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色んな”生きづらさ”を感じた時に寄り添ってくれる本12冊

生きていると、天気に晴れくもり雨があるように、楽しい悲しい怒りの他に『死にたい』とか『生きている理由がよく分からない』とかいう感情に襲われることがあると思う。少なくとも私はそう。
親しい友人と出かけたり、お酒を飲んでみたり、映画を観て泣いてみたり、そういう感情をやり過ごす方法は時と場合によって色々あるけれど、間違いなく、本を読むこともその息苦しさに寄り添ってくれると思う。

息苦しい感情は、誰かに打ち明けるのには少なからず抵抗があるのに、時折自分の心の内だけに留めておくには大きくなりすぎてしまうことがある。
そういうときに、たとえ時空を超えた存在だとしても『分かるよ』『自分も同じだよ』と手を差し伸べてくれる”誰か”がいると分かるだけで、ほんの少しだけ救われたような気分になるのは私だけなのかな?
その真偽は分からないけれど、この中の1冊があなたにとって、そういう存在になることを祈って。

死にたいと思ったとき

軽率に死にたいと思うことがある。自分の存在を自分で肯定できないから。
そういうことを言うと、世の人はメンヘラだとか情緒不安定だとか言うけれど、私たちにとってはそれが事実なのだから、理解できなくてもいいけれど否定せずにそっと見守ってほしいよね。

『車輪の下』 ヘルマン・ヘッセ
私的に解釈するならば中2病を拗らせちゃった青年の心情を美しい言葉で書き綴った1冊。メンヘラを現代っ子の特権と思っている人がいるのならこれを読んで認識を改めてほしい。古典の名著なので。
大体、小説を書きたいと思う人が”普通の”感受性を持っている訳がないと思う。小説家は感情の振れ幅が大きすぎて自分でも消化できないから文字にするっていう労力をはらえるんじゃない?と考えると、文学はメンヘラによるメンヘラのための世界だと思える。太宰治も三島由紀夫も自殺してるし。
ちなみに、この本が好きな方は太宰治の『斜陽』も好きだと思う。
『マリアージュ・マリアージュ』 金原ひとみ
『車輪の下』を絶望の古典とするならば、こちらは現代の絶望とでもいえばいいのかな。私が買ったときには『あなたとしたい、という絶望』という帯がかかっていて、その言葉に惹かれて読んだ。
6編の短編からなる物語集なのだけれど、私は最初の『試着室』が忘れられない。27歳の彼女と21歳の彼氏の物語で、初めて読んだときには彼氏の価値観に近くてあまり共感できなかったのだけれど、彼女の年の方が近くなったときにふと読み返したら身に覚えがありすぎて泣いた。

生きている理由がよく分からなくなったとき

一度でも『生きている理由がよく分からない』と思ったことがある人は、常に心の片隅にその感情を抱えていて普段は見えないふりをしているのだと思う。テストや資格試験前にやけに家具の四隅に溜まったほこりが気になるように、心身ともに疲れると普段は気にならない心の片隅にあるこの感情がむくむくと大きくなっていくように、私は思う。
おそらく、この感情との付き合いは一生だと思うので、適度な諦めに似た共存が必要なんじゃないかな。

『星々の舟』 村山由佳
第129回直木賞を受賞した短編連作小説。6編の短編集からなるのだけれど、手に取るとそれなりに厚くて初めて読むとき一瞬怯んだのを覚えている。
私が好きなのは2編目の『子どもの神様』というお話。妻子ある職場の男性と関係を持つ未婚の女性の話なのだけれど、彼女の”もろさ”に読む度に息をついてしまう。ただの不倫の話だったらたぶんそこまで好きにはならなかったと思う。始まって9行目で『あなた、死にたいと思ったことはある?』と不倫相手の男に聞くくらい弱い女の子なのに、最後は『誰とも分かち合うこともできない、消せない痛み。それさえも、確かに自分だけのものなら――愛してやろうじゃないか。』と腹をくくる強さに、私は何度読んでも憧れを禁じ得ない。
『水やりはいつも深夜だけど』 窪美澄
こちらも6編からなる短編集。特にめちゃめちゃ好きな話がある訳ではないのに、読み終えると無性に愛おしさがこみ上げてくる。どの短編集の主人公も皆、不器用で、どこかしら自分にだぶってみえる。皆ひどく傷つきながらも生を営んでいるから、この短編集の10編目か12編目か、読者がもういい加減飽きてきたなって思う頃には自分がいてもいいんじゃないかと思える。だから好きなのだと思う。

もう頑張れないなと思ったとき

心から疲れきると『ああもう自分は何もできないな』とベッドから身体を起こせない現実にひどく納得しながら、このまま目覚めなければいいのにと思いながら目を閉じる瞬間があると思う。私の経験からいうと、そういうときは燃え尽き症候群だったり鬱だったり、何かしらの心の病にかかっていると思うから、まずはゆっくりと寝て食べてお風呂に入って、適切な医療機関にかかった後で、本を読んで泣いてほしい。誰もあなたの努力を否定しないから怖がらないで。

