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社会人1年目の私へ

「じゃあお前は港区XXの○丁目担当な」

そう上司に言われても、それがどんなことを意味するのか私にはわかっていなかった。就活ではほとんど出版業界しか受けず、当然受からず、1社だけ内定をもらったザ・営業会社といった会社に入社して、そこで私は一番キツいと言われている新規開拓営業の部署に配属された。

東京都港区、東京タワーがほど近いその地域には足を踏み入れたこともないし、会社がどれだけあってどんな地域なのかも想像がつかなかった。
今のようにスマホがないのでGoogle Mapも使えない。地図を見るとわずか300m四方の小さい小さいエリアだということがわかった。

事務所からは自転車でその場所まで移動する。雨が降っても自転車で移動していた。
港区といえどキラキラと華やかなのは一角だけであり、私が来る日も来る日も自転車で通っていたその地域は数軒の大きなビルがあるものの、小道を入れば本当に小さな会社ばかりで、おもちゃの輸入をしている会社、ワインの卸、デザイン会社、芸能事務所、番組制作、放送作家事務所、何かの部品を作っている製造業…… 世の中にはこんなにいろいろな会社があるのかと驚かされるばかりで、思っていたよりは飽きることなく300m四方に居ることができた。

私は企業を相手にした法人営業だったので集合ポストを見て「(株)」や「(有)」を見つければ、例えマンションの一室でも一切躊躇することなく飛び込んでいった。

お客様は、みんな優しかった。私は話すことと緊張を隠すことが人より少しだけ上手かったので第一印象として「新卒ホヤホヤの新人」として見られることが一切なく、それでも会話の中で実は新卒でここに配属されたんです、と言うと応援してくれたり労ってくれる人がほとんどだった。お茶やケーキを出してくれるお客様もいた。

1年目から成績を出すことができないと上司に容赦なく叱責され、散々泣いたりもしたが、営業として学ぶことも多かった。どんな製品であってもどんな金額であっても、人が人からものを買うことには変わらず、営業の基本は十分学ぶことができたと思う。
なんて、思えているのは10年も経った今だからであり、当時は泣いてばかりいた。来る日も来る日も同じ景色で同じ空を見ていた。

1年目の私よ、5年くらい経つと全国に出張するような仕事に就いているし、10年経つと海外出張も慣れっこになっているよ。
でもそれは毎日毎日同じ場所で泣きながら頑張っていたからなんだよ。頑張ってくれてありがとう。




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