が進むほどに会話の声が喧しくなり、選択権があれば間違っても座らない場所で悶々としていたところ、鬱憤を晴らしてくれたのは香川真司のスーパーゴールだった。

―長居の指定席にて

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