見出し画像

神聖かまってちゃんツアーファイナルが物語すぎた

2020.1.13 Zepp DiverCity Tokyo
メランコリー×メランコリーツアーファイナル

この日のライブはとにかく凄かった。
終盤のとある場面から全ての流れが美しく、
それは紛れもなくノンフィクションなのに
映画か物語の世界に入り込んでしまったかのようで、
帰路の電車の中この三時間は現実だったのか疑ってしまうほどだった。
この記憶が薄れていくのがあまりに惜しく初めて感想を記すことにした。

(私の乱文より定点観測でも雰囲気が分かるライブ動画を見て…)


始まりのオープニングSEから熱気は最高潮だった。
この日私の席は二階の指定席だったので、一階のお客さんが思い思いに手を上げて楽しそうに盛り上がる様子がよく見えた。
こんなにたくさんの人たちが神聖かまってちゃんを愛しているんだと思い既にちょっと泣けた。
グループのベース担当、4人のバランサーであるちばぎんが12年の時を経て脱退する特別なライブなので涙腺が弱くもなる。

けれど始まればかまってちゃんはいつものテンションで、悲しい雰囲気などお首にも出さず、
一曲目の「怒鳴るゆめ」から「るるちゃんの自殺配信」「ゆーれいみマン」「日々カルチャア」とどんどん熱狂は加速していった。
椅子に響いてくるみさこさんのドラムが力強くてとても心地良かった。
グダグダな纏りのないMCを挟んでいくのも彼らのライブ風景で。
途中ちばぎんが、「全員が全員違うこと話してる感じが“かまってちゃん”だなぁって」と苦笑して場が和んだ。

の子が曲間で言うことは衝動任せに滅裂気味なのだが、この日は何度も
「各々のやり方で衝動をくれればいい」、「棒立ちでも座っていても全部俺が感じ取ってやる」と叫んでいたのが印象的だった。
一人も仲間外れになんてさせねえよと、メチャクチャに手を差し伸べてくれる彼らを追った9年間だったなぁ…。

今回新木場ライブに続いて異常に照明に気合が入っていて、「夜空の虫とどこまでも」から始まる4曲は席からいきなり異次元空間に飛んだようでビックリした。
(その後160万円掛けてんだよ!と即座にバラすの子によって無事現実世界に戻された)

16曲目の「ぺんてる」からの子&monoコンビのアドリブ掛け合いを経て始まる「2年」は、歌詞の内容とライブの終わりをじわじわ感じる切なさが入り混じって無性に泣かされた。


ここで一旦メンバーは捌けて、割れんばかりのちばぎんコール。
アンコールはの子のムチャクチャなMCから開幕した。

「さっきぺんてるでめっちゃ泣いてたけど別にちばぎんに対して整理は付いてんだ」
「こんなヤツ別に辞めることになんも思ってねえ」
「(ちばぎんに)あとで処刑だから。このあと断頭台で。処刑ギロチン。
最後に言い残したことは?」


そう問い掛けつつ、ちばぎんが語り始めると何度も遮り妨害するのである。
暴君の子である。
終いに「もう大丈夫俺!なんかもう大丈夫!!」とヤケクソ気味に締めたちばぎんには、爆笑するみさこさんと共に笑うしかなかった。
ちばぎんの12年間の苦労が秘かに偲ばれた。
それでも「やっぱ神聖かまってちゃんが一番カッコいいなって、お前らが見せてくれよ!」と観客を煽るちばぎんは、この日一番格好良く輝いて見えた。

アンコールは唯一ちばぎんのソロパートがある「天文学的なその数から」から、現体制最後の「ロックンロールは鳴り止まないっ」へ続いて勢いは止まらず、
「フロントメモリー」がボルテージを限界まで引き上げてあっという間に三曲が終わってしまった。体感3秒だった。
楽しい時間はいつも一瞬で過ぎてしまうからつらい。

ちばぎんコールが湧き続けてWアンコールが始まると、
ここからはセットリストの話になり、
今日のセットリストは全てちばぎんが自分一人で組み立てたものだと知った。
人生で初めて聴いたの子のデモテープ「怒鳴るゆめ」を一曲目にした話が沁みた。

ここから最後の演目「23才の夏休み」が始まるのだが、
(動画の2:24:07あたり)
いびつな形をしているのに全ての流れがびっくりするほど美しく、もはや映画の世界だった。私の情緒は終わりを迎えた。
今も戻ってこられないまま感想を書いている。



最初彼が持ってきたものが何なのかわからなかった。
何の仕込みかとオペラグラスを向けると、それは年季の入ったドラゴンボール柄のカードダスファイルで。

幼稚園時代から三十年を経た今、わざわざ家から探し出してきたのだろうか…?
今日ちばぎんに内緒でマネージャーに預けていたらしい。

全面シールタイプのカードダスは、昭和後期〜平成初期世代にとってのノスタルジックアイテムだ。
単なるモチーフにすぎないと思っていた。
その実物が今彼の手元に存在している。正直驚いた。

曲中のキラカードは、貰ったわけではなく実はパクったものらしい。
当時ちばぎん少年のお誕生日会があり、そのとき部屋に忍び込み二枚盗んだのだと二千人を前に急な告白が始まった。
盗まれたカードは『キングガンダム一世』と『キングサラマンダー二世』(本当は『邪獣王ギガサラマンダー』らしい)のカードだと言う。

