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最近読んで面白かった本を軽くまとめる:1/1~/31

こんばんは、あんどーなつです。
むちゃくちゃご無沙汰していますが、今年1月に読んで面白かった本をまとめます。

今回は
・野の医者は笑う 東畑開人
・二軍監督の仕事 高津臣吾
・微分・積分を知らずに経営を語るな 内山力
の3冊を紹介します。

1冊目はスピリチュアルって胡散臭いと思っているリアリストの人に。2冊目は若手の育成にたずさわっている中堅社会人の方に。3冊目は数字をだして論理だてて説明しろと上司から言われて困っている社会人の方におすすめです。

野の医者は笑う 心の治療とは何か?  東畑開人

この本は、臨床心理士の著者が沖縄のヤブ医者・ヒーラーたち(=野の医者)の治療を実際に受け、フィールドワークとしてまとめた1冊です。
「臨床心理と民間心理療法には違いがあるのか?」そもそも「心が病むってどういうことか?」「心の治療者とは何者か」「心が癒やされるとはどういうことか?」という問いを、フィールドワークの体験から考察しています。

このように書くと非常に堅苦しいように思われるかもしれませんが、著者の底抜けに明るく楽観的な性格と、軽快な語り口でさくさくと読めます。

著者が沖縄の民間心理療法に興味をもったのは、ある患者さんが民間療法をうけ劇的に変化したのを目にしたことがきっかけです。

その患者さんは、長い間妄想に苦しんでいて、近所の人が自分のうわさ話をしていてどこにいっても人に見られているように感じていました。そのため、外出時は帽子・サングラス・マスクをかならず身につけていました。

その患者さんは治療を通して、著者を信頼するようになり、周囲の人間関係で安心できるようになりつつありました。しかし、あるときぱったりと心理療法に来なくなりました。

しばらくしてから著者がその患者さんにコンタクトをとると、その患者さんは帽子もサングラスもマスクもなしに笑顔でクリニックに現れたそうです。その患者さんを変えたのは、沖縄で有名な野の医者だったそうです。

彼女が受けた治療内容をきいた著者は以下のように驚きを記しています。

だけど、彼女は不思議な体験をした。
そのヤブ―(野の医者)は自分の目を見つめさせるだけのものだった。だけど、彼女はただそれだけのことで、唐突に涙が止まらなくなったのだそうだ。
「よくわからないんです。でもそれからあまり色々なことが気にならなくなったんです。なんであんなことを気にしてたんだろうって。本当に不思議です」
私は戸惑った。一体何が起こったのか、分からなかった。
でも、確かに彼女(患者)の状態は改善していた。もしかしたら、一時的な改善なのかもしれないが、不安は和らいでいて、生活がしやすくなったというのは事実だった。
彼女のような重篤な人が、どうしてそんな怪しい治療で、こういう変化が起こるのか、まったく謎だった。こころの治療にはまだまだ分からないことがたくさんある。

これがきっかけで著者は「野の医者」のフィールドワークを始めます。

「低周波で肩こり解決」「オーガニックな健康食品」「うたしショップ」「高酸素カプセル60分2千円」「ハーブとタロット専門店」。なんだかよくわからない怪しげなお店がいっぱいあることに、私は突然気がついた。
私たちの日常は実は怪しい治療者に取り囲まれているのではないか。彼らを「野の医者」と呼んでみたらどうだろう。近代医学の外側で活動している治療者たちを「野の医者」と呼んで、彼らの謎の治療を見て回ったらどうだろう。
私はその思いつきにのぼせ上ってしまった。
普通だったら、ちょっと入れない怪しいお店に入って、怪しいヒーラーたちから怪しい治療を受けるのだ。それって超面白そうじゃないか。
そこまで考えてニヤニヤしていると、この日はさらにもう一つのぶっ飛んだアイディアが降ってきた。
もしかしたら、私たち臨床心理士も野の医者の一種なのではないだろうか。
なんとなく大学で学ぶことができて、病院や学校のような公的機関で働いているから、臨床心理士は普通の世界にいるような感じがするけれど、本当にそうなのだろうか。
だって、心の奥に無意識があるとか、砂箱の中に人形を置いて心を見るとか、コンピューターのプログラムを書き換えるように認知を書き換えるなんて、普通に考えれば怪しくないか。
だとすると、心の治療ってそもそも怪しいものなのではないか。心の治療っていったい何なんだ。

著者はこの謎を解き明かすべく、医療人類学という学問分野をたちあげ、様々な胡散臭い治療を受けまくります。治療内容と感想は本書にゆずります。非常に胡散臭くて面白いので読んでみてください!