『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』 クルベウ
エッセイ集は詩的な言葉遣いが多いせいで敬遠する人もいると思うけれど、この本はどこまでも現実的で悲しくなるくらい地に足がついている。信頼できる大好きな先輩から、別れ際に言われるような心からの励ましの言葉が綴られていて、素直に胸に刺さると思う。正直なことをいうと、鬱の病み上がりの今の私ではまだうまく消化できていないけれど、文を読んでいて嬉しかったな。
『波打ち際の蛍』 島本理生
「あなたがどんな状態にあっても、今のあなたを美しいと愛おしいと感じる相手はどこかにいるのよ」という祈りのような小説だと私は思う。
主人公の女の子は精神的な疾患を抱えていて、決して今を生きようと必死に何かをしている訳ではないのだけれど、誰かに認められたい愛されたいっていう気持ちは消えなくて。世間からみたらひどく我儘に見えるその感情も滑稽さも全部、全部包み込んでくれる。優しい世界だと思う。

長すぎる夜の憂鬱さに飲みこまれそうなとき

例えば、眠りたいのにぜんぜん寝れない夜。段々と人がいなくなっていくSNSを横目に、一向に眠れない自分。一人きりの夜は思考が深い闇に飲まれていくからよくないよね。こういう日の夜は長すぎるから、諦めてヘッドボードの灯りをつけてこの世界とは別の世界に逃げてもいいと思うんだ。

『スコーレNo.4』 宮下奈都
今日は寝なくてもいいやと諦めがつくくらいに寝れなさそうな日には、私たちと同じくらい拗らせたある女の子の半生を覗いてみよう。
見た目のいい妹と比較されながら思春期を迎え、初恋の相手を妹に取られるのを内心色々思いながらも黙っていることしかできないような女の子が主人公。時を経て、社会人になっても胸の中に渦巻く感情を相手に伝えることは苦手で、職場でも悪戦苦闘する不器用な姿に思わず『頑張れ』と伝えたくなってしまう。『あなたの頑張りは私が知ってるからね。だから大丈夫』という言葉は、主人公に言っているようで本当は自分に言い聞かせているのかもしれないね。でもそれでも良くない?
『すべての瞬間が君だった』 ハ・テワン
小説はちょっと重いなという夜にはこの詩集を読んでほしい。
『僕は大切な人にとって手触りのいい毛布のような存在でありたいんだ』という一文を読んだとき、この世にこんなに優しくて美しい言葉遣いをできる人がいるんだと知って無性に泣きたくなった。たまにはセンチメンタルでもいいと思う。世の人が何と言おうと、私が許す。

徹夜明けの空に舌打ちしたくなるとき

理由があってもなくても一睡もできずに迎えた朝はひどく落ち込むのは私だけなのかな?空が晴れていても『こんなに天気のいい日を寝不足で迎えるのか…やってらんないわ…』と思うし、雨でも『寝られなかった上に雨かよ…ついてないわ…』と思ってしまうから、救いようがないね。
自分でも面倒くさすぎるヤツだと思うけれど、これくらい感受性が豊かじゃないと生きづらさなんて感じるわけないじゃない。

『何度でもつくりたい絶品おかず438レシピ』 dancyu
徹夜明けの日は取り敢えず”食べたいご飯”を食べてみない?
コーヒーを片手にレシピ本をぼーと眺めて『あ、これ食べたい』と思ったものを食べよう。手作りする気力と時間があれば作ってもいいし、そんな体力がなければ『食べたい料理 名店』とでもググって昼食か夕食に食べに行こう。なんならコンビニでもいいと思う。
『What you are, What you eat.』なんて言葉があるくらいだから、ご飯の時ぐらい自分を甘やかしても誰も怒らないと思うよ。
『強運の持ち主』 瀬尾まいこ
徹夜明けのときくらい、ただ面白くてほのかに希望のある物語を読んでもいいと思うんだ。『元OLが営業の仕事で鍛えた話術を活かし、ルイーズ吉田という名前の占い師に転身』という背表紙のあらすじを読んだだけで、くすりと笑えて、なぜだか元気になれる気がする。
悩みのない人なんていないけれど、小説の世界でくらい悩みを笑顔で解決したいよね。

恋人のいない自分に自信がなくなったとき

愛されたいという感情は厄介で、しばしば他人の誰からも愛されない自分≒存在価値のない人間だと思えるときがある。そういうときは惨めさをお酒で流し込みながら、こう思うようにしている。
『恋はするものではなくて落ちるものなのだから。きっと巡り合わせ』
この祈りのような呪いのような、願掛けのような、正しいのかは分からない信条だけれど、でも少なくとも私はこういう小説に思いを馳せることのできるあなたの感性が好きだってことだけは伝えたいな。

『美丘』 石田衣良
随分昔の恋愛小説を持ってくるなと思われたらごめんなさい。でも、大学生の、自我は十分に確立していながらも年収や肩書、家柄に囚われない”最後の気持ちだけで突っ走れる恋”があるのだとすれば、その代表作は美丘以外に私はないと思うの。
小説だから恋愛の美しい面だけを強調できたのかもしれないとも思うけれど、小説ってそもそもそういうものじゃない?ヒロインの名前を”美丘”にした石田衣良さんの感性がどうしようもなく私は好き。
『マチネの終わりに』 平野啓一郎
美丘に対する恋愛小説を紹介したいなと思って浮かんだのがこの小説だった。『美丘』が”つっぱしる恋”だとしたら『マチネの終わりに』は”思慮の末の恋”なのだと私は思う。『美丘』と大きく異なるのは結婚が前提にあるか否かで、このハードルは思っていた以上に大きいものだと社会人になって初めて身につまされた人は多いのではないかと思う。知らんけど。
映画化もされたのであらすじをご存知の方も多いとは思うけれど、原作では結ばれない相手への葛藤が細かく書かれていて胸を打つので、ぜひ原作を読んでいただきたい。


~Fin~


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