の子「ちばぎんからパクったキングガンダム一世のカードは!
(このファイルの中に)無かった!!」
ちばぎん「ふざけんなよお前マジで!」


笑いながら崩れ落ちるちばぎん。
語られざる物語がリアルタイムで明かされる間、エンドレスで23才のサビを歌わされている我々観客。
この空間は一体全体なんなんだ。

カードダスファイルを覗き込む二人は齢三十も半ばであるが、完全に少年の姿に見える。
残り一枚のカードを「どれどれ?」と覗くちばぎんに「それがね!それがね!」と目を輝かせるの子。
『キングガンダム一世』よりも『バーサル騎士ガンダム』の方がレアだ!とはしゃぐ二人を優しく演奏で見守るmono &みさこ。
実物大ユニコーンガンダムが守護するお台場で、昔悪戯心から盗んでしまったガンダムのキラカードを幼馴染へバイバイと共に返す日。
私が作家だったら担当からこれはクサすぎますよ!!と即ボツを食らうような事象がリアル眼前で起こっている。
「23才の夏休み」は神聖かまってちゃんという物語の壮大な伏線だったなどと誰が思っただろう。
しかしここから綺麗に終われないのが流石のかまってちゃんだった。

歌へ乗せて二枚のキラカードはの子の手からちばぎんの背中へ力強く貼られたが、ほどなく落ちてしまう。
三十年の時を経てカードの粘着力はとっくに失われていたのだ。



「昔幼稚園の頃、ちばぎんから授かった熱い魂は、返した!!
昔幼稚園の頃、ちばぎんから授かった…あはは…!」

泣き笑いのの子と、肩を叩かれ泣くちばぎんに、会場はものすごい雰囲気になっていた。
感極まった二人は人波へダイブして、
(メガネを外し、泣き顔のままダイブするちばぎんが素晴らしかった)
23才のラスサビは最も特別な思いを乗せたまま終了した。

…かに見えたが、曲が止まらぬうちにまたの子が歌い出した。
一曲目に披露したはずの「怒鳴るゆめ」のフレーズだった。
彼の指揮に促され合唱が起こり、
二千人が「るーるるらーら」を唱えると曲が再び色づき始める光景は、何年経っても忘れられなくなるほど美しかった。


開演から2時間半が経ち、さすがに終わりのムードが漂い始める。
ちばぎんへキラカードと共に熱い魂も返せたし、
寂しいけどメンバーも腕を振り上げ続けた我々もやり切った。
あとは締めの挨拶で帰る流れと思いきや、

「止まるなー!お前らぁー!!」
と怒号が響き、
の子だけが無理矢理三度目の「怒鳴るゆめ」を始めていた。

「終わらせねぇぞ終わらせねぇぞ」とるーるるらーらを絶叫。
めちゃくちゃなギターをかき鳴らす彼は完全に駄々をこねる少年そのもので、もう皆泣き笑いの状態だったと思う。
「このライブが終わればもう二度と出会うことはない」と何度も繰り返し「辞めても何も思わない」と言っていた彼が一番激情をぶつけている。
この時間がずっと続けばいいのにな、などと思っていた私の感情を遥かに凌駕していたのはの子さんだったのだ。

その後曲の終わりを三度も四度も繰り返させて(メンバーの付き合いが良すぎる…)とうとう諦めた最後のMCでの
「思い出ってのはいつも綺麗でずりぃな!!」は、深い実感と惜別が込もって妙に泣けた。

の子「いやー、あの、ね。奥さんを大切にしろよ。」
ちばぎん「はははは(笑)」
の子「あと奥さんとか、親とか、もっと甘えていいんだよ。
これはね、けどね、これはやっぱ(今日のライブで)言おうとしてた。」
ちばぎん「そうなの?」
の子「お前はね、不器用。俺とお前、正反対じゃん。
もっと甘えていいんだぜ?」
ちばぎん「いや、ほら。神聖かまってちゃんはほら…。
ずっと甘えん坊がいたからさ?」

この掛け合いがアドリブなのだからノンフィクションの放つ光とは強すぎる。
神聖かまってちゃんはこんなに美しいバンドだったのか…。


最後の最後、MCでちばぎんが
「(沢山の照明、音響スタッフやワーナーの社員含め)この神聖かまってちゃんで今まで出来て良かったと思います。ありがとうございました」
と頭を下げて、皆の大きな拍手がそれを包み、最高に幸せな三時間がとうとう幕を下ろした。


バンドメンバーが退場する。
ベースがボーカルを肩車して下手へ捌け、
それに続くドラムスは後ろに見えるよう大きく手を振り、
キーボードは朗らかに両手を上げる。
途中ボーカルがおぶさったままわざと体勢を崩しその拍子にズボンが脱げ、ベースにもの凄い格好で垂れ下がっている。本当に綺麗に終われないバンドである。

終盤から涙涙のライブだったが、
お陰で最後はいつもと同じ「またね」で笑ってお別れが出来た。
あたたかくて愛おしい最高のツアーファイナルだった。



ちばぎん、
今まで楽しい時間をありがとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?