民間治療を受けまくっているうちに著者は、野の医者の治療の特性として以下の4つの特徴があることに気が付きます。

1. 野の医者は傷ついた治療者であると同時に、癒す病者である
野の医者は、ほとんどに人が深刻に悩んだ時期があり、それを潜り抜けた後に治療者として活動を始めている。野の医者たちは、自分が病み、癒された経験から得たものを、今病んでいる人に提供している。しかし、完治したわけではなく、病者であるから治療ができ、人を癒すことで自分も癒される。野の医者は、病むことと癒すことが「生き方」になっている。

2. 治療者の見立ては患者の生き方に方向性を与える
野の医者の治療の核心にあるのは、治療セッションではない。治療セッションには、劇的な技や術はない。野の医者は生き方を患者に与える。病んだ人はセミナーやスクールで治療のテクニックを身につけ、治療理論を学び、治療者として資格証を手に入れる。そうすることで、患者は野の医者となし新たな生き方を始める。

3. 心の治療は様々な治療方法がごちゃまぜにされた方法で行われいる
野の医者は、自分の苦しさが癒され、他人の苦しさを和らげられるのであれば、彼らはリンパ・マッサージだろうが、オーラソーマだろうが、現代科学だろうが、目の前にあるものを使う。それも正式なやり方じゃなくていい。
これは近代医学も同様で、次から次に新しい技法や治療プログラムが開発されているが、それらのほどんどは今までの技法を組み合わせたもの。

4. 胡散臭い治療が流行るのは時代がそれを求めているから
今私たちは軽薄でないと息苦しい時代に生きているため、軽薄で胡散臭いものが癒しになる。心の治療は時代の生んだ病に対処し、時代に合わせた癒しを提供するもの。その時代その時代の価値観にあわせて姿を変えていかざるを得ない。

この特徴をふまえて、「心の治療とはなんなのか?」という問いに対し、著者はこのような結論を導いています。

結論:心の治療とは、クライアントをそれぞれの治療法の価値観へと巻き込んでいく営みである。

心の治療はニュートラルではない。無色透明な健康をもたらすものではあり得ない。すべての心の治療が、独自の価値観をもっている。ここにあるべき生き方が含まれている。
それぞれの治療者はそれぞれの価値観をもっていて、それをときにはあからさまに、ときにはひそやかに、クライアントに押し付ける。押し付けるという言葉が強烈すぎるならば、「巻き込んでいく」という言葉の方が適当かもしれない。
もちろん、ほとんどの治療者はそれを意識してやっていない。と言うか、それは教科書の基本として禁じられている。クライアントなりの人生を歩むことを援助すること、それが臨床心理学でも、精神医学でも、そして実は野の医者でも基本とされている。
しかし、それにもかかわらず、私たち心の治療者は意識しないままにある生き方、ある価値観にクライアントを巻き込む。心の治療は無色透明ではないからだ。すべての心の治療が、生き方についての非常に強固な価値観をもっている。治療者とは、その価値観に深くコミットした人たちのことだからだ。

個人的に、
・心を病んでいる人と心の治療をする人はきれいにわけられない
・心の治療には価値観の共感が必要
という2点が面白いなと思います。

すりむいた箇所はかさぶたがはがれたら怪我をする以前と同じ状態に戻るのに、心の治療では新しい価値観を得てしまうから、心を病む前とは同じ状態に戻らないんだなと分かったからです。
心の治療をする人は病んでいる人でもあるので、その価値観は治療をするたびに代わっていくのでしょう。

読み終えて納得したつもりになっていましたが、今書評を書いていて心の治療はつかみどころのないものだなと改めて不思議に思っています。

心の治療の不思議を知りたい人はこちらから。

二軍監督の仕事 高津臣吾

日本プロ野球とメジャーリーグで抑え投手として活躍し、韓国、台湾、独立リーグでもプレーした経験を持つ現役二軍監督の著者が、コーチとしてこんな選手を育てたい、こんな風に育ってほしいとたくさんのWILLを記した1冊です。

2年間、二軍監督をやってみて、「二軍監督の仕事って、結局のところなんなんだろう?」と、時々考えることがある。

本書の前書きにはこのようにあります。球団という組織の中で、自分は仕事でどんな役割を求められているのだろう?何が正しい答えなんだろう?とプロでも疑問に思うことがあるようです。

球団の将来を託せる人材を育てるには、選手の素質と指導者側のイメージ、プラン、一軍二軍フロントスタッフなどの組織が連動することが必要で、そのために様々な会議が行われているそうです。

しかし、著者は既に自分の中に答えを持っています。

最終的に二軍監督として僕が心がけるべきことは、いたってシンプルだと思う。選手が気分よくプレーできるかどうか、その環境を整えることを忘れないということだ。
もちろん、技術を教えることは大切な仕事だ。ただ、どの国であっても、いい野球の指導者というのは、試合で若い選手を送り出す時に、
「頑張ってこい!」
と背中をポンッと押せる人だと思う。
僕は、二軍でそういう仕事をしたい。

個人的に「そういう仕事をしたい」という本人の意思から仕事の役割を決めているのがいいなーと思っています。外から求められている役割をこなすことはサラリーマンとして仕事をするうえでは大事だと思います。

しかし、人材の育成というクリエイティブな要素が強い仕事に関しては、役割をこなすだけでなく、「自分はこんな選手を育てたい」とか「こんな育て方をしたい」という指導者の理念が大事になるのではないかと思います。人変えるためには、その人が付いていきたくなるビジョンを描けるかが大事だと考えるからです。

このような観点で本書を読むと、著者は人材育成に対してたくさんの意思と理念を持っていることが分かります。

僕は試合前や試合中のダグアウトから、若い打者には「思いっきり振れ!」と言い続け、投手には「速い球を投げろ」としか言わない。僕は二軍監督として、彼らにはとこと「自分らしさ」を求めてほしいと思っている。そして、二軍は、限界を追求し、可能性を広げていく場所だと思っている。
僕は、必要なことを自分で考え、コーチを巻き込む練習を選手たちにしてほしかった。日本のプロ野球の場合、コーチが「ちょっと打とうか」とか、「俺、ノック打ってやるから」というコーチの”上から目線練習”が多い。(中略)
違うだろ、と思う。そうではなく、自分でバッティング・マシンをセットして、「コーチ、ちょっと見てもらえますか」と、大人を巻き込んでいくような選手の出現を僕は期待していた。
高校でガッツリ練習漬けだった選手の場合、野球に飽きていることがあり、そうした選手は、ちょっと目を離すとサボってしまう。一方で、高校ではあまり仕込まれていない選手もいて、このタイプの選手にはプロの練習を通じて野球の面白さを伝えていきたいと考えている。そうやって、やる気を引き出したい。

このWILLは二軍監督として求められる仕事の1つ1つに関して書かれています。そのため、自分が求められている役割の1つ1つに対してどんな理念を持つべきなのか?と困っている方には参考になるのではないかと思います。

本書はもちろん、二軍監督の仕事内容を具体的に知るために読むこともできます。二軍で起きた珍事件も書かれているので、野球好きの人にはおすすめです。

気になった方はこちら。

微分・積分を知らずに経営を語るな 内山力

本書は微積をビジネスで活かすにはどんな考え方をすればいいのか?を記した1冊です。
・目標利益から目標販売量・目標売上を求める
・必要な在庫量を推測する
・売り上げを予測する
・品質や顧客満足度を定量的に算出する
・総コストを最小化する方法を導く
ために必要な微積の考え方が説明されています。

大学受験で微積を勉強した人なら、まったく問題なくよめる数学のレベルです。数式でゴリゴリ計算するというより、概念として微積を理解するための本です。

個人的に気に入ったのはこのフレーズです。

現代ビジネスマンの最大の悩みは「いかにして明日を読むか」ということです。実はこれらの例も、すべて先を読むことが求められています。
明日を読むコツは、決して「結果を命中させよう」とは思わないことです。明日を読むのに鋭いカンなど必要ありません。
皆が納得できるように、もっといえば、まわりがぐうの音もでないようなやり方で明日を読めばいいのです。
そうです。この「まわりがぐうの音もでないような明日の読み方」が微分・積分なのです。

「まわりがぐうの音もでないような明日の読み方」が気になった方はこちら。

~Fin~